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テクノロジー

コロナ一巡で治験再開の機運、新薬開発へ高まる期待 荒木涼子/安藤大介(編集部)

 バイオ医薬株が回復の兆しを見せている。新型コロナウイルスの感染が世界的に落ち着いてきたことで、医療や研究機関におけるコロナ以外の新薬の開発や治験・治療が再開するとの見方が強まっていることが背景だ。(これから来る!バイオ医薬株 ≪特集はこちら)

 成長期待が高いバイオ医薬株は「グロース株」の側面もあり、今年に入ってからの米金利上昇局面では業績の実態以上に大きく売り込まれていた。米国の主要なバイオテクノロジー企業で構成されるナスダック・バイオテクノロジー株指数は6月時点では、米S&P500株価指数に対し、大きく調整していた。しかし、足元では「ポストコロナ」を見込んだ買いが入り、S&P500を上回る反発を見せている(図1)。

 バイオベンチャーなどのバイオ医薬企業にとって、がんなどの新しい治療法につながる“シーズ”を見つけることが事業の中心だ。臨床研究などで安全性や有効性を調べてシーズに磨きをかけ、大規模な治験が可能な体力ある製薬大手と提携したり、ライセンスを供与したりすることでさらに成長していく。みずほ証券の都築伸弥シニアアナリストは「コロナ禍のこの2年半、各社が社内で開発を進め、仕込んでいた開発品の提携契約が、実際に企業間の関係者同士で対面で会えることになったことで花開く機運は高まっている。年後半にかけて提携関連のニュースも増加するだろう」と話す。

 コロナワクチンで一躍有名となったメッセンジャーRNA(mRNA)を用いた医薬品開発技術は、ワクチン以外にもがん治療や遺伝子治療など多様な分野に応用が見込まれている。このほか国内製薬大手エーザイが米バイオジェンと共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が2023年中にも日米欧で承認されそうだ。

 世界的な往来の回復で、M&A(合併・買収)が活発化することも期待されている。「バイオ医薬品企業をターゲットとしたM&Aが増えれば、次のターゲットとなる企業にも注目が集まり、バイオ医薬株全体のパフォーマンスを押し上げる」(ピクテ・ジャパンの野中靖・投資情報部長)。5月以降、米ファイザーや米ブリストル・マイヤーズスクイブによるバイオ医薬企業の買収が相次いで起こったが、その動きが持続するかどうかもポイントという。

ブタの心臓をヒトに

 一方、国内にも独自技術で「ゲームチェンジャー」を狙うベンチャー企業が多くある。

 明治大学の長嶋比呂志教授らが設立した明治大発ベンチャー「ポル・メド・テック」はその一社だ。遺伝子改変した医療用ブタの心臓をヒトに移植することを目指している。すでに18年までに、厚生労働省が定める約40種類のウイルス検査などをクリアした「無菌ブタ」の開発・飼育に成功。最近では、ヒトに臓器を移植しても免疫拒絶を起こしにくいように10個以上の遺伝子を操作したブタの胎児を誕生させた。今後、繁殖や大量飼育などを進め、医療に供給できる体制を整える。長嶋教授は「飼育ケージや手術台への輸送機器類なども工夫し、小回りの利くインフラ整備も行っていく」と話す。順調にいけば26年度中にも、臨床研究に移植用のブタを提供できるという(図2)。

 日本臓器移植ネットワークによると、国別の人口100万人当たりの臓器提供者数(ドナー数)は、日本は0.61人で、米国の約38人、韓国の約9人と比べて大幅に少ない。ブタなどの動物を使った「異種移植」が普及すれば、ドナー不足の解消への一助と期待される。

 世界では、すでに膵島(すいとう)などでも無菌ブタからの移植は始まっている。だが、ブタの臓器を使うことに抵抗を覚える人も少なくない。

 そこで、ポル・メド・テックでは、長期的な研究として、ブタの臓器を移植するのではなく、ブタの体内でヒトの細胞でできた臓器を作り、患者への移植を目指す研究も進める。米スタンフォード大の中内啓光教授らが発明したiPS細胞(人工多能性幹細胞)などを使った「胚盤胞(はいばんほう)補完法」の応用だ。

 例えば、ヒトの膵臓を持つブタを作る場合、遺伝子を効率よく改変できる技術「ゲノム編集」でブタの体細胞の核にある膵臓を作る遺伝子を壊し、この細胞をブタの未受精卵に移植して「生命の芽」となる胚に育てる。胚は膵臓を作れないが、ヒトのiPS細胞を入れ、母親ブタの子宮に戻せばヒト由来の膵臓を持った子ブタが育つ──という流れだ。まだ基礎研究レベルだが、長嶋教授は「いずれ、究極的にはこの方法も実用化させ、心情面や経済面などでさまざまな選択肢が存在するようにできれば」としている。

エコシステム確立を

 ただ、日本のバイオ医薬市場は、世界最大の米国に比べて規模が大幅に小さいのが実情だ。その背景には、バイオ医薬企業にリスクマネーや人材を供給する資本市場の使い勝手が悪いことがある。

 人工血液を使い輸血医療のインフラ革新を目指すバイオベンチャー・メガカリオンの共同創業者、三輪玄二郎氏は日本における資金集めの難しさを指摘する。創業した11年ごろ、資金集めのために各地を回り、20社近くを行脚したが、「ベンチャー企業発の技術で医療インフラを変えるのは不可能」となかなか首を縦に振ってもらえなかった。

 一方で12年夏には米国防高等研究計画局(DARPA)からの資金提供を在日米国大使館の関係者から持ちかけられた。ただし、その資金を使って得た知的財産権は米国のものとなる条件付きだった。「やはり国産に」と他を探し、ようやく13年、官民ファンドからの支援が決まり、他のベンチャーキャピタル(VC)からも話が来るようになった。

 資金が得られたことで、血液の研究に加え、血液成分を効率よく培養するための装置や、輸送のためのパック開発など、専門技術を持つメーカーとの共同開発も進められた。三輪氏は「技術と特許があっても、金が集まらなければ先に進めない。ただし結果が出るまでに10年かかるとなるとVCもなかなか先を見越せない」と語る。

 長年、文部科学省の幹部として開発支援に携わってきた菱山豊・徳島大副学長は、大学における研究成果を製品として市場に出し、それを再び大学に還流させる──というエコシステムの構築の必要性を指摘する。世界に負けないバイオ医薬品を開発するには、資本市場の充実に加え、「息の長い官民の支援体制と、新しい技術の可能性を評価できる目利き人材の育成が欠かせない」(菱山氏)。

(荒木涼子・編集部)

(安藤大介・編集部)


週刊エコノミスト2022年11月8日号掲載

コロナ一巡で治験や治療が再開 有望新薬へ高まる期待=荒木涼子/安藤大介

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