経済・企業

EVで巡る日本のSDGs最前線④真庭の若手経営者、京都府副知事出身の辣腕市長、海外EV動向を熟知する日本法人代表――組織の危機を「機会」に変える3者の共通点とは

    真庭市の太田昇市長(左)とアウディジャパンのマティアス・シェーパース・ブランドディレクター
    真庭市の太田昇市長(左)とアウディジャパンのマティアス・シェーパース・ブランドディレクター

     岡山県真庭市は、2018年に内閣府が認定する全国29の「SDGs未来都市」の一つに選ばれ、全国10の「自治体SDGsモデル事業」の対象ともなった。2020年には「ゼロカーボンシティ」を宣言している。脱炭素・循環型社会の構築に取り組むきっかけは何だったのか。

    若手経営者が「21世紀の真庭塾」で地域活性化を議論

     真庭市の太田昇市長は、「地元の常務クラスの若手経営者が立ち上げた『21世紀の真庭塾』が契機」と話す。1992年に真庭市から鳥取県米子市へ抜ける米子自動車道が開通、ストロー化現象による地元の衰退に危機感を抱いた20代~40代の若手経営者が同年「21世紀の真庭塾」を立ち上げた。「御前酒(ごぜんしゅ)蔵元」辻本店の先代である辻均一郎氏、CLT建材の銘建工業の中島浩一郎・現社長や、環境配慮のコンクリート素材を作るランデスの大月隆行・現社長、山下木材の山下豊・現社長らがメンバーとなった。

    未来構想「2010年の真庭人の1日」を発表

     均一郎氏の子息で、辻本店の辻総一郎・現代表取締役は、「まずは勉強をしようと、専門家を手弁当で真庭に招き、夜な夜な集まって喧々諤々、塾を開催していたようです」と語る。太田市長は、「中だけでやると、嘆き節にしかならない。よその人を講師に入れ、外の目で色々と考えたことが成功につながった」と話す。

     専門家からのアドバイスもあり、1997年10月に真庭塾が考える真庭の未来を地域に伝えるため、「環境まちづくりシンポジウム~環境と産業の共感ステーション」を開催。真庭の未来像を書き記した「2010年の真庭人の1日」を発表した。2010年の「現在」から1997年の「過去」を振り返る形式で、バイオマス発電をはじめ、今につながる様々な構想が語られている。辻さんは、「私の父が多少、絵心があったので、絵を交えながらプレゼン資料を作成しました。その中の未来予想図が現在、ほぼ実現しています」と語る。

    「御前酒蔵元」辻本店の辻総一郎代表取締役
    「御前酒蔵元」辻本店の辻総一郎代表取締役

    京都府副知事としての行政経験を活かす

     2013年から真庭市の2代目の市長として、真庭塾の構想の政策化を推し進めたのが、太田昇・現市長だ。「就任した年に農林水産省の『バイオマス産業都市』の指定を受け、また、真庭の活動を国際的なものとするために、SDGsの視点を取り入れた」(太田市長)という。

     太田市長は真庭市久世地区の出身だが、大学卒業後は40年近く京都府庁で働き、総務部長や副知事を務めた地方行政のプロだ。京都出身の国会議員である野中広務氏(故人)の謦咳に接し、地方分権など国政レベルの動きにも詳しい。

    「伝統を大切にしながら革新していく」

     太田市長は、「京都と言う場所は、伝統的な強みを現在に活かしている。そうしないと、1000年以上続く京都企業などが出てくることはない。伝統を大切にしながら、それをどんどん革新していくということを学ばせてもらった」と語る。

     『地方行政』2021年3月号で太田市長は、京都府議会の会派が、自民党、共産党、立憲民主党と複雑に入り乱れる中、府政を円滑に運営するためには、「根拠を持った理論武装を行い、さまざまな立場の議員も納得する内容にしなければいけない」と語っている。「政策を検討する際に、なぜ必要か?意義は?効果は?住民視線からはどうか?財源措置はどうか?などと常に多角的に考える習慣が付いた」という。

    「母の国」日本のEV出遅れに危機感

     今回のツアーの主催者であるアウディジャパンのマティアス・シェーパース・ブランドディレクターにも触れる必要がある。氏はドイツ人だが、母は日本人で、日本で生まれ、高校まで日本で過ごした。日本、オランダ、米国の三つの大学で学んでいる。日本語はネイティブだ。

     2002年に独アウディ本社に入社後、ドイツ本国や日本を含むアジアで営業や物流を担当。21年9月から3度目の日本滞在でアウディジャパンの社長に就任し、今年1月からはフォルクスワーゲングループジャパン社長兼アウディジャパンブランドディレクターに就いた。直前の18年9月から21年9月までアウディフォルクスワーゲン台湾の社長を務めていた。

    伝統と革新は相対立する概念ではない(真庭市の「御前酒蔵元辻本店」前にて)
    伝統と革新は相対立する概念ではない(真庭市の「御前酒蔵元辻本店」前にて)

    EVへの転換が当たり前だった台湾

     シェーパース氏が今回のSDGsツアーを思い立ったのは、4年ぶりに赴任した日本で、EVに関する議論があまり進んでいないことに危機感を抱いたためだ。「台湾では、EVへの転換が当たり前のように起こっていた。テスラのサプライヤーも多く、EV産業が出来ており、国民はEVに対する違和感がない」(シェーパース氏)。逆に、EVは大きなビジネスチャンスと鴻海グループが、EVの生産に取り組もうとしている。

     それに対し、日本では、「意図的なのかどうなのか、『EVはまだまだだね』という雰囲気。そうした情報が本国に伝わっており、日本はEVの商品開発で考慮されないくらいだった」。

    社内にEVのクロスファンクショナルチームを設置

     危機感が背中を押し、21年10月、アウディジャパンに広報、セールス、マーケティング、アフターサービスなどのメンバーからなるEVに関するクロスファンクショナルチーム「e-tronX」を立ち上げ、社内で議論を重ねてきた。シェーパース氏は台湾時代にお茶の生産元や地元の大学とSDGsを軸にしたプロモーションをした経験があり、それも、今回のツアーのヒントとなったという。

    「変わりはじめたと気づいたときには、もう遅い」

     シェーパース氏は「EVへの転換は、必ず日本でも起こる。一回、顧客のニーズが変わったら、もう、EVしか乗らないという人が増えてくる。その時にタイミングよく商品がないと、遅れてしまう」と強調する。「反対意見はあるかもしれないが、ある程度リスクを持って、リーダーとして方向性を与えないといけない。変えるには勇気が必要だが、変わりはじめたと気づいたときには、もう遅い。電車に乗り遅れてしまう」と話す。

     真庭市の若手経営者、太田市長、シェーパース氏に共通するのは、現状に強い危機感を抱き、外部の目を入れながら、自分の故郷や組織を変えようとする強い意志だ。

     最終回は、アウディの最新EVの試乗体験と真庭の観光資源について詳報する。

    (稲留正英・編集部)

    (⑤に続く)

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