教養・歴史書評

中国初の“ゴミ白書”が提唱する「両網融合」とは?=菱田雅晴

世界で最もゴミを出す中国の実態=菱田雅晴

 訪日外国人観光客が日本に来て驚くのが日本のゴミ回収、とりわけ各家庭から出される生活ゴミの截然(せつぜん)とした分別回収だという。可燃ゴミに不燃ゴミ、資源ゴミに粗大ゴミと各自治体によって回収日等ルールが細かく決められている。

 わが街でも、この7月から家庭から排出されるプラスチックをゴミとして処分せず、資源として分別回収することとなった。いわく、プラスチックを資源として有効活用することにより、ゴミの減量および最終処分場の延命化を図り、さらには温室効果ガスの排出削減をはじめとした地球環境への負担軽減を図るのが目的だという。「ゴミは分別して出すもの」という認識こそ定着してはいるものの、「複雑すぎる」「難しい」との悲鳴も聞こえ始めた。

 生活ゴミとは都市発展の産物であり、中国は2004年段階で米国を抜き、世界最大のゴミ排出国となった。中国は今や毎年21億トンともいわれる世界全体の廃棄物の15.5%を占める。日本の「ゴミ屋敷」ならぬ「垃圾囲市(=ゴミ都市)」との嘆きすら、ささやかれている。中国初のゴミ白書とも言うべき『中国生活垃圾分類発展報告』(楊青・劉星星・潘安娥著、湖北科学技術出版社、2021年)はそうした中国のゴミ状況を伝えている。同書は、著者らが国家社会科学重点プロジェクトとして行った研究成果リポートで、内外諸都市の生活ゴミ処分状況を検討した上で、「両網融合」という中国モデルを提唱。「両網融合」とは生活ゴミの処理と再生資源の回収という二つのシステムの融合を目指すもので、上述のわが街の目的意識にも通じる。

 果たして「上に政策あれば下に対策あり」と“自主性”あふれるあの中国の人々が錯雑を極める分別ルールをどこまで守れるだろうか。実は、この「両網融合」方針は習近平国家主席の「ゴミ出しから運送、処理に至る分類処理システムを作るべし」とのトップ指示に基づくもので「政府推動、全民参与」というお上主導の色彩も濃い。

 CO₂排出量につき、国連総会で2030年までのピークアウト、60年までの「カーボンニュートラル(実質ゼロ化)」の実現を謳(うた)い上げ、環境問題で存在感を高めようとする中国のお手並み拝見といったところだ。

(菱田雅晴・法政大学名誉教授)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

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