教養・歴史書評

精神科治療は病院も本人も家族も共に努力を 高部知子

×月×日

 私が精神科医療で働くようになって20年近くなるであろうか。出会った患者さんとの思い出がたくさんある。認知症、気分障害、うつ病、依存症などなど、精神科はいつも予約で満杯だ。こうした日々のなか、いつも思うことがある。病気には2種類あって「自分ではどうしようもない病気」と「病院の力だけではどうしようもない病気」。例えば手術。これは自分ではどうにもできないし、精神科でも先天性あるいは器質性の病気は自分でできることが少ない。しかしそれ以外の病気はむしろ「病院の力だけではどうにもならない」ことが多いように思う。例えば認知症であっても、本人の努力と家族のサポートがある、ないで症状の出かたは大きく変化する。「お薬や手術で治りました」という病気ではない。

 このようなことを考えていたら、面白い精神科医をYouTubeでみつけた。30万人以上の登録者数を誇るYouTuber先生だ。せっかくなので著書『精神科医の本音 患者の前で言えない本当のこと』(益田祐介著、SB新書、990円)を読んでみた。大変わかりやすく精神科医療について説明されているという印象だった。全体を通して著者が伝えたいことは、精神科医療従事者なら同じように感じているのではないかと思う。つまり「精神科の先生が助けてくれると過度に依存してはいけません」ということであろう。著者はそれを「『赤ひげ精神科医』の方々が『名医』なのかと聞かれたら、私には疑問が残ります」と表現している。映画にもなった「赤ひげ先生」は患者に寄り添って身を粉にして働くけど、やり過ぎは患者さんと共依存になりかねず良くない。私も同感で、それが「病院の力だけではどうにもならない」、つまり患者さんとご家族と病院みんなで力を合わせて対応する、それが精神科の病気ですよ……ということだと思う。

 ただひとつだけ。本書では心理士はカウンセリングをする人で有効性が乏しく、また…

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