建てないから壊さない「移動型ホテル」が変える建築の概念
山中拓也 BLANC代表取締役社長CEO
「建てて壊す」から「設置して移動する」へ。トレーラーハウス型ホテルから、建築の概念を変える。
(聞き手=市川明代・編集部)»»これまでの「挑戦者2022」はこちら
移動型ホテルで自然を生かす
トレーラーハウス型ホテルの運営と、トレーラーハウス「Movilla(モビラ)」の開発をしています。2023年には山梨県富士吉田市で、Movillaを使った全19室の「BLANC FUJI」を開業予定です。
日本の国土の15%は自然公園で、建築制限などさまざまな規制がかけられています。こうした場所こそ風光明媚(めいび)で、貴重な観光資源でもある。豊かな自然を守り、生かす、この二つを両立させるために、建築確認申請の不要なトレーラーハウスを採用しています。
トレーラーハウスは、道路運送車両法で全長12メートル、幅2.5メートル、高さ3.8メートル以内、重さにも上限が設けられています。それだけに、従来品には簡易な「仮設住宅」というイメージが根強くありました。当社は、限られた条件下で、防音、断熱、防湿効果を極限まで高めた、快適な空間作りを実現させました。
こだわっている点は、いくつもあります。一つは幅2650ミリメートル×高さ1350ミリメートルの窓。この比率は、当社のロゴデザインにもなっています。トレーラーハウスのメリットは、窓からの風景がもっとも美しく見えるように位置を調整できること。窓を大きく取って自然との境界をなくすよう工夫しています。
もう一つは、個室サウナです。BLANC FUJIは一部居室に専用サウナが備え付けられています。富士山の雪解け水が湧き水となって流れる桂川に隣接しており、サウナと水風呂を同時に楽しむことができます。
全国には、ニーズの変化とともに客足が途絶え、廃虚化している宿泊施設がいくつもあります。トレーラーは、建てるのにも壊すのにもお金のかかる建築物と違って、不要になったら移動させればいい。自治体などから問い合わせがあり、新たに5カ所ほどの候補地で開設を検討しています。
投資家向けには、ホテルを1棟から所有できるサービスを提供しています。減価償却年数が4年と短く、節税効果が高いため、これまで販売した2期はいずれも即完売しています。
宮古島の自然との出会い
大学では、観光学を専攻しました。学生時代は自転車で日本全国を旅し、いつか新たな観光ビジネスを創り出したいと考えていました。在学中に友人とシェアハウスビジネスを試みたものの失敗。卒業後、スタートアップを支援する企業に4年間勤め、独立しました。
転機となったのは、沖縄県宮古島との出会いでした。リゾート開発の進む島の中心部とは対照的に、手つかずの自然が広がるエリアがありました。従来型の建築物では、豊かな自然が台無しになってしまう。かといって、テントでは安全性に不安がある。考えた末、たどり着いたのがトレーラーハウスでした。18年に創業、19年に宮古島でグランピングリゾート「RuGu」を開業しました。
滋賀県立大学の金子尚志准教授を技術顧問として迎え入れ、より快適なトレーラーハウスの開発を続けています。必要なエネルギーを自ら作り出す、エネルギー循環型のホテルを作るべく、太陽光発電や水循環システムのメーカーなどの選定を進めています。
目指しているのは、移動型建築を通じた持続可能な社会。あらゆる建築物の概念を変えていきたいと考えています。
企業概要
事業内容:ホテル事業、トレーラーハウス開発事業
本社所在地:東京都渋谷区
設立:2018年5月
資本金:790万円
従業員数:16人
■人物略歴
やまなか・たくや
1988年埼玉県生まれ。立教大学観光学部在学中にシェアハウス事業を立ち上げる。2012年にスタートアップ支援会社に入社し、16年に退社。ホテル、民泊、レンタルスペースを運営するTRIPMOLEを創業し、事業譲渡。18年5月にRuGu(ルーグー)=現BLANC(ブランク)を創業。