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テクノロジー

バイオ医薬トップ2人に聞く 高橋淳 京都大学iPS細胞研究所長

京都大学提供
京都大学提供

 バイオ医薬品の開発には大学などでの基礎研究から製薬企業への橋渡しが重要だ。今後の研究・開発についてトップ2人に聞いた。(聞き手=荒木涼子/安藤大介・編集部)>>特集「これから来る!バイオ医薬株」はこちら

「薬効だけでなくビジネス成立も必要」

 当研究所は、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を病気の治療に使えるものにすべく、まずは臨床研究というステップまで到達しようと走ってきた。約10年で、そこは達成できた。しかし(治療に使えるまでには)まだ過渡期。

 臨床研究に至ったことと、治療法としての確立には、大きなギャップがある。そこを埋めるのがこれからの課題だ。国内で実施されている、重症心不全の患者に対する心筋細胞の投与など11本の臨床研究のうち、当研究所はパーキンソン病に対する治験など4本を進めている(表)。そこで出た課題を、複数のチームで共有し、他の研究機関や産業界にも広げたい。

 そして、患者さんへ治療を届けるには、次のステップとして縦展開と横展開の2方向がある。縦展開では、現在使うiPS細胞を第1世代とすると、第2世代、第3世代と細胞自身をバージョンアップしていく。iPS細胞自身も、iPS細胞から作る(実際に治療に使う)細胞も、高効率に質の高い細胞を作ることを目指す。そこは基礎研究のど真ん中の部分。(体細胞からiPS細胞を作る際の)初期化のメカニズム解明などだ。

 横展開は、臨床研究をさらに応用して実際の治療につなげることと、これから臨床研究に至る別の研究に、経験を還元すること。社会への展開となる横展開は、当研究所だけでなく、産業界や規制当局との連携も欠かせない。特にビジネスにならないと多くの患者さんに届けられない。安全性・有効性を臨床研究で示すのは大前提だが、先行する治療法に対して薬価が高すぎたり、使える患者が限定的だったりすると、どこの企業も参画できない。

 さらに細胞を治療に使うというのは、従来の薬のような歴史がない。従来の薬も、さまざまな副作用や薬害の経験を乗り越えて今がある。細胞治療はやってみないとわからない面もあり、だからこそ、得られたデータをもとに反省し、情報共有していくことが大切だ。当研究所としては、科学的な証拠をしっかり固め、結果を社会にフィードバックしていきたい。

究極には“地産地消”

 今回の新型コロナウイルス感染症に対するワクチンや治療薬の開発にあたっては、海外勢に、基礎研究力も実用化に持っていく力も圧倒された。今、iPS細胞の研究も、海外のメガファーマは、かなり力を入れていると感じる。iPS細胞の研究は、日本で臨床研究に到達したので、最後、患者さんに届ける覚悟を、日本の産業界にも期待したいと思っている。

 そして、iPS細胞の特性を最も生かせるのは、患者さんの細胞から患者さん自身のiPS細胞を作り、そこから治療に使う細胞に変化させて患者さんに戻すことだ。

 細胞は“生もの”なので、化合物や工業製品と違い、大量生産大量出荷で世界中に届けるのは不向きだ。iPS細胞の究極の利用方法は、地産地消のビジネスモデルと考えている。(初代所長の)山中伸弥氏は強い発信力があった。今後も当研究所として、特色を生かして発信していきたい。


 ■人物略歴

たかはし・じゅん

 1986年京都大学医学部卒。93年同大大学院医学研究科博士課程修了、同大医学部付属病院入局。95~97年米ソーク研究所研究員。2007年同大准教授、12年同大iPS細胞研究所教授、22年4月より現職。18年パーキンソン病患者に対するiPS細胞を使った治験を世界初実施。


週刊エコノミスト2022年11月8日号掲載

バイオ医薬株 バイオ医薬トップ2人に聞く 高橋淳 京都大学iPS細胞研究所長

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