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受動喫煙対策に取り組む広島市で議論! 「公共喫煙所ゼロ」の是非

空き店舗を喫煙室にした広島お好み村
空き店舗を喫煙室にした広島お好み村

 原爆ドーム、平和記念公園、広島カープ、お好み焼き……中国・四国地方最大の都市・広島市では、全国に先駆けて受動喫煙対策に取り組み、広島駅前・観光地の公共喫煙所はゼロになった。ところが、ここへきて新たなフェーズ(局面)を迎えようとしている。

 岸田文雄首相のおひざ元である広島県広島市は、人口118万7049人(5月31日現在)で、市の予算は総額約1兆2214億1441万円の政令指定都市(2022年度当初予算)だ。まさに、中国・四国地方の拠点都市である。

 その広島市では現在、広島駅を中心に各地で再開発が進められている。JR広島駅ビルは25年春開業予定。駅前の旧広島東郵便局跡には19階建てのビルが今年秋のオープンをめざしている。その他、市内では再開発ラッシュの様相を呈している。

 その広島市でにわかに問題視されてきたのが、「公共喫煙所の有無」についてである。これまで広島市では、国に先駆けて受動喫煙対策に取り組んできた。20年の改正健康増進法施行前、早くもJR広島駅前の喫煙所や平和記念公園内の喫煙ブースが撤去された。

 新型コロナウイルス感染拡大以降、疲弊している市経済を立て直すため、最大の起爆剤とされる再開発だが、他都道府県や外国人訪問客に対し、喫煙所が一つもないことを問題視する声が市議会で飛び出した。

 3月10日、定例市議会の予算特別委員会で、自民党・市民クラブの山路英男市議は、常態化していたポイ捨てをなくすための方策として、これまでの市の対策は間違いではなかったと評価しつつも、今後は再開発を起爆剤に一層の観光客誘致に取り組もうとしている中、駅周辺に一つも公共喫煙所がないことに異論を唱え、喫煙者も非喫煙者も共存できる公共空間でのゾーニングが必要と訴えた。

 しかし、答弁に立った松井一實・広島市長は「(受動喫煙をなくす)理想を求め続ける」と語り、公設の喫煙所増設はしないと明言したのである。

 山路市議は本誌の取材に対しこう語る。

「市は、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みにも積極的です。すなわち、〝誰一人取り残さない社会の実現〟と謳(うた)っているのです。だが、受動喫煙対策に関していえば、喫煙者は置き去り。駅前でいえば、メインの場所ではなく人通りの少ない隅っこでいい。喫煙者は文句を言わず、吸える場所に行きますから」

 かつてはスモーカーで、今はたばこを止(や)めたという山路市議は、「双方の気持ちが分かるからこそ、しっかりとした対策をしないと、広島のおもてなしの心が台無しになる」と訴えた。

 しかし、市議会で山路市議に対する松井市長の答弁はにべもなかった。「お酒に関して〝公衆酒場〟ってありますか? 市が経営している酒場はあるかという発想。だから、公共空間にはつくらない。酒場や喫茶店で喫煙できる施設をつくる。その最初の設備投資に市が支援する」

 取りつく島がないといった答弁に終始したのである。では、民間中心の喫煙スペースの確保はうまくいっているのだろうか。広島観光のグルメスポットとして知られているのが、「広島お好み村」だ。ビルの2~4階に23店のお好み焼き屋が揃(そろ)っている。そのうちの1店「八昌(はっしょう)」の代表で、同村組合の豊田典正理事長はこう語る。

「以前は各店舗ごとの判断で『喫煙』『禁煙』としていたが、今は時代の流れで仕方ない。お好み村は、店の専有部と通路の共用部の境目がないから、全面禁煙。店も自由度が狭まって、喫煙者は耐えているのでは」

 さらに、同村が入居するビルを管理する住田株式会社の中島(なかしま)修・総務人事部長代理はこう説明する。

「改正健康増進法が施行される20年4月に、1階と4階に喫煙所を設置しました。4階の喫煙所は閉店した店舗のスペースを丸ごと喫煙所にしました。また、1階は自動販売機を撤去して設けたんです」

 1階は同村とは関係のない店舗が入居している。

「1階入り口の部分に設置したこともあって、お客さんではない人も来る。4階は本来、テナントが入るべき場所。しかし、行政の言うことを聞き、お客さんや周辺で吸う場所を探す人たちのことを思えば、仕方ないこと。もっと行政が公共喫煙所を設置してくれれば民間がリスクを負うこともないのですが」(同)

 総務省通達も分煙化を後押しか

 民間中心といえば聞こえはいい。しかし、実情は民間が利益を削ってまで喫煙所設置を行っているといっていいのではないか。

 そんな〝頑(かたく)なな姿勢〟だった広島市だが、状況が変わりつつあるという。広島市関係者は語る。

「6月、松井市長は単身上京し、ターミナル駅の公共喫煙所などを視察したり、国会議員との面談を行ったそうです」

 これが公共喫煙所設置へ方向転換するかどうかは現時点では不明だ。しかし、「松井市長はこれまでと違って柔軟な姿勢に変わりつつあるのではないか」(同)との見方がある。

 その背景には、山路市議の奮闘ぶりが他の市議にも波及した点があるという。山路市議と同会派の川口茂博市議も6月14日の一般質問で、駅周辺に公共喫煙所が一つもないことでポイ捨てが増えるなどの悪循環を指摘したのである。

 さらに、国からの通達の影響もあるのではないかとの指摘もある。

 通達とは、今年1月に総務省が都道府県、政令指定都市の財政担当部局や議会事務局にあてた事務連絡「令和4年度地方税制改正・地方税務行政の運営に当たっての留意事項等について」のこと。ここには、たばこ税に関して〈屋外分煙施設等の整備の促進〉という項目が記されていた。要は、地方たばこ税を積極的に屋外分煙施設などの整備に活用してほしいというものだ。

 果たして、再開発でリニューアルする広島市だが、ゾーニングを設定して公共喫煙所を設置するような〝受動喫煙対策の新局面〟は訪れるのだろうか。

「サンデー毎日9月4日号」表紙
「サンデー毎日9月4日号」表紙

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