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EVで巡る日本のSDGs最前線①バイオマス発電で再エネ比率は驚きの62%、「山が8割」の森林資源使いつくす「ゼロカーボンシティ」岡山県真庭市の知恵とは

「ゼロカーボンシティ」を掲げる岡山県真庭市の太田昇市長とアウディジャパンのマティアス・シェーパース・ブランドディレクター
「ゼロカーボンシティ」を掲げる岡山県真庭市の太田昇市長とアウディジャパンのマティアス・シェーパース・ブランドディレクター

 独自動車メーカー、アウディの日本法人が、4月13日、14日の両日、SDGs(国連の提唱する持続可能な成長目標)をテーマにしたユニークなプレスツアー「Audi Sustainable Future Tour」を実施した。バイオマスや太陽光発電による再生エネルギーや、生ごみを原料にした液肥など、循環型社会の構築で先進的な自治体である岡山県真庭市をビジネスメディアと訪問。その取り組みを見学・取材するとともに、持続可能な社会について、地元の大学を交えた「産官学」でパネルディスカッションを行うという内容だ。

EVを経営の核に置いたアウディ

 アウディは昨年8月に、グローバルな経営戦略「Vorsprung 2030」を発表し、自動車の電動化を経営の核に置いた。アウディの親会社であるフォルクスワーゲングループでは、2050年までに自動車の生産、物流、使用、破棄のライフサイクルにおける地球温暖化ガスの排出量ゼロを目指している。この流れを受け、VWグループの技術・ブランドの先導役であるアウディは30年までに5兆円を投資し、生産・販売車両のEV化を進める計画だ。アウディでは、「エンジン車をニューモデルとして投入するのは25年まで。33年以降は一切、エンジンは作らない予定」(アウディジャパンブランドディレクターのマティアス・シェーパース氏(フォルクスワーゲングループジャパン社長も兼務))という。日本ではこの秋に、戦略SUV「Q4e-tron」を発売し、EVの普及に拍車を掛けたい意向だ。

日本国内に根強いEV懐疑論に危機感

 一方で、日本国内ではEVに対して懐疑的な見方が根強いのも事実だ。充電インフラが整っていない、再生エネルギーが普及していない日本でEVを走らせても二酸化炭素(CO2)の削減につながらない、値段が高い――などと「できない理由」をあげる声は少なくない。それが、欧米や中国に比べて、EVの普及が進まない背景の一つになっている。

 だが、日本国内を見渡せば、真庭市のように、地元の産業と自治体が一丸となって、再エネの導入に邁進する自治体もある。また、アウディ自身も、日本社会の一員として、モビリティ(移動手段)を通じて、持続可能な社会を築いていく責任がある。「今回のプレスツアーを通じて、真庭市の企業や自治体の取り組み、考え方を伝え、持続可能な社会のあり方についての世間の議論を喚起したい」(シェーパース氏)というのが、ツアーの趣旨だ。

真庭市役所の「木の回廊」は合併した九つの町村を表している
真庭市役所の「木の回廊」は合併した九つの町村を表している

「2050年のゼロカーボン」目指す真庭市

 ところで、真庭市とは、どういう自治体なのか。岡山県の北中部に位置し、面積は828㎢、東京都23区の1.3倍もあり、岡山県では最大の広さだ。2005年に9町村が合併して誕生した。人口は約4万4000人。北の鳥取県との境には、ジャージー牛乳やソフトクリームで有名な蒜山(ひるぜん)高原がある。江戸時代には勝山藩が藩政を敷いた。市の面積の8割は森林で、主要産業は農業、林業、製材業だ。

 SDGsから見た真庭市の最大の特徴は、「2050年のゼロカーボンシティ」を目指し、脱炭素に向けた様々な取り組みをしていることだ。

真庭市役所には至る所に市内で採れた木材が使われている
真庭市役所には至る所に市内で採れた木材が使われている

豊富な森林資源でバイオマス発電

 大きな柱が二つある。まず、市にある豊富な森林資源を活用し、林業で出る間伐材、製材所で出る木の皮などから、バイオマス燃料を作り、発電していることだ。現在、2015年から稼働しているバイオマス発電所で、1万キロワット時の電力を得ている。

 バイオマスとは、動植物から生まれた再利用可能な有機資源のことを示す。バイオマス発電所では、この資源を燃やしたり、ガス化して発電する。光合成によりCO2を吸収するバイオマスを燃料とした発電は、1997年の国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択された「京都議定書」で「CO2排出量ゼロ」の燃料と定義されている。

 真庭市ではバイオマスに加え、太陽光、風力、水力、地熱の再生可能エネルギーによるエネルギー自給率は20年1月時点で62%に達する。日本全体の再エネ比率は2019年度で18%だから、実にその3倍強だ。

生ごみから農作物を育てる「液肥」

 二つ目は、市内から出ている生ごみを活用し、農作物を育てる「液肥」を作っていることだ。プラントで生ごみと汚泥を混ぜて、発酵させる。年間1500㌧作り、市内のコメや野菜づくりに活用している。

