教養・歴史書評

欲求の“自律的”制限としての脱成長論 評者・藤好陽太郎

『LIMITS 脱成長から生まれる自由』

著者 ヨルゴス・カリス(経済学者)

訳者 小林舞、太田和彦、田村典江 監訳 小林正佳 訳

大月書店 2420円

 あくなき経済成長の追求は、気候変動の深刻化から格差拡大まで、破壊的影響をもたらしている。世界の有識者が集ったシンクタンクのローマクラブは、1972年に『成長の限界』と題したリポートを出し、将来の人類の破滅を警告した。だが、80年代サッチャー英首相ら英米の新自由主義的な政策で成長の追求は加速。世界がコロナ禍に見舞われる中、「脱成長」が再び注目されている。

 脱成長論をリードする著者は、経済学者マルサスの『人口論』を取り上げる。人口は幾何級数的に増える一方、食料は算術数的にしか増えないとして、成長の限界を予言した書とされるが、実際には、マルサスは、生産量は永久に増えるとして、経済成長に楽観的な見方をしていたという。そこには、地球の資源は有限であることを承知しつつ、人の欲求は無限であるゆえ無限の成長が必要になるとの考えがあり、それが経済学の見方を形作ったという。著者は、『人口論』を批判することで、現在の経済の在り方を根底から問い直す。

 マルサスはまた、貧乏人は飢餓状態に放置してこそ、勤勉に労働し、結果的に生産性が上がると指摘した。著者は「『人口論』は、自由市場と成長の名において再分配と福祉を否定した最初の主張」と分析する。

 これは80年代以降、格差や分断が広がっても、再分配や福祉が十分に行われてこなかった流れに通じる。環境を語る術語も「限界」「危険」から「便益」「自然保護の費用」「貨幣価値」に取って代わられ、環境規制が緩和されたという。

 著者は、ローマクラブの『成長の限界』も環境保護主義も、限界は地球によって決定されており、人々はそれに適応しなければならないと主張している、と指摘する。だが、それは「他律的」であり、目の前の欲求を制限すれば将来多くを得られるとの考えに過ぎない。これでは、「技術革新や勤勉さで克服」できるとの反論に対抗できない。ではどうすればいいのか。「自律的」に成長欲求を制約し、地球資源獲得をめぐる自己制御をすべきというのが答えだ。そして、著者は資源を共有するシステムのコモンズの復権などを求める。

 古代ギリシャの自己制限も援用しつつ、思考のパラダイム転換を求める内容で、一読に値する。読みつつ、我々には経済社会の諸問題の解決には成長が不可欠といった思考が染み付いていることを痛感させられる。

 あまり具体性はないが、経済学者の斎藤幸平氏の解説が理解を助けてくれる。著者の改革案は、別の著書『なぜ、脱成長なのか』に詳しい。

(藤好陽太郎・追手門学院大学教授)


 Giorgos Kallis 1972年ギリシャ生まれ。スペインのバルセロナ自治大学環境科学技術研究所ICREA教授。専門はエコロジー経済学とポリティカル・エコロジー。脱成長論を世界的にリードする研究者の一人。共著書に『なぜ、脱成長なのか──分断・格差・気候変動を乗り越える』など。


週刊エコノミスト2022年11月8日号掲載

『LIMITS 脱成長から生まれる自由』 評者・藤好陽太郎

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