経済・企業

EVで巡る日本のSDGs最前線②森林に放置の未利用材や製材所の端材からバイオマス燃料、発電所で真庭市の全世帯を賄う規模の電気を発電、付加価値は52億円に

走行時のCO2排出量ゼロのアウディEVで真庭市のバイオマス発電所を訪問
走行時のCO2排出量ゼロのアウディEVで真庭市のバイオマス発電所を訪問

前回まで:アウディが電気自動車(EV)でSDGs(国連が提唱する持続可能な成長目標)に取り組む先進自治体を巡るプレスツアーを実施。100%再エネでエネルギーを賄う岡山県真庭市の市庁舎を訪問し、バイオマスボイラーなどを見学した。

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 岡山県真庭市役所の後は、アウディの電気自動車(EV)で市内のバイオマス集積基地とバイオマス発電所を訪ねた。市役所から国道181号線を東に移動、米子道の久世インターチェンジ(IC)すぐ脇の真庭産業団地の中にある。

森に放置の枝葉や製材所の端材も材料に

 最初に見学したのが、真庭木材事業協同組合の「真庭バイオマス集積基地」だ。真庭市の製材業者20数社が運営している。第1工場(2009年3月完成、面積1.1㌶)と第2工場(14年完成、面積2.4㌶)があるが、今回訪ねたのは、第2工場だ。

 伐採で発生した間伐材など建材では使えない丸太を大型の破砕機でチップにして、バイオマス発電所用の燃料を作っている。ツアーを案内した協同組合総務課の藤井瑞穂さんは、「日本にはバイオマス発電所は10か所以上稼働しており、丸太をチップにして燃やしているのはどこも同じ。しかし、真庭は間伐材に加え、森林に放置されていた葉、枝、樹皮や製材所で出る端材も加工して燃料にしている」のが特徴と言う。

真庭市のバイオマス集積基地では、森林に放置の未利用材も材料として受け入れる
真庭市のバイオマス集積基地では、森林に放置の未利用材も材料として受け入れる

真庭の山がきれいになる効果も

 伐採業者はこれまでこうした葉や枝、樹皮を山に捨てていた。それが、雨季には大規模な土砂災害の原因ともなった。製材業者は大量の木材の切れ端を、有料で産廃業者に引き取ってもらっていた。しかし、集積基地が出来てからは、逆に、資源として売れるようになった。また、山間部に捨てられていた枝葉や樹皮が基地に持ち込まれることで、「真庭の山がとてもきれいになった」(藤井さん)副次効果もあった。

 丸太は乾燥させてからチップにした方がよく燃え、発電所で高く売れる。伐採したばかりの木の水分量は50~60%もあるので、集積基地で乾燥させる。乾燥させると丸太は白くなる。昨年、発電所に持って行ったチップの平均含有率は38%。「この水分量でようやく採算が合う」(藤井さん)という。

製材所の端材のほか、森林の伐採時に出る大量の枝葉もバイオマスの原料になる(真庭市バイオマス集積基地)
製材所の端材のほか、森林の伐採時に出る大量の枝葉もバイオマスの原料になる(真庭市バイオマス集積基地)

3000㌧の丸太が1月で空に

 丸太は集積基地に3000㌧置かれているが、毎日チップを作るので、丸太の在庫は1カ月も経たないうちに使い切ってしまうという。最近は、岡山市内から丸太や端材が持ち込まれることもある。

 年間のバイオマス燃料の出荷額は7万㌧、そのうちの4万5000㌧が真庭市内、残りを岡山県の海沿いや兵庫、鳥取県など市外に販売している。集積基地の従業員は20名ほどで、地元の雇用にも大いに貢献している。

バイオマス集積基地に集められた針葉樹の枝葉。実は、間伐材丸太よりもこちらの方が価値があるという
バイオマス集積基地に集められた針葉樹の枝葉。実は、間伐材丸太よりもこちらの方が価値があるという

年間3000人のバイオマスツアー

 真庭市では、2006年からバイオマス施設の見学ツアーを実施しており、例年は3000人、昨年は新型コロナの影響で少し減ったが2500人の見学者があった。中学や高校の修学旅行コースなどに組み入れてもらうことで、湯原温泉など地元の宿泊施設にもお金が落ち、地元観光業の活性化にも役立っている。

間伐材の丸太は、粉砕機でバイオマスチップに。木の良い香りが漂う(真庭市バイオマス集積基地)
間伐材の丸太は、粉砕機でバイオマスチップに。木の良い香りが漂う(真庭市バイオマス集積基地)

