週刊エコノミスト Online

《戦時日本経済》主要10社新年度実質GDPは平均2・7%、スタグフレーション警戒=編集部

1㌦=120円も視野に入る(2007年7月) Bloomberg
1㌦=120円も視野に入る(2007年7月) Bloomberg

経済見通し 実質GDP成長率2%超もスタグフレーションを警戒=中園敦二

 新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、景気は持ち直すだろうが、ウクライナ情勢がさらに悪化すれば、国際商品価格の上昇による悪影響が大きくなり、企業収益や個人消費に下押し圧力がかかる──。主要10社への「2022年度経済見通しアンケート調査」からは、こんな結果が得られた(表)。(戦時日本経済 特集はこちら)

 各社がリスクや不確定要因として挙げるのは、ウクライナ危機の長期化と、それに伴う原油をはじめ資源価格のさらなる上昇、インフレ(物価上昇)だ。「世界的にスタグフレーション・リスクが増大」(クレディ・スイス証券)といったコメントも見られた。スタグフレーションとは、景気後退とインフレが同時に進行する現象で、1970年代のオイルショック時に日本や米国で発生。市民にとって非常に厳しい経済状況となった。

原油150ドル

 実質GDP(国内総生産)成長率見通しの最高は、野村証券の3・7%、最低がBNPパリバ証券の2・0%だった。10社平均は2・7%で、政府の3・2%よりも低い。

 BNPパリバ証券は「コモディティー価格急騰で、欧州、新興国を中心に世界はスタグフレーションのリスクに直面し、日本も家計、企業の実質所得が抑制され、不確実性の高まりで設備投資は先送りされる」とみる。最高を予想する野村証券は「感染症収束とともに経済成長は加速する」としたうえで、「短期的には供給制約の影響から経済活動の停滞が続く可能性があり、ウクライナ紛争の影響で成長スピードは抑えられる」と、決して楽観はしていない。

 日経平均株価については、最安値予想がBNPパリバ証券の2万3000円(5月)で、全般的に最安値予想の時期は4、5月が目立った。最高値はニッセイ基礎研究所の3万3000円(23年3月)。最高値予想の時期は、年度後半が多かった。23年3月に最高値2万9000円を予想するオックスフォード・エコノミクスは「交易条件の悪化が企業業績の重しとなり、急落からの自律反発後、株価は上値が重い動きを予想」。

 また、「有事の円買い」が見られなくなったドル・円相場はどうか(3月17日時点で1ドル=118円台)。最も円安を予想するのは、BNPパリバ証券の同126円(12月)だ。これに対して、最も円高の1ドル=105円を予想するのは、第一生命経済研究所。円高を予想する時期は年度初めが多く、年度後半に向け円安方向を予想する。三菱UFJ銀行は「ウクライナ危機の早期収束は見込みがたく、この先も円・ドルともに買われやすい展開が続くが、金利差から円安圧力がやや強まる見込み」とする。

 注目の原油価格(WTI)は、最高値は野村証券と三菱UFJ銀行、BNPパリバ証券の1バレル=150ドル、最低が野村証券の同60ドル。年度前半に最高値をつけ、後半に向けて下がると予想する。

 最高値を130ドル(4月)と予想するニッセイ基礎研究所は「ロシアからのエネルギー供給が途絶した場合、深刻な電力不足によって経済活動が制限される恐れがある」と、原油はじめ資源価格動向を注視する。

日銀総裁人事

 資源価格の高騰で気になるのが、物価上昇率である。生鮮食品を除くコアCPI(消費者物価指数)が2%を超えると予想するのは野村証券(2・1%)の1社だけだったが、4社が1・5%以上を予想する。日銀は1・1%。後述する「インフレ」をキーワードに挙げ、22年度末のコアCPIを1・7%と予想する第一生命経済研究所は「エネルギー価格や食料品といった身近な品目で物価上昇が続くとみられる」。

 22年度の日本経済を展望するキーワードについては、コロナ関連、インフレ、ウクライナ危機(紛争)が挙げられた。

「コロナ」は「収束に向かう予想の中で、ポストコロナの成長戦略がどうなるか注目される」(日本総合研究所)。ニッセイ基礎研は「スタグフレーション」を挙げ「日本は欧米と比べて物価上昇率は低いが、景気の回復力が脆弱(ぜいじゃく)で資源価格の高騰や海外経済の減速への耐久力が弱い」と指摘する。

 このほか、「日銀総裁・副総裁人事」を挙げたみずほ証券は「日銀の異次元緩和は不変という前提で為替は円安水準にあるが、その前提が変わるようだと円高が進み、日本の景気・物価を押し下げる」とする。

「反リフレ機運の高まり」を挙げたBNPパリバ証券は「年内の政策転換はハードルが高いが、ポスト黒田で非リフレ派政策への転換も」と予想する。「人的資本投資」を取り上げた大和証券グループは「人的資本は労働生産性を引き上げ、『成長と分配の好循環』を実現するうえでのカギ。諸外国に対して過小な人的資本投資を官民挙げていかに活性化させるかが喫緊の課題」としている。

(中園敦二・編集部)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事