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経済・企業挑戦者2022

診察中の発話をAI処理、医療従事者の文書業務を軽減する

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

滝内冬夫 kanata代表取締役

 忙しく、時間に追われる医師や看護師の文書業務を軽減するツールを開発した。

(聞き手=加藤結花・編集部)>>>これまでの「挑戦者2022」はこちら

「声」を自動要約しカルテ化

 診察中の会話を音声認識により文字起こしし、結果を自動要約してカルテ化するクラウドAI(人工知能)ツール「kanaVo(カナボー)」を提供しています。医師や看護師の文書業務の負担を軽減するサービスとして開発しました。現在、個人経営のクリニックを中心に140を超える医療機関で利用されています。

 人の生死に関わる医療現場では記録を残すことが求められますが、診察のまとめや看護日誌などの文書業務には1日に2、3時間程度かかるとされ、医療従事者にとって大きな負担となっていました。診察がある時間内に作業を終えることができず、平日の記録を週末にまとめてやるという医師もいましたが、クリニックの医師は1日平均40~100人程度の患者を診察します。大量の記録を数日後にまとめてすることは大変な作業で、非効率でもあります。カナボーを導入することで、文書業務にかかる時間を4分の1程度に短縮することができ、負担軽減が期待できます。

 カナボーでは、医師と患者の声を分離して音声認識し、AIが自動で結果を要約するため、全文を読み返す必要はありません。音声認識や要約は、ワンクリックでコピーや貼り付けが可能で、気になった箇所を指定し、音声を確認することもできます。

 音声認識のツールは他社にもありますが、他社の音声認識が年に1回程度のアップデートで性能を向上させているのに対し、カナボーでは少なくとも週に1回のペースでデータを整理し、深層学習させAIを成長させています。そのため、AIの成長スピードが速く、最も精度が高い医療向け用の音声認識として評価されています。

 まずは、カナボーの利便性を知ってもらおうと、月8時間までは無料で利用できるプランの提供を今年1月から始めたのですが、一部利用者から「料金は払うから、便利なのでフルで使いたい」とリクエストを受け、6月から月額利用料金3万円(200時間までの利用)の有料サービスを始めました。

 サービスには3日に1件程度は問い合わせがあり手応えは上々。今後、月に15件ペースでの有料契約を目指します。病院を巡回する看護師などが利用できる「kanaVo mobile」(月額利用料金2万4000円)のサービスも今年の5月からスタートしました。

亡き長男の名前を社名に

スマホのアプリで使えるkanaVo mobile。右は長男・奏向君 kanata提供
スマホのアプリで使えるkanaVo mobile。右は長男・奏向君 kanata提供

 起業したのは、白血病で2019年に6歳で亡くなった長男・奏向(かなた)が入院したのがきっかけでした。入院中の約1年2カ月間、患者である息子のために献身的に働いている医師や看護師の姿を目の当たりにしました。特に印象的だったのは、夜に息子の病室で付き添って寝ていた時のことです。看護師が部屋に入ってきて急にゴミ箱をあさりだしたので、驚いて理由を聞くと、メモを取った手袋をゴミ箱に捨てたことを思い出して取りに来たということでした。看護日誌を書くのに必要だったそうで、いかに記録を残すための文書業務が大変かということを実感しました。

 お世話になった医療者にカナボーを通じて恩返しできるよう、サービスの向上や拡大に向けて、息子の名前をつけた会社を大切に育てていきたいです。


企業概要

事業内容:医療者・患者の声を自動要約する「kanaVo」の開発・運営

本社所在地:東京都中央区

設立:2018年11月

資本金:6560万円(資本準備金含む)

従業員数:7人


 ■人物略歴

たきうち・ふゆお

 1970年東京都生まれ。92年慶応義塾大学経済学部を卒業。シンクタンクに10年ほど勤務し、村おこしや都市計画などのコンサルを担当。シンクタンク時代の勉強会で知り合った医師を通じ、電子カルテに興味を持ち、研究に参画。長男が白血病で入院したのをきっかけに、記録などの文書業務に追われる医療現場の問題を知り、課題解決のため2018年11月にkanataを起業。22年1月に声をカルテ化するクラウドAI(人工知能)ツール「kanaVo(カナボー)」のサービスを開始した。

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