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「泥沼化」した東大紛争 前代未聞!入試中止の「舞台裏」 特別連載・サンデー毎日が見た100年のスキャンダル/12〈サンデー毎日〉

「東大紛争」本郷キャンパス・安田講堂への放水(1969年1月)
「東大紛争」本郷キャンパス・安田講堂への放水(1969年1月)

 1969(昭和44)年 安田講堂攻防戦

 国立大前期日程試験の合格発表が行われ、今期の大学入試も山場を越えた。高校の合格実績は今も昔も世間の注目の的だが、1969(昭和44)年春の受験地図は異様だった。安田講堂攻防戦に象徴される「東大紛争」泥沼化が招いた前代未聞の東大入試中止である。

〈東大に入学するつもりで勉強してきた〝秀才〟たちはどこにおさまるのか。彼らはきっとぼくの志望する大学に押しかけてくるだろう。(中略)いい迷惑だ。いったい、こんな世の中にだれがしたのだ〉

 予備校生の悲鳴を本誌こと『サンデー毎日』1969(昭和44)年1月19日号が伝えている。前年1月、医師研修のあり方に異議を唱える学生らの医学部ストライキから始まった東大紛争は、3月の卒業式中止、夏には全学共闘会議(全共闘)系学生による安田講堂占拠とエスカレートし、12月末、69年度入試(同年4月入学)の中止が決まった。目標を失った東大志望者も気の毒だが、合格枠を横取りされる他大受験生の恨み節はもっともだ。

 事実、国立大一期校の合格発表を速報した本誌4月6日号によると、東大志望者が多く横滑りした京大は、文学部で東京勢の合格者数が前年の3倍になる一方、京阪神勢は半減。ボーダーラインも急上昇し、文学部と法学部は合格最低点が前年の最高点を上回った。

 半面、受験者数では京大や、同じく受け皿となった一橋大も前年並みだった。競争激化を嫌う層が私立大に流れたからだ。早稲田大・政経の競争率は前年の10・4倍が13・3倍に、慶應大・文は12・7→14・4倍、中央大・商は7・2→18・6倍と軒並み上がった。

 受験地図を迷彩色に塗った東大の入試中止は、安田講堂に籠城(ろうじょう)した学生らと機動隊による69年1月18、19日の〝攻防戦〟を見れば、当然の成り行きとも思われた。しかし実際には政治を巻き込んだ暗闘があった。もともと東大に入試中止を迫ったのは政府だ。東大の加藤一郎総長代行は68年12月29日、坂田道太文相との会談を経て入試中止を決定。ただし、1月中旬までに授業再開の見通しが立てば、入試復活への再検討を行うという余地が残された。

 東大の〝治外法権化〟は許さない

 この条件を満たすために東大当局は機動隊導入を決めたという文脈になるが、加藤総長(69年4月就任)は〈入学試験の実施をきめる時期と、安田講堂をめぐるいろいろな動きがかさなったので、なにか入学試験を強行するために警察力を入れたように、外では受け取られている面がある〉と当時のインタビューで述べている(東京大学新聞社編集部編『大学問題』)。

 安田講堂の占拠解除後も政府は入試復活を認めなかった。その「舞台裏」を本誌2月9日号は記す。佐藤栄作政権下、自民党の田中角栄幹事長は入試中止に反対する野党対策上、〈復活への動きをみせた〉という。だが、全共闘系を除く学生代表が東大当局と1月10日に結んだ「東大確認書」に同党文教族が猛反発した。

 確認書は学生の「自治活動の自由」を認め、教授会に限らず学生や職員も「大学の自治」の担い手だとうたった。当たり前の文言にも映るが、佐藤首相自身、〈確認書は絶対、容認できない〉と断言。記事は〈入試をやるかやらないか(中略)そういう問題はすべて確認書が破棄されてから話合われるべきことだ〉とする文教族議員の強硬論を載せている。折しも「70年安保」を目前に、東大の〝治外法権化〟を許さないという政権の固い意志だった。

 安田講堂を封鎖した学生らは「大学解体」を叫び、火炎瓶を投げたが、政治のリアルパワーには1学年を丸ごとなくす力があった。

 本誌2月2日号で〝落城〟後の学内をルポした劇作家の寺山修司は、東大とは国家のために「頭脳に階級を与える大学」と表現した。

〈東京大学のない日本は不幸だが、東京大学を必要とする日本はもっと不幸なのだ〉と寺山は書いている。

「サンデー毎日3月27日増大号」表紙
「サンデー毎日3月27日増大号」表紙

 3月14日発売の「サンデー毎日3月27日増大号」には、ほかにも「超速報! 東大・京大 国公立前期 合格者高校別ランキング」「アイドルが語る『僕が学び続ける理由』 薮宏太 浮所飛貴」「ウクライナ危機!寺島実郎の全面分析 日本の民主主義よ 専制、ポピュリズムの罠に陥るな」などの記事を掲載しています。

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