「Web3.0でデータの分散革命が起きる」佐々木隆仁・AOSテクノロジーズ社長
日本の弱点は大量のデータが個別に埋没して、連携が取れないこと。これを解消すれば劇的に変わると指摘するIT企業トップに話を聞いた。(聞き手=浜田健太郎・編集部)>>特集「メタバース&Web3.0のすごい世界」はこちら
── 日本は長年、米巨大IT企業GAFAMやオラクル、ドイツSAPなど米欧勢にIT市場を侵食されてきた。Web3.0の時代になると変わるのか。
■コンピューターとインターネットが登場してIT革命が起きて、今その次の革命を起こす時期に来ている。それがWeb3.0で、中核技術がブロックチェーンだ。さらに周辺を支える技術として、IoT、クラウド、ビッグデータ、モバイル、5G(第5世代移動通信)、AI(人工知能)などがある。技術革新の波がどこへ向かうかというと、中央集権型システムの破壊とデータの分散革命が起きるというのが我々の想定だ。
歴史を振り返ると前時代の覇者は次の時代に力を失う。中央集権型システムで富を稼いだ企業は、それ故に分散型システムへの投資ができない。GAFAMなどデータを集めて権力を握った企業は、分散型システムに移行したくても構造的にできないだろう。
── なぜいま分散革命なのか。
■ポイントは「マイデータ」という考え方だ。データは誰のものかという「主権」に関わる問題といえる。ネットで検索すれば、グーグルにデータが蓄積する。アマゾンで買い物しても同様。だが、そのデータは本来個々人が所有するものだ。ところが以前はマイデータという主権を守る方法がなかった。だからこそ、GAFAMが巨大な権力を持った。そこにブロックチェーン技術ができて、「これは私のモノ」ということを、コストを掛けずに証明できるようになった。これは画期的なことだ。マイデータを永続的に維持管理できる技術が登場したことが革命を支える重要なポイントになる。
宝の山は日本にある
── 強権的に14億人のデータを収集する中国がデータ時代には覇権を握るという見方が強い。
■ある意味正しい。政府に力があるので、データを集める力は日本が束になっても勝てない。ただ、中国は、中央集権型のシステムしか作ることができない。分散革命を起こすことは構造的に難しい。実は日本には大きな価値がある。米IBMの人工知能「ワトソン」の開発チームのメンバーは、日本のリアルのデータは、世界的にも質が高くて量も多く価値が高いと指摘している。宝の山が日本にあるという。
── それは産業に関連するデータか。
■産業だけでなくありとあらゆるデータだ。例えば日本には豊かな食文化があるが、データでみると違うものが見えてくる。食べ物をどう作るのかもノウハウであり、元はデータとして蓄積されている。ノーベル賞受賞者も多い日本は知的水準が高く、研究や知的財産のデータは価値がある。日本は世界的にみても質の高い医療サービスを提供しており、医療データに当然価値がある。ところが、医療データの半分は紙のデータとしてたまっていて、電子化されていない。データ時代の覇者になれるかどうかは、データを使いこなせるようなプラットフォームをどのように構築するかに懸かっている。
── どうすればいいのか。
■日本のIT企業の問題点は、顧客企業が望むオーダーメードのシステムを作り続けてきたこと。その結果、日本ではシステムが相互に運用・連携が取れない「サイロ化」が進んでしまった。しかし、新しいシステムをゼロから構築しても現実的な時間やコストで作ることはできない。従って、データをサイロから取り出して、安全に共有できるプラットフォームを作ればいいという発想の転換が必要だ。
── それをAOSが作ったと。
■「AOS IDX」という安全にファイル共有するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)のプラットフォームだ。医療、金融、製造業、メディアなど業界別にソリューションを提供している。当社はデータ関連のビジネスを20年以上続けてきて、1000万人を超えるデータを扱ってきた。そのノウハウを活用して開発した。ウェブ2の技術だが、ウェブ3への過渡期において橋渡しの役割を果たす。富士通とNECブランドのパソコンにバックアップ(AOS BOX)も提供している。少量データのバックアップは簡単だが、大量データだと難易度の高い技術が要求される。
■人物略歴
ささき・たかまさ
1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、89年富士通入社。同社ベンチャー育成制度を活用して95年3月にAOSテクノロジーズを起業し社長。2015年に社長を兼任する子会社リーガルテックが法務IT技術への貢献で経済産業大臣賞受賞。
週刊エコノミスト2022年10月25日号掲載
佐々木隆仁・AOSテクノロジーズ社長 GAFAM支配に対抗 日本の埋もれたデータに活路あり