卵子凍結という選択肢
勝見祐幸 グレイスグループ代表
女性の社会進出が進む中、結婚・妊娠と仕事の両立に悩む女性は少なくない。女性が柔軟にライフプランを選択できる社会を目指し、卵子の凍結、保管を手掛ける。(聞き手=斎藤信世・編集部)>>これまでの「挑戦者2022」はこちら
提携クリニックで採卵、巨大タンクで保管管理
卵子の凍結・保管サービスを手掛けています。現在までに全国約30のクリニックと提携しており、提携先のクリニックが採卵・凍結、一時的に卵子を保管し、我々が2カ月に1回程度の頻度で凍結した卵子を回収に行っています。それを、さい帯血の保管事業を手掛けるステムセル研究所の巨大なタンクの中で保管・管理する仕組みです。
例えば、今年4月開業のグレイス杉山クリニックSHIBUYAでの料金体系は、初回の検査から最終的な凍結までで40万円(税抜き)です。その他に、保管料が月額3900円(税抜き、年払いは4万5000円)別途発生します。現在、11月からを目安に、採卵凍結費用40万円の分割払い制度の導入も検討しています。
利用者は個人の他、ネット広告大手のサイバーエージェントや、通信販売大手のジャパネットホールディングス(HD)、ゲーム大手のセガサミーHDなどの企業が、社員の福利厚生の一環として当社のサービスを導入しています。
不妊治療7年間の原体験
新卒では、海外勤務可能な会社を選び、6年半勤めました。その後、転職をしましたが、29~30歳の時にうつ症状になり、毎日のように電車に飛び込もうと考えていました。自殺を踏みとどまれたのは、今は亡き母の存在です。母より先には死ねないなと思い、心機一転、いろいろな人に会うことにしました。
そこからは、毎週のようにパーティーを開き、経営者と転職したい人の希望がマッチングしたら採用側からお金をもらうという、キャリアコンサルのような仕事を2019年まで続けました。
転機は、友人数人で食事会をした際に訪れました。その場にいた友人が卵子凍結を考えていたんですよね。実は僕自身も不妊治療を7年間行った経験があるので、不妊治療がどれだけ大変かは分かっていました。僕の周りでも仕事を頑張っている女性ほど結婚や出産を先延ばしにしていて、いざ子どもを作りたいと思っても年齢的に難しいことがあるんですよね。でも、たった一度の人生だから、仕事も子どもを持つ夢も諦めたくないので、結果として不妊治療を繰り返しているという話を聞いた時は、強烈な課題を感じました。
米国では14年にフェイスブック(現・メタ)が福利厚生として卵子凍結に年間1人当たり2万ドルを補助するという制度を導入して以降、あっという間に卵子凍結という選択肢が広がっています。そこで、産婦人科医の中林稔先生に、日本で卵子凍結が普及しない要因を聞いたところ、日本産婦人科学会が「否定はしないが、現段階では推奨はしない」というスタンスなので、現場の医師たちも「ぜひやりましょう」とは言えないのではないか、とのことでした。それで僕と中林先生とで会社を設立することにしたんです。
今後は、日本全国に若い女性が気軽に行ける婦人科のクリニックを作りたいと思っています。そのため、婦人科だけでなく、美容皮膚科や審美歯科などの併設を検討しています。第1号店は東京・丸の内のJPタワーの地下1階に来春に開業することが決まっています。ここを皮切りに、今後2年間で全国約20カ所にクリニックを作りたいです。
企業概要
事業内容:卵子凍結の保管サービスなど
本社所在地:東京都渋谷区
設立:2020年8月
資本金:5億8729万円
従業員数:20人
■人物略歴
かつみ・ひろゆき
1971年静岡県沼津市生まれ。94年に東京大学卒業後、同年三菱石油(現ENEOSホールディングス)に入社。2020年8月にグレイスグループを設立。51歳。
週刊エコノミスト2022年10月25日号掲載
勝見祐幸 グレイスグループ代表 卵子凍結という選択肢