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教養・歴史書評

大阪・堂島「廣岡家」に見る日本金融史を巧みな筆致で描く=評者・平山賢一

『豪商の金融史 廣岡家文書から解き明かす金融イノベーション』 評者・平山賢一

編著者 高槻泰郎(神戸大学経済経営研究所准教授) 慶応義塾大学出版会 2970円

 本書は、大阪の両替屋・加島屋五兵衛家(廣岡家)のたどった歴史を振り返り、江戸時代以降の日本金融史の核心部分を鮮やかに描いた作品である。朝ドラ「あさが来た」のヒロインの嫁ぎ先である廣岡家の事業を通して、堂島米市場、「大名貸」、そして加島銀行と大同生命の創業などを取り扱う。学術的に高い評価を得る研究成果であるのは論をまたないが、筆致と構成の巧みさから、一般読者をも多く引きつけるはずだ。

 加島屋は、世界初の先物取引市場として産声を上げた堂島米市場で頭角を現す。史料からは、その成功の背景には、質素倹約に努めるだけでなく、投機的な勝負商い(自分商い)をせずに、売買取次による手数料取得に徹した点が読み取れる。幕藩体制という枠組みが続く限り、短期的利得(投機)に神経をすり減らすのではなく、長期にわたり定期的に得られる着実な利得を積み重ねるスタイルが環境に適していたのだろう。

 その加島屋も、大名貸に手を染めることになる。賭博性の高い大名貸ではあったが、秘匿された藩財政資料を入手できる立場(館入(たちいり)=大名と長く深い関係を結んだ商人)になれば、リレーションシップ貸し出し(親密な関係に基づく信用貸し)にも似た安定事業に転じた点は興味深い。年貢などの恒常的な収入の保証がある大名に対しては、資金フローのモニタリングができれば、手数料取得のように手堅い事業になる。その意味では、堂島米市場も大名貸も、社会が安定存続すれば、加島屋にとって富を累積できるという点で、同じビジネスモデルだったといえよう。

 しかし、江戸時代に上り詰めた加島屋だが、昭和金融恐慌時の加島銀行は、預金取り付けと救済融資が最も大きい銀行の一つになってしまった。江戸時代の安定とは一変し、維新後の不安定な経済社会では、企業への資金提供は不確実性を伴い、その変化に適応できなかったからである。筆者は、「大名貸経営と近代的な銀行経営で決定的に異なるのは、融資先の経営構造である」としている。この資産サイドの課題に加えて、負債サイドの影響も大きかったかもしれない。存続できた大同生命の長期保険契約は、取り付けが顕著な預金と異なるため、株式の大部分を創業家が集中保有すれば、負債サイドの不確実性を排除できる。加島銀行の失敗は、不安定な経済社会に適応するために、負債サイドの安定指針という形で大同生命経営に反映されたと見なせるかもしれない。変動性が高まる現代企業経営にあっても、本書の発する含意は大きい。

(平山賢一・東京海上アセットマネジメントチーフストラテジスト)


 たかつき・やすお 東京大学大学院経済学研究科後期博士課程修了。経済学博士。専門は日本経済史。著書に『近世米市場の形成と展開』『大坂堂島米市場』などがある。

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