アメダス強化とスパコン導入で夏の集中豪雨に備える
気象庁が6月から開始
「線状降水帯」予測を生かす/106
気象庁が6月1日から、線状降水帯の発生予測を開始した。全国11の地方予報区(北海道、東北、関東甲信、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州北部、九州南部・奄美、沖縄)ごとに予測し、発生する可能性がある半日~6時間前を目安に発表する。予測精度は必ずしも高いとはいえないが、被害を少しでも減らすために有効に役立てたい。
線状降水帯は6月の梅雨時期から9月にかけて発生し、広い範囲で豪雨による土砂災害を引き起こす。2014年に77人の死者・行方不明者を出した広島市の土砂災害をはじめ、18年に西日本を中心に北海道を含む全国的に広い範囲で発生した西日本豪雨(死者・行方不明者271人)、20年の熊本豪雨(同86人)なども線状降水帯がもたらした大雨によるものだった。
線状降水帯は夕立の原因にもなる積乱雲が、長さ約300キロメートル、幅約50キロメートルまでの範囲に帯状に連なったものだ。積乱雲自体は降り始めから30分~1時間で消えるが、周りから暖かく湿った空気が流入するため、大量の雲が次々に発生し、1時間に百数十ミリの豪雨が数時間も続く。数日かけて接近する台風に比べると、線状降水帯は発生が局地的で移動速度が速いため、事前の予測が極めて難しいとされてきた。
常に付きまとう危険
しかし、気象庁は近年、地域気象観測システム(アメダス)に湿度計を増設するなど、観測の強化に努めてきた。さらに、線状降水帯の予測モデルの開発も進めており、スーパーコンピューター「富岳」も活用するなどして、予測精度のさらなる向上に努めるという。今回の予測開始はその第一歩として評価することができる。ただし、実際には発生したが予測ができなかった「見逃し」や、予測はしたが実際には発生しない「空振り」が起きる可能性はある。
ただ、予測精度は高くなくとも、夜間の避難を促したりすることができる意義は大きい。では、気象庁から事前予測が出たら、どのように準備すればよいのだろうか。まず、ハザードマップで浸水の危険箇所や、最寄りの避難所を確認する。そしてリアルタイムに気象情報を得て、どこの避難所にいつ避難するかをシミュレーションしておく。
事前予測情報を得たら周囲の人と共有し、早めに避難する。また家屋に水が迫ってきて屋外への退避が難しければ、より安全な2階以上の部屋へ「垂直避難」することも有効だ。夏に大雨をもたらす線状降水帯の危険性は、一般にも広く浸透してきた。地球温暖化の影響もあり、日本のどこにいても線状降水帯の危険は付きまとう。そうした認識に立って、これからの季節にしっかりと備えたい。
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。