 今回のツアーでは、まず、真庭市役所を表敬訪問し、市内のバイオマス集積基地とバイオマス発電所を見学した。

 ツアー初日の13日は、東京・羽田から空路、岡山空港に移動。ここから、アウディの最新EVで広大な市内を巡った。このEVの試乗体験もツアーの眼目の一つだが、これについては、別稿で詳しくリポートする。

市庁舎の正面に「木の回廊」

 まず、向かったのは真庭市役所だ。市の南東、JR姫新線久世駅の近くにある。到着すると、正面玄関の前にある巨大な「木の回廊」が目に入ってくる。真庭市は05年に九つの町と村が合併して誕生した。そのため、緩いカーブを描いた回廊の屋根を九つの柱で支える構造となっている。材料は地域で育った樹齢100年のヒノキだ。

 ツアーを出迎えた太田昇市長は、「真庭市の8割は山、6割が植林。製材所は30ある。いかに資源である木を使うかが、大事だ」と強調する。

CLT(直交集成材)生産で全国1位

 2011年4月に竣工した庁舎自体は鉄筋コンクリート造りだが、庁舎内の至る所に真庭産の木材が使われている。真庭には、CLT(Cross Laminated Timber、直交集成板)で国内シェア1位の銘建工業(勝山地区、中島浩一郎社長)がある。CLTとは繊維方向が直交するように積層接着した木質材料で、鉄並みの強度があるのに、軽いのが特徴だ。東京オリンピックのために隈研吾氏が設計した東京・晴海の「CLT PARK HARUMI」(19年竣工、現在は真庭市蒜山高原に移築)の建材に使われたことで有名だ。

 市役所の正面には、14年に建設した木造のバス停がある。太田市長は「規模は小さいが、日本で初めてのCLT建造物」と胸を張る。市内にはその後、市営住宅、ビジネスホテル、図書館、市民センター、久世駅、小学校・こども園など次々とCLTの建物が建てられている。

市庁舎のエネルギーは100%再エネ

 300人が働く市役所の庁舎は、100%再生可能エネルギーで賄われている。市庁舎の正面から向かって右手の側面にある二つのバイオマスボイラーで市由来のバイオマス(チップとペレット)を燃やし、それを熱源に冷暖房を動かしている。1日に燃やす量は500㌔。ボイラーは点検やメンテナンス時を除いて、24時間、年間200日超稼働しており、使うバイオマスの量は年間で110㌧に上る。

真庭市はバイオマスボイラーで市で製造したバイオマス燃料を燃やす
真庭市はバイオマスボイラーで市で製造したバイオマス燃料を燃やす

 市庁舎の室温は年間を通じて25度を目途に調整しているが、夏は20度近く、冬は30度近くになる。床に空調の吹き出し口があり、空気が天井に抜ける構造だ。重油の冷暖房に比べて、年間600万円の節約になっているという。

 また、市庁舎の屋根と庭にそれぞれ、80㌔㍗時と5㌔㍗時の太陽光パネルが設置されているほか、市内のバイオマス発電所から電力を購入している。トイレの水は、真庭産の杉の木を加工した大きな樽に雨水を貯めて使っている。

真庭市の冷暖房の通風孔
真庭市の冷暖房の通風孔
真庭産の杉でできた樽で雨水を貯め、トイレに使う
真庭産の杉でできた樽で雨水を貯め、トイレに使う

市内6か所に「液肥スタンド」、市民に配る

 市役所の裏手に回ると、濃い黄色の大きなプラスチックタンクが置いてある。容器の表面には、「バイオ液肥スタンド」と書かれている。市内の一般家庭と一部の事業所からは年間330㌧の生ごみが出ている。これを家庭の浄化槽の汚泥や汲み取り式便所のし尿と混ぜ合わせ、発酵させる。そこで発生したガスでプラントを動かし、農作物に使う「液肥」を年間1500㌧製造している。

 市内には、これと同様の黄色のタンクが計6か所設置され、市民が車で液肥を受け取り、農業に活かしている。この液肥スタンドで年間230㌧を市民に配布しているほか、残りの1300㌧は、市内の水田や野菜の圃場で利用しているという。現在、液肥は試作プラントで作っているが、「24年度には、年間8000㌧製造する本格的なプラントが稼働する予定」(太田市長)。これに伴い、現在市内にある3か所のごみ焼却施設を一つに集約、汚泥やし尿の汲み取り施設も不要となる。その結果、「市のごみ処理費用は7億円から2億円に減る見通し」(太田市長)という。

このような「液肥スタンド」が市内に6か所ある
このような「液肥スタンド」が市内に6か所ある
真庭市役所では24時間無料で急速充電できる
真庭市役所では24時間無料で急速充電できる

市庁舎に24時間無料のEV急速充電スタンド

 また、市庁舎には、再エネを電源としたEVの急速充電施設がある。24時間無料で使えるのが特徴だ。今回のツアーで乗ってきたアウディのEVが早速、充電されていた。

 市役所の後は、市内のバイオマス集積基地とバイオマス発電所の見学である。

(稲留正英・編集部)

(②に続く)

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