バイオマス発電所は2015年に稼働

 次は、同じ団地内にある「真庭バイオマス発電株式会社」に移動した。CLT建材国内首位で、1998年から自社でバイオマス発電施設を運用していた銘建工業が中心となり、真庭木材協同事業組合など10社が出資し、2013年2月に会社設立。41億円をかけて発電施設を建設し、15年4月から稼働を開始した。

 事務長の長尾卓洋さんの案内で、ボイラーをはじめ、発電機、制御室などの様々な施設を見学した。

発電量は1万㌔㍗時、真庭の全世帯の電力を賄う規模

 長尾さんによると、「発電所の発電規模は1万㌔㍗時で、一般家庭の2万2000世帯分。真庭市の人口は4万4000人弱、世帯数は1万7600世帯なので、真庭の全世帯を賄える計算」という。

 バイオマス燃料は、前述の集積基地のほか、真庭市内の11の登録業者から購入している。

 この発電所は、「再エネの固定価格買取制度(FIT)の適用を受けている」(長尾さん)。バイオマスが、山間部の枝葉や樹皮などの未利用材由来か、あるいは、製材所から出た一般の木材由来かで、FITの買い取り価格が違う。前者で発電された電気は1㌔㍗時=32円、後者は同24円で買い取ってもらえる。実は、山間部に捨てられている未利用材由来の方が、FITでの買取価格は高いのだ。

高さ25㍍のバイオマスボイラーで高圧の蒸気を作り、発電機を回す(真庭バイオマス発電)
高さ25㍍のバイオマスボイラーで高圧の蒸気を作り、発電機を回す(真庭バイオマス発電)

水分含入量減るごとに買取価格アップ

 バイオマス燃料の買い取り価格もその由来によって違ってくる。そのため、「トラックで持ち込まれた燃料は重さを計測するほか、運転手から燃料の由来などが書かれた情報カードを受け取る」(長尾さん)。含有水分が50%の場合、山の未利用材が1㌧当たり1万円、一般木材が7000円となる。水分が5%減るごとに、それぞれ買取価格が1000円ずつ上がっていく仕組みだ。

 燃料の水分含有率は一年間の平均で36%。冬場だと50%近辺に、夏場だと30%を切るものも出てくる。年間では30~40%前後と言う。60%を超えると燃料としての価値はないので買い取らない。受け入れる燃料の材質や水分量はまちまちなので、燃料供給棟では、ボイラーに負荷がかからないように、燃料をうまく混ぜ合わせて、均質化している。

年間の電力の売り上げは23億円

 発電所で燃やす燃料の量は1日当たり300㌧から500㌧だ。年間の使用量は11万㌧から12万㌧となる。年間の燃料購入費用は14億円に対し、FIT制度による電力の売り上げは23億円だ。発電所は4月と10月のメンテナンス期間を除き、330日間、24時間稼働している。朝昼晩の変則3交代の勤務体系で、燃料の受け入れ、発電機の運用、管理部門などで計15名の雇用を生んでいる。

真庭バイオマス発電の制御室。ボイラーと発電機を集中制御する
真庭バイオマス発電の制御室。ボイラーと発電機を集中制御する

中心施設は25㍍のバイオマスボイラー

 中心施設は25㍍の高さのボイラーだ。燃料供給棟からベルトコンベアーでボイラーの9階まで運ばれた燃料は、6階あたりで10室に分かれ、ボイラーの中に落ちていく。「下と側面から100度の温度の熱風を吹き込み、燃料を780度くらいで燃やす。その熱で、ボイラー内のパイプを通っている水を熱し、蒸気にする」(長尾さん)。

 蒸気の温度は425度くらいに設定。その蒸気の力で、発電機のタービンを回して発電する。ボイラーと発電機は、発電機が入っている建物にある制御室ですべて管理する。

 蒸気の圧力は通常6.0㍋パスカル、最大は7.2㍋パスカルに達する。1時間で最大48㌧の水を蒸気に変えているという。タービンを回した蒸気は、四つの大きな扇風機が付いた蒸気復水器で冷やして水に戻して、再びボイラーに循環させている。さらに、1時間に2㌧、新しい水を追加する。

市内の公共施設の電力を供給

 発電した電気の電圧は6600㌾。これを変電所で6万6000㌾に変圧して、中国電力の送電網に送り出している。発電所で発電した電気は、「真庭市内の市役所や文化センター、小中学校、上下水道などの公共施設に使われているほか、残りは、電力会社に販売している」(長尾さん)という。

真庭市のバイオマス産業の付加価値は52億円

 太田市長によると、「市内のバイオマス産業による付加価値は52億円」に達する。現在、第2の発電所を作り、「再エネ比率を100%まで引き上げる」計画だ。

(稲留正英・編集部)

(③に続く)

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