マンションに迫る「第三の老い」 深刻すぎる管理員不足 土屋輝之
定年延長や再雇用で「老後の就職先」の一つとされてきた管理員になりたい人が減っている。マンション住人の暮らしの不安定化にもつながりかねない。(マンション管理必勝法 ≪特集はこちら)
巡回管理や自主管理も必要に
東京23区内の6階建て、約50戸が入居するマンション。2020年の春、10年以上勤めていた管理員が健康上の理由で退職した。管理会社はさっそく後任の管理員を探したが、なかなか見つからない。6カ月たっても決まらず、結局、派遣会社から派遣された臨時の管理員2、3人が交代で勤務することになった。
しかし、不慣れで代行ということもあり、マンションの入り口や共用廊下の清掃が行き届かず、ゴミ置き場の整理も不十分で臭気が漂うようになった。前任の管理員は、住人とのあいさつやコミュニケーションもよく、目に見えない安心感が住人にはあった。住人の一人は「管理員がいなくなって、初めてありがたさがよくわかった」としみじみ話す。
マンション管理業界は、管理員の深刻な人手不足に直面している。これまでは60代前半元会社勤めの人が定年後の仕事として選ぶことが多かった。だが、企業の定年延長や再雇用の動きが顕著となり、マンションの管理員になりたいと考える人が不足しているのが現状だ。そのため、何らかの理由でマンション管理員が離職すると、欠員を補充できない状況が珍しくない。
つまり分譲マンションは今、建物の老朽化と居住者の高齢化という「二つの老い」に加え、管理員不足や管理員の高齢化といった「第三の老い」に見舞われている。
ITスキルも必要
マンション管理員の仕事は、3K(きつい・汚い・危険の頭文字)のイメージが根付いている。にもかかわらず、責任と待遇のバランスが取れておらず、最近はITなどの多角的スキルが求められることもある。
住人への連絡はメールでしてほしいとか、無料通信アプリ「LINE」のグループに参加してほしいといったことも珍しくない。これらに柔軟に対応できる管理員を見つけるのは困難な状況だ。
また、コロナ禍は思わぬ副作用を生んだ。在宅勤務が増えて、これまでマンション管理に関心を示さなかった人々が、家にいる時間が長くなり、あれこれ口を出す例が増えているのだ。なかには会社の部下に接するように管理員に注文を付け、管理員が閉口して辞めていく例もある。
一方で、管理員が不足すると清掃や整理整頓する人がおらず、ゴミが敷地内に散乱したり、ゴミ置き場があふれるような状態になる可能性がある。ゴミが目立つと便乗したポイ捨てなどの不法投棄もされやすく、住宅環境の悪化につながる。
また、マンションによっては、管理員が飲用水の水質を管理している場合がある。管理員がいなくなることで水質が不安定となり、安心して水を飲用できないという問題も発生している。
さらに管理員には意外な側面も求められている。例えば、高齢者に声をかけたり、子どもたちの見守りの役割を担っていたりする。冒頭の住人の声も、こうした目に見えない管理員の役割に改めて気付いた例だ。
将来はAI管理も
今後は、管理員が常勤せず、毎週2〜3日ほど曜日や時間を決めて、定期的に巡回するという「巡回管理」が標準になることも考えられる。日常的な清掃業務は住人自らが行ったり、受付は無人で遠隔対応になったり、AI(人工知能)が応対することも予想される。
また現在は管理会社に管理業務を委託しているマンションが多いが、今後は自主管理がメインになる可能性もある。自分たちでできることは自分たちで行い、会計など専門的な分野のみを依頼することで、管理員不足に対応するとともに、管理費を抑えることにつながる。
管理会社に何を求め、自分たちでできることは何か、居住者全員が「自分事」として考えることが「第三の老い」に対処するカギだ。
(土屋輝之・マンション管理コンサルタント「さくら事務所」執行役員)