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マーケット・金融 インフレ時代の投資術

《投資の知恵》円高シナリオ念頭にバランスのいい運用を 森永康平

円安が進む中、外貨預金が人気だが……
円安が進む中、外貨預金が人気だが……

 物価上昇に対抗するため、高金利の外貨預金が人気だ。しかし、来春の日銀総裁の交代を見越した投資を考えるべきだ。>>特集「インフレ時代の投資術」はこちら

高金利で為替差益も期待できる外貨預金にもデメリット

 世界中がインフレに苦しんでいる。米国では6月の消費者物価指数(CPI)の伸び率が前年同月比9.1%と1981年11月以来、約40年ぶりの水準だった。その後、やや鈍化したものの、依然として8%を超したままだ。ドイツでも9月のCPIは欧州連合(EU)基準で10.9%、独基準で10.0%と高い。前者は96年の調査開始以降、後者は50年代初頭以降で最も高かった。他の先進国も英国10.1%、ユーロ圏9.9%、カナダ6.9%と極めて深刻な水準だ。

 日本でも連日のように「値上げラッシュ」と報じられている。帝国データバンクが10月1日に発表した「『食品主要105社』価格改定動向調査」によれば、同月中に値上げする予定の食品は6699品目に上った。値上げ品目数は今年に入って最も多い。値上げ品目は通年で2万品目を超え(10~12月は見込み)、各品目の価格改定率の平均は14%という。

 食品以外の物価高もあり、日本のCPIは8月に、1991年11月以来、30年9カ月ぶりの水準である3.0%上昇となった。日本のインフレも歴史的な水準になっていることが分かる。

 ただ、欧米に比べて日本は著しく低い。なぜか。そのヒントは企業物価指数にある。日本銀行が発表する企業物価指数は企業間で取引されるモノの価格を示す経済指標だ。9月速報値は2020年の平均を100とした水準で116.3と過去最高を記録し、前年同月から9.7%上昇した。つまり、「日本のCPIだけが低い」のであって、企業物価は欧米並みの高い上昇率となっている。

 更に日銀が企業物価指数と同時に発表する輸入物価指数を円ベースで見ると、9月速報値は前年同月より48.0%も上昇している。欧米では企業物価指数に相当する生産者物価指数はCPIとそこまで大きくは乖離(かいり)していない。日本企業は円安によって欧米より高い物価上昇に苦しんでいるのだ。

 日本の消費者は長い間、デフレ経済を経験し、わずかな値上げにも抵抗感を示すようになった。だから企業は「値上げすれば売上高が減る」と懸念し、価格をなかなか転嫁できない。それがCPIと企業物価指数の大きな乖離に表れているのではないか。

外貨預金に集まるマネー

 米国では連邦準備制度理事会(FRB)がインフレを退治しようとして、異次元のペースで政策金利を上げ続けている。一方、日銀は利上げをせず、金融緩和政策を続ける。日米の金利差が拡大していることが円安の大きな理由だ。

 その結果、外貨預金の人気が急上昇している。ソニー銀行は7月29日、「6月には2月比で、外貨預金全体の購入額が2.6倍に増加」と発表した。米国の利上げを受け、米ドル定期預金(6カ月物)の金利が2月末の年0.15%から6月末の年1.5%へと10倍にも上がったことが主因と見られるという。メガバンクの円建て定期預金の金利は預け入れ期間にかかわらず年0.002%にすぎない。外貨預金は金利がはるかに高く、マネーを呼び込んだのだろう。ちなみにソニー銀行の米ドル建て定期預金(6カ月物)の金利は10月14日現在、円建て普通預金から預け入れた場合は年6%、外貨普通預金からは年2.55%と更に上がった。

 外貨預金の魅力は高金利だけではない。「今後も円安が進む」と考える人にとって、外貨預金に資金を移せば為替差益も期待できる。その思惑が外貨預金ブームにつながったと考えられる。

