「じゃがいも1袋」を正しく栄養素に変換 シルタスのアプリはなぜ“買い物するだけ”で食事管理ができるのか
小原一樹 シルタス代表取締役 買い物するだけで食事管理
スーパーで買い物をするだけでアプリが自動的に食事管理をしてくれる。「無理せずゆるく」が最大の特徴だ。
(聞き手=市川明代・編集部)
買い物データを基に世帯ごとの食事内容を管理し、不足している栄養素を特定して必要な食材やレシピを提案するアプリ「SIRU+(シルタス)」を開発しています。自治体などと提携し、生活習慣病などの健康課題を解決する取り組みを進めています。(挑戦者2022)
類似の食事管理ツールと異なるのは「何を食べたか」ではなく、「何を買ったか」に注目している点です。実際に食卓に並んだメニューのデータから使われている栄養素を特定するのは難しく、かといって写真を撮って記録したり材料を入力したりするのも面倒です。
当社はスーパーのポイントカードと連携し、個々の属性と買い物履歴が分かる「ID-POS」と呼ばれるデータを自動的に取り込めるようにしています。
数件の特許を取得しています。主要な技術は二つ。一つは、買い物データとして登録される商品名を栄養素に変換する技術です。例えば「タマネギ1袋」であれば、その時点のその地域の市場価格や店舗の販売価格の統計から個数や重さを割り出します。総菜売り場の「幕の内弁当」であれば、平均的な「幕の内弁当」の内容やその店舗の個別データから、栄養素の含有量を判別します。現時点でスーパーに置いてある商品の90%を正しく変換できています。
もう一つは、買った物がどう消費されているかを推定する技術です。年齢別の必要カロリーや栄養素、自治体ごとに異なる消費傾向に加え、家庭の買い替え頻度などから、食の嗜好(しこう)や健康志向を判定し、食生活を類推します。膨大なデータを収集して機械学習させることで、サービスの精度を高めています。
大学卒業後、業務用冷凍庫を製造している町工場に就職し、3年間勤務しました。食品の管理や評価の難しさを体感し、「食」に関心を持つようになりました。
妻とともにためた900万円を資本金に、2016年に創業。町工場勤務時代の同僚のツテで、大手スーパーの上層部に事業案を持ちかけたところ、すぐに秘密保持契約を結ぶことになり、協力を仰ぎながら2年かけて開発を進めました。管理栄養士やエンジニアを採用して給料を払い始めると資金が枯渇し、窮地に追い込まれましたが、18年に1億円の資金調達にこぎ着けました。
自治体と連携
19年3月にサービスを開始し、福岡を中心に使われている交通系電子マネーの「nimoca」や静岡県の「LuLuCa」と提携。スーパー7社、450店舗で導入されています。コンビニエンスストアや大手全国スーパーでも導入の動きが進んでいます。
高齢化社会に突入し、自治体では市民の健康管理が大きな課題になっています。現在の収益源は自治体の補助金ですが、アプリのおすすめ食材を購入すると店頭価格の1割引きになるなどのサービスも始めており、今後は食品メーカーなどにも負担を求めることにしています。
青森県の弘前大学を中心に進められている、生活パターンと病気の予測に関する研究にも参画しており、買い物の傾向と健康度に相関関係があることが分かってきました。今後はサービスの使い勝手を高めるとともに、医療機関などと連携し、活用方法を模索していきます。
企業概要
事業内容:食事管理サービスなどヘルスケアサービスのシステム開発
本社所在地:東京都港区
設立:2016年11月
資本金:1億円
従業員数:13人
■人物略歴
おはら・かずき
1985年生まれ。千葉県出身。2011年横浜国立大学卒業。特殊冷凍庫を扱うベンチャー企業を経て、16年シルタス(旧アドウェル)創業。19年3月から買い物データによる食事管理サービス「SIRU+」を開始。36歳。