教養・歴史鎌田浩毅の役に立つ地学

日本海溝・千島海溝地震/4 「日本沈没」に学ぶ巨大災害/91

 TBS系で昨年放映されたドラマの日曜劇場「日本沈没─希望のひと─」が話題になった。2023年の東京を舞台に、地殻の大変動で日本列島が海に沈むという荒唐無稽(むけい)にも思われるストーリーだが、日本海溝・千島海溝地震の発生を予測する上でも参考になる。内閣府は昨年12月、日本海溝と千島海溝沿いの太平洋で起きる巨大地震の被害想定をまとめている。

 ドラマの原作は20世紀を代表するSF作家、小松左京が1973年に発表したベストセラー『日本沈没』で、政治や社会、科学などの観点からさまざまな読み解きも可能な優れた小説である。地学的には日本沈没が起きることはないが、実際に地球内部で起きている現象を数万倍も大きくしたらそうなるかもしれないという、「エデュテインメント(楽しみながら学ぶ)・フィクション」である。

 小説で描かれた地震・噴火の巨大災害の描像は、「大地変動の時代」に突入した日本列島で現実になりつつある。日本列島は4枚のプレート(岩板)がひしめき合う世界屈指の変動帯にあり、海のプレートと陸のプレートの境界にはマグニチュード(M)9クラスの巨大地震を起こす震源域がある。プレートが沈み込む海底では、それぞれ海溝もしくはトラフ(海盆)という凹地が生じている。

 具体的には、今回甚大な被害想定が発表された千島海溝と日本海溝の北部、2011年に東日本大震災を引き起こした日本海溝の中央部、30年代に巨大地震を起こすと想定される南海トラフ、そして南海トラフ巨大地震と同規模の地震・津波の発生が懸念されている琉球海溝である。

スロースリップ登場

 さて、ドラマ「日本沈没」では沈没の引き金となる「スロースリップ」(ゆっくり滑り)が何回も登場した。これは現実にも起きており、陸と海の2枚あるプレートの境目が数日から数年かけてゆっくり滑る現象が時折、観測される。その間はたまったひずみを少しずつ解放するので、大きな地震は発生しない。

 スロースリップは通常の地震計では捉えられないが、地面のかすかな動き(地殻変動)に表れるため、GPS(全地球測位システム)で観測できる。実際に東日本大震災では、スロースリップが本震の起きる2カ月ほど前から発生し、巨大地震の引き金となった可能性がある。

 近年地震が多発する千葉県の東方沖でも、スロースリップが発生した後に比較的大きな地震が起きている。さらに、南海トラフでも5~8センチの地殻変動が観測されることがある(本連載の第45回参照)。よって、日本海溝の北部と千島海溝でも今後、観測が進めば、わずかなスロースリップが確認される可能性がある。

 私の友人の地震学者たちも、ドラマの田所雄介博士のように日本列島の海域で巨大地震が発生する地点と時期を特定することに全力を挙げている。現実に日本が沈没することはないとしても、巨大地震の発生自体は避けられない。いつか必ず巨大地震が起きることを前提に、災害に関する正確な知識を事前に持ってほしい。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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