大手メディアの皇室記者は「いき過ぎ報道」の検証を 社会学的皇室ウォッチング!/26=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉
秋篠宮悠仁さま(15)の筑波大附属高(東京都文京区)への進学について、大手メディアの報道は不十分だと思う。提携校制度による進学は「皇室特権」利用ではないかという一部週刊誌の報道を、宮内庁担当記者が十分に検証していないからだ。
悠仁さまが利用した「提携校進学」は、お茶の水女子大の附属校の児童生徒が中学・高校進学時に、筑波大の附属校に進めるようにする制度。逆に、筑波大の各附属校の児童・生徒にも、お茶の水女子大附属への進学の道が開かれる。
筑波大の永田恭介学長は2月24日の定例記者会見で、提携校進学制度が悠仁さまのための「特別制度」だとの指摘について、「毎年若干名の入学者が出ており、制度は今後も継続する。(皇室特権だという)見方は当たらない」と強く反論した。
制度は2017年に設けられた。永田学長は会見で、5年限定であった制度をさらに27年まで延長すると述べた。
お茶の水女子大附属中から筑波大附属高への進学では、(1)「最優秀グループ」に入るなど「お茶の水」内部の推薦条件をクリアし、内部選考にパスする必要がある(2)筑波大附属高が第1志望でなければならない(3)5教科の学力検査も一般生と一緒に受ける必要がある――という。
(2)は他高との併願ができないということだ。つまり、学力検査を受けるものの「お茶の水」の推薦基準のクリアが最も重要な条件である。永田学長の言う「若干名」とは10人に満たない数人のことだろう。「お茶の水」の優秀な生徒がみな筑波大附属高に進むわけではないだろうから、悠仁さまは学校で10番前後までの成績だったと推測できる。
「裏ルート」は本当か
一部週刊誌は、提携校進学制度について「お茶の水から筑波への裏ルート」などとし、「悠仁さまの筑附中進学のために紀子さまが主導して設けられた制度」と書いている(『女性セブン』3月3日号など)。同誌は、「制度はできたばかりで、利用実績にも乏しい。運用も弾力的(中略)。そもそも、お茶の水の関係者や、子供を通わせている保護者でさえ制度の詳細を知らされていない」などと記した。多くの週刊誌も同じような情報を書き続けている。
まったくのフェイクニュースである。
筑波大とお茶の水女子大は2016年9月1日、大学間連携協定を締結した。その調印式で、お茶の水女子大の室伏きみ子学長(当時)は「大学改革を含む様々な教育課題の一つに、国立大学の附属学校の存在意義があるが、両大学の持つリソースの一層の活用を含めた先導的な取組を広く発信することで、新たな附属学校教育の開発・構築とわが国の初等・中等教育の向上・発展につなげていきたい」と述べた。
いま、国立大学では生き残りをかけた連携が各地で進んでいる。筑波大とお茶の水女子大は、師範学校をルーツとする二つの大学がパートナーとなり、それぞれの資源と強みを活(い)かし、協働して人材育成を図ろうとしている。
例えば、双方の附属高は連携して「キャリア教育プログラム」を構築している。また、筑波大附属高の生徒は、隣接するお茶の水女子大の図書館を利用できる。立地を活かし、文京区の文教地区での連携を進めているのだ。
さらに言うと、両附属中では全員が内部進学できるわけではない。進学先が多様であった方が生徒募集にも有利である。制度は延長されるというが、今後成果が上がれば、連携はさらに深まっていくであろう。
提携校進学制度は、大学間協定の一部として両大学が議論のうえ、中等教育の充実を目指して設計されたものだ。さまざまな機関決定を経て調印に至り、記者発表までされている。
このような大学間の連携協定が、「紀子さま主導」で設けられるほど大学の自治は軽くない。また、どんな教育機関でも推薦基準の適用は極めて厳格だ。
これまでの一部週刊誌報道について、私は大学人のひとりとして「嘘を書くにも程がある」と言いたい。
保護者に制度の詳細が知らされていないというのも事実ではない。国立の中学を受けさせる保護者の関心の一つは、内部進学がどのくらいなのかにある。提携校進学制度について入学前に説明されているはずだ。逆に、推薦基準が曖昧で恣意的であれば保護者たちの猛反発が起きているであろう。
驚くべき鈍感さ
『女性セブン』(1月1日号)は、紀子さまは悠仁さまの中学進学時(2019年)にこの制度を利用しようとしたが、ちょうど小室圭さんの問題があり秋篠宮家への風当たりが強かったので断念したと書く。そうなのだろうか。この時は推薦基準をクリアできなかったのではないか。
同誌は、筑波大附属高では昨年9月から大規模改修工事が行われており、悠仁さま入学に備えたものだと筆を進める。国立大学法人の予算は前年度に決まる。つまり、悠仁さまが中学2年生の時から推薦が決まっていたことになるが、そんなことが本当にあり得るのか。
皇室情報を宮内庁にもっとも近いところでウオッチする大手メディアの皇室担当記者は、なぜ、週刊誌報道を検証しないのだろうか。永田学長の「特権」否定に全く触れない新聞まであった。驚くべき鈍感さである。
一方で、新聞広告には「悠仁さま名門国立高『試験スルーで合格』 紀子さまの高笑い」(『女性セブン』2月3日号)などとタイトルが堂々と掲載されている。記事のかなりの部分はインターネットで無料で読める。
大手メディアは、現実には大きな影響力がある週刊誌報道を無視し、何の検証もしていない。そのために、悠仁さまの「皇室特権」利用が「事実」であるかのように流布している。
宮内庁記者クラブに所属する記者が発する情報だけが、「正しい」情報だった時代はとっくに終わっている。雑誌やインターネットの言説に惑わされる読者たちに真実を知らせることが、宮内庁担当記者の宮内庁担当たるゆえんではないか。この問題の検証はジャーナリストとしての責務ではないか。
読者の関心は高い。皇室記者としての矜持を見せてほしい。