経済・企業挑戦者2022

段ボールに家具としての新たな息吹を 

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

和田亮佑 カミカグ代表取締役

 おしゃれと実用性を兼ね備えた段ボールの家具を製作し、業界の新しい市場開拓と、サステナブル(持続可能な)社会の実現を目指す。(聞き手=白鳥達哉・編集部)>>これまでの「挑戦者2022」はこちら

独自開発ソフト使い椅子1脚2~3時間で完成

 椅子や展示会場で使う展示台などをはじめとし、デザイン性と機能性を両立させた段ボールの家具を販売しています。

 段ボールという素材は「箱」のイメージが強いので、強度がそこまでではないと思う人も多いかもしれません。しかし、使う厚みや積層の向きなどを工夫すると、人が乗っても大丈夫なくらいの強度がでます。たとえば、私たちが販売しているLサイズ(高さ50センチ)の椅子であれば、1.2トンの重さまで耐えることができます。

 素材の軽さも魅力で、木製の10分の1程度の重さしかないので、お年寄りや子どもでも楽に持ち運びができます。

新たなラインアップとして机の販売も始まった カミカグ提供
新たなラインアップとして机の販売も始まった カミカグ提供

 なにより試作がしやすいという利点もあります。製作では、独自開発の設計ソフトを使っています。コンピューター上で家具の三次元モデルを作ると、まずそのモデルを輪切りにした素材の設計図を作り、さらに段ボールに無駄なく素材を配置するというものです。この工程を自動化したことで、椅子1個を2~3時間と短時間で作ることを可能にしました。

 高さや幅の変更も自在ですし、三次元モデルが作れるものなら、たとえば美術品のオブジェによくあるような複雑な形でも、段ボールで再現することができます。

 現在の販売価格は、椅子であれば6300円(11月8日時点)から。販売のほかにレンタルも行っています。

講義で出した事業案を現実に

 起業を意識する一つのきっかけとなったのは、学生がオリジナルの事業案を考えて発表するという大学の講義で、段ボール家具のアイデアを思いついてからです。講義で良い成績を取ることができたこともあり、実際に事業としてやってみたいなという思いも出てきました。

 その後、興味のある学生同士で集まって、外部のビジネスコンテストに出すなど、試行錯誤を続けていたのですが、東京都の創業・成長支援プログラムに採択されたことをきっかけに、会社を設立しました。

 現在は電子商取引(EC)サイトを通しての個人販売や、展示会などイベント関連での利用が中心です。会社としては始動したばかりなので、売り上げ自体はまだまだ。顧客からこういった製品を作れないかという相談もあるので、それらのアイデアも積極的に取り入れながら、まずはラインアップを増やしていく予定です。

 家具というものは、発展途上国の工場で作って日本に輸入し、最後には粗大ゴミとして捨てられてしまいます。一方で、段ボールはみんなが知っている素材で、リサイクルの仕組みも整っています。家具のような付加価値の高いものを段ボールで作ることができれば、無駄を解消できる一つの仕組みが作れるし、そこで魅力的なものを作っていけば、市場は必ずあるはずです。とはいえ、そのようなことを実現するには、いろいろな協力が必要不可欠だと考えています。そのため、段ボール工場など関連事業の会社との協業についても模索しているところです。

 最終的にはサステナブルな社会を作る一つの選択肢として、受け入れてもらえるような未来を目指したいですね。


企業概要

事業内容:ダンボール家具・什器の企画・製造・販売

本社所在地:東京都墨田区

設立:2021年12月

資本金:100万円

従業員数:13人(業務委託含む)


 ■人物略歴

わだ・りょうすけ

 1995年東京都生まれ。開成高校卒業、東京大学工学系研究科建築学専攻修了。東京大学の起業家精神育成プログラム「アントレプレナー道場」で段ボールで家具を作るアイデアを思いつき、21年カミカグを設立。27歳。


週刊エコノミスト2022年11月22日号掲載

和田亮佑 カミカグ代表取締役 段ボールの価値を再定義

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