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テクノロジー これから来る!バイオ医薬株

バイオ医薬トップ2人に聞く 鈴木蘭美 モデルナ・ジャパン社長

 バイオ医薬品の開発には大学などでの基礎研究から製薬企業への橋渡しが重要だ。今後の研究・開発についてトップ2人に聞いた。(聞き手=荒木涼子/安藤大介・編集部)>>特集「これから来る!バイオ医薬株」はこちら

「国内工場で日本に特化したワクチンを」

 我々が新型コロナウイルスのワクチンを迅速に開発できたのは、「メッセンジャー(m)RNA」によるワクチン製造が、他の作り方と比べて早く作れる利点があるためだ。mRNAの配列を変えるだけで、新たなワクチンを作ることができる。

 中国・武漢で当初流行したウイルスのワクチンは11カ月で世に出せた。オミクロン株の派生型「BA.1」に対応するワクチンは6カ月、「BA.5」対応は2カ月とさらに早まった。BA.5は、承認申請においてFDA(米食品医薬品局)が必ずしも臨床試験(治験)の結果を必要としないと判断したことが大きい。BA.1のデータがあるので、BA.5も効くという前提で承認し、日本の当局も同様の判断をしたため、2カ月という驚異的な期間でできた。

 これは重要なポイントだ。今後、変異株が新たに出てくる時に、臨床試験を毎回、事前に必要とするかしないかで、世に出すスピードはかなり変わる。理想としては、日本など主要国の当局が協力し合い、全体的にどの程度の数で、どの程度の多様なデータを集めるかなどを事前に定めれば、さらに効率が良くなるだろう。

 コロナに関する最近の欧米のリポートによると、感染者数や入院者数が増えている地域があったり、さまざまな変異株が発見されたりしており、まだ油断をしてはいけないというのが私の意見だ。ただ、もし来年からエンデミック(一定の地域で普段から継続的に発生する状態)になるのであれば、弊社は1年に1度、秋冬に1回打てば、呼吸器感染の重症化に至らないというものを世に出していこうと考えている。「この時期に、この地域で、これがはやるに違いない」というのが見えているのであれば、日本に特化したワクチンを作るのが一番理想的だ。

46種類の新薬開発急ぐ

 ワクチンが2、3カ月で作れるという我々の技術でやれば、(感染が拡大し始める)秋により近い5、6月のデータに基づき、かつ日本に特化したデータに基づいて9月にワクチンが出せるので、成功確率が上がると考えている。

◎鈴木蘭美・モデルナ・ジャパン社長
◎鈴木蘭美・モデルナ・ジャパン社長

 日本に工場を作ることは本当に必要だ。理想を言えば、世界保健機関(WHO)が「これはパンデミック(世界的大流行)だ」と判断し、政府が指令を出してから、可及的速やかに数カ月以内に全国民に行き渡るワクチンを製造できなきゃいけないと思っている。それを最も効率よく、確実にやるのは、国内でのワクチン製造だ。

 弊社でmRNAなどの原薬(有効成分)を作り、製剤化して箱詰めし、流通していく部分は、他社に委ねたい。一刻も早く動く、また流行の状況を見て、日本特有のものを作るということになると、工場があった方がずっとやりやすい。弊社の気持ちは固まっており、政府に働きかけている状況だ。

 コロナワクチン以外では、開発中の46種類の新薬を極力遅延なく、すべて開発して提供していきたいという強い思いがある。インフルエンザ、RSウイルスなど3種類は、臨床試験の最終段階だ。がん治療用ワクチンの開発では、年内にデータが出るのをワクワクしながら待っている。

 元々、弊社は希少疾患に特化した会社だった。患者数が少なく収益にならないのかもしれないが、社会的な意義があるため開発は確実に続けていく。小規模単位で薬が作れるというのはmRNAの利点だ。


 ■人物略歴

すずき・らみ

 1999年英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで医学博士号取得。エーザイ事業開発執行役、ジョンソン・エンド・ジョンソングループの医薬品部門「ヤンセンファーマ」事業開発本部長やメディカル事業部門本部長、フェリング・ファーマ最高経営責任者などを経て、21年11月より現職。


週刊エコノミスト2022年11月8日号掲載

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