新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

週刊エコノミスト Online マンション管理新時代 

4月スタート「マンション管理計画認定制度」の六つの課題=日下部理絵

認定を受けるためには、多くの管理組合が長期修繕計画を作り直さなければならない……(本文と写真は関係ありません)
認定を受けるためには、多くの管理組合が長期修繕計画を作り直さなければならない……(本文と写真は関係ありません)

認定制度の“死角” 周知、費用、長期修繕…… 直面する「六つの課題」=日下部理絵

 改正マンション管理適正化法の施行を受けて、4月からマンションの管理状況を地方自治体がチェックする新制度「管理計画認定制度」がスタートした。ただ、制度の周知や認定にかかる費用など、制度を実際に機能させるには課題も多く見受けられる。ここでは六つの課題を指摘したい。(マンション管理新時代 特集はこちら)

 課題1 情報難民の「自主管理」

 ほとんどの自治体は新型コロナウイルス対策に忙しく、認定制度の根拠となるマンションの「管理適正化推進計画」の作成や周知まで手が回っていないのが実情だ。そのため、日ごろから管理意識が高い区分所有者や管理会社のフロント担当者から通知された管理組合でなければ、ほとんど制度の存在を知らないと言ってよい。

 特に問題なのは、管理会社に管理を委託せず、管理組合自身が管理している「自主管理」のマンションだ。これらのマンションは、管理会社への高い委託費用に耐えられなくなったり、業務の委託を断られたところが少なくなく、管理不全に陥っている可能性がある。本来、最も情報を伝えなければならないところに情報が届かない恐れがある。まずは、「情報難民の管理組合」にどう周知するかが課題だ。

 課題2 5年ごとに予算確保

 管理組合の会計は、「予算準拠主義」である。管理組合の収入と支出は予算に基づいて行うため、総会で次期の予算案を議題に上げ、承認されなければいけない。認定制度の必要性はもとより、2万~4万円とされる認定制度の費用が、いまだいくらかはっきりしない状況下では、予算の確保すら難しいのではないか。

 一方、新築マンションであれば、開発業者が費用負担するため、当初の認定費用負担の問題はクリアされる。しかし、認定制度の「5年」の更新期限を迎え、費用対効果がないと判断された場合、既存マンションと同じ状況に陥る。認定制度の費用をどう捻出するかが大きな課題とされる。

 課題3 修繕計画の大幅見直し

 認定制度を見据えて、国土交通省は昨年9月、マンションの長期修繕計画等および修繕積立金のガイドラインを改定した。長期修繕計画の改定は13年ぶり、積立金の改定は10年ぶりとなる。既存マンションの長期修繕計画の計画期間は、これまで「25年以上」だったが、「30年以上」に変更された。この点は、認定制度の基準にも盛り込まれている。

 国交省の最新の「マンション総合調査」(2018年度)によると、長期修繕計画を作成している管理組合の割合は90・9%。このうち、計画期間は「30年以上」が60・0%と最も多く、次いで「25~29年」が12・7%、「10~14年」が11・3%、「15~19年」が6・1%、「20~24年」が4・4%と続く。

 つまり、認定を受けるためには、約1割の管理組合で新規に長期修繕計画を作成する必要がある。すでに計画がある約4割の管理組合でも、計画期間を30年に延ばした長期修繕計画を作り直さなければならない。また、計画期間30年以上の割合は、単棟型では63・4%に対して、団地型では46・4%とよりハードルが高い。

 認定制度では計画の見直しは5年間とされるが、同調査によると長期修繕計画の見直し時期は、「5年ごとを目安に定期的に見直している」は56・3%とされ、「修繕工事実施直前に見直し」が12・5%、「修繕工事実施直後に見直し」が10・1%と22・6%も10年近く見直されていない。さらに、「見直しを行っていない」マンションも5・7%ある。

 計画期間30年以上となると、2回分の大規模修繕の費用が勘案されることになる。修繕計画の見直しにあわせて「修繕積立金の値上げ」は不可避だ。特に高経年マンションには、年金暮らしの高齢所有者が多く、死活問題にもなりかねない。合意形成は極めて困難が予想される。

 課題4 フォローアップ体制

 認定を受ける際にはマンション管理士などの支援が見込めるが、もし非認定の結果が出たり、採点が低かった場合はどうするのか、という点が現行制度からは明らかでない。例えば旧耐震基準のマンションの耐震工事が進まないのは、資金面の問題だけではない。耐震診断を受けた結果、耐震基準不適合と「重要事項説明書」に記載されることを恐れるためだ。

 認定制度も同様に、資金や労力をかけて資産価値向上どころか、価値が下がるだけならば、管理組合の理事長など役員は真剣に取り組まない可能性がある。非認定のマンションには、地方自治体が「助言・指導・勧告を行う」とされるが、どんなフォローをしてくれるか、各自治体の管理適正化推進計画には明記される必要がある。

 課題5 インセンティブの有無

 管理組合は組合員の多数決で合意形成する。組合員誰もが納得するようなインセンティブがあるかないかは大きい。今回の制度では、認定されると住宅金融支援機構の長期固定住宅ローン「フラット35」や「マンション共用部分リフォーム融資」の金利が引き下げられることに決まったが、認定・非認定ともにさらなるインセンティブがあれば、加速的に制度が広まるのではないか。

 例えば、評価内容に応じて、自治体が戸数分の備蓄食料などの備蓄品、ゲリラ豪雨に備えて土のうなどを贈呈することが考えられる。また、管理組合が望む勉強会の講師を無料派遣したり、一定期間エントランスに飾れる絵画や観葉植物をレンタルしたりすることなども、管理組合側の意欲を高めるであろう。さらに、フォローアップ体制にも通ずるが、長期修繕計画の作成を無料援助することも考えうる。

 大阪市は今年3月、マンション管理適正化推進計画の案を示した中で、耐震診断の実施を自治体独自の項目に加える一方、耐震診断・改修の補助制度もすでに設けている。自治体独自の助成や補助制度を組み合わせることで、マンションの資産価値はもとより、地域の価値や安全性の維持・向上にもつながる。合意形成を促進させるインセンティブは不可欠だ。

 課題6 乱立する類似制度

 管理認定制度以外にも、マンション管理業協会による「マンション管理適正評価制度」、日本マンション管理士会連合会による「マンション管理適正化診断サービス」、東京都による「優良マンション登録表示制度」などが乱立する。管理組合の理事(役員)が選出されるたび、説明する管理会社の担当者も大変だが、短期間での輪番が多い理事に理解を求めるのも酷ではないか。制度の整理も必要だ。

(日下部理絵・マンショントレンド評論家)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事