 しかし、「高金利」と「為替差益」というメリットだけに着眼するのは危険だ。外貨預金にも当然、デメリットはある。外貨預金に資金を移すため外貨に替える際、そして満期時点で円に戻す際にそれぞれ手数料がかかる。また、「預金」という名称ではあるが、預金保険制度(ペイオフ)の対象外だ。

 なによりのデメリットは、外貨預金に資金を移してから円高が進むと、円に戻す際に為替差損が生じて元本割れする可能性があることだ。例えば、銀行の為替レートが1ドル=145円の時に10万円を米ドル建て定期預金に移したとしよう。金利が年6%だとしても、1年後に1ドル=120円になっていれば、円に戻すと8万円台だ。

 今後も円安が進行するなら問題はないが、そうなるとは限らない。例えば、FRBが利上げを続けてもインフレが収束せず、「これ以上の利上げに経済が耐えられない」と判断すればどうだろう。FRBはインフレターゲット(物価目標)を引き上げ、利上げをやめたり、利下げに転じたりするかもしれない。また、日本の世論が「物価上昇の主因は円安だ」とする「円安悪玉論」に傾けばどうか。任期が来年4月までの日銀の黒田東彦総裁が退任後、後任の総裁には大きなプレッシャーがかかる。金融緩和をやめて利上げに転じるという大きな政策変更があってもおかしくない。そうなれば、日米の金融政策の方向が今とは逆向きになるわけで、円高が進みやすくなる。

株は“意思”ある資産

 資産の一部を外貨に替えたいなら、外貨預金以外に外国株に投資する手がある。当然、外貨預金と同じく、投資した後に円高が進めば為替差損が生じ得る。しかし、株の場合は配当収入や株価の上昇による売買益が期待できる。

 株は企業の資産を裏付けとする資産だ。その企業の経営者はどんなに厳しい環境にあっても、知恵と工夫をしぼって利益を増やそうとする意志が強いはずだ。その点で通貨や金のような“意思のない資産”とは違う。それが株を運用資産の一部にすべき理由だ。

 外国株に不安がある人もいるだろう。その場合は外国株そのものに投資するのではなく、外国株を組み入れた投資信託を購入するのがいいかもしれない。多数の株に分散投資しており、現物株を購入するよりリスクを抑えられるからだ。

 投信の場合は「S&P500種株価指数」など米国の株価指数に連動するものがよいだろう。そう話すと、「米国株だけに投資することになり、地域分散が効かないじゃないか」と指摘する人がいる。私はそうは思わない。時価総額が大きい米上場企業の多くは、米国外の売上高比率が高い。それらの企業は米国の証券取引所に上場しているが、世界中から収益を得ている。だからS&P500などに連動する投信を買えば、十分に地域分散できると考えられるのだ。

 ただ、「やはり米国以外の株にも投資したい」という人は、「MSCI全世界株指数」のような多数の国の株価を基にした指数に連動する投信に投資するといい。そのような投信の投資先を国・地域別割合で見ると、米国が5割超を占めていることは把握しておきたい。

 金や不動産に投資することを考える人もいると思うが、あくまで資産分散の選択肢という程度に考えておくとよい。前述した通り、金や不動産などの実物資産は株と違って、外部環境が激しく変化した時、能動的に対応できない。債券については国債や社債を複数購入するより、債券と株式などを組み入れるバランス型投信のほうが手軽だろう。

 政府・日銀が1ドル=145円台で踏み切った円買い為替介入の効果は続かず、一時150円を突破した。しかし、新型コロナウイルス、ロシアのウクライナ侵攻、世界的なインフレと利上げによる景気減速といった不安定要素はくすぶり続けており、円高方向に転換する可能性が皆無とはいえない。通貨分散による円安対策は重要だが、来春以降の「円高シナリオ」も念頭に置きながら、バランスのいい投資戦略が求められる。

(森永康平・経済アナリスト)

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