「紙」から作る新素材で“脱プラスチック”
深澤幸一郎 カミーノ代表取締役
紙を使って、プラスチックに代わる強度の高い素材を作る──。新たな発想で、脱プラ社会を実現しようとしている。(聞き手=市川明代・編集部)>>これまでの「挑戦者2022」はこちら
植物由来成分と乳酸菌からなる樹脂「ポリ乳酸」と紙が主原料
紙を主な原料とする植物由来成分99%の新素材「PAPLUS(パプラス)」を開発、PAPLUSに添加剤を少量加えることで耐熱性を高めたコップやタンブラー、プレートを企業や一般向けに販売しています。
PAPLUSは、トウモロコシのデンプンなどの植物由来の樹脂「ポリ乳酸」に紙を混ぜ合わせた素材です。石油由来のプラスチックは、熱を加えると水のようになり、型に流して簡単に成型できます。植物樹脂は、熱を加えると水あめのようにドロドロで型に流しにくなど、扱いが難しいのが特徴です。ポリ乳酸のプラスチック成型の第一人者を技術顧問に招き、材料を米粒状のペレットにしたものを、特殊な技術を使って通常のプラスチックのように成形するという方法にたどり着きました。
原材料の紙は、食品製造工程で使用されている特殊なものをリサイクルしています。PAPLUSそのものは熱にあまり強くないため、コップなどを商品化するにあたって天然の粘土鉱物を約7%、石油由来の添加剤を約7%混ぜ、耐熱性を120度まで高めました。
これまでに、カフェや企業の社員食堂などに納品してきました。一般向けには、オンラインでふた付きタンブラー(4620円)などを販売しています。このほか、自治体や学校でも導入が検討されています。
大学卒業後、外務省に入省しました。発展途上国での勤務でゴミに囲まれて生活する貧しい人々を目にしました。ゴミの中には日本語の記されたプラスチックもありました。海外では、日本の過剰包装や便利グッズで使われるプラスチックの無駄を指摘されることもありました。いつか環境問題に関わる仕事がしたいと考えるようになりました。
広島の折り鶴再生からスタート
2002年、10年勤めた外務省を退職し、日系企業の海外進出などを支援する会社を起業しました。支援先の一つである徳島県のリサイクルパルプメーカーとともに、飲食店から牛乳パックなどを回収し、紙ナプキンにして戻す、というビジネスモデルを作る中で、紙の循環をビジネスにできないかと考え、カミーノを設立したのです。
当時、広島市が、平和記念公園にささげられる年間1000万羽(重さ10トン)もの折り鶴の再生方法について、アイデアを募集していました。徳島のリサイクルパルプメーカーは、特殊な古紙処理機を使って大量の紙を高速でパルプに変える技術を持っています。この技術を生かして、既存の記念品のメモ帳や付箋とは違う、「決して捨てられることのない商品」を作ろう、という目標を掲げ、折り鶴の再生プロジェクトをスタートしました。
有名ブランドなどとコラボレーションし、扇子などVIP向けのノベルティーグッズを開発したところ、好評でした。でも、紙製品は使い込むと破れてしまい、結局ゴミになってしまう。紙を使ってプラスチックの代わりになるような強度の高い素材を作れないか、という発想から、PAPLUSが生まれたのです。
商談では、植物由来の割合はそこまで高くなくていい、代わりに柔軟性や難燃性がほしい、といった要望を受けています。今後は機能性を高めた商品もラインアップに入れていく必要があると考えています。
企業概要
事業内容:環境配慮型素材「PAPLUS®(パプラス)」製品の企画
本社所在地:東京都港区
設立:2015年4月
資本金:1300万円
従業員数:5人
■人物略歴
ふかさわ・こういちろう
1969年、山梨県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、外務省入省。本省勤務、在英日本国大使館、在ガーナ日本国大使館などに勤務。2002年に退職し、日本企業の海外向けPRマーケティング会社を設立。15年にカミーノを設立。53歳。
週刊エコノミスト2022年11月1日号掲載
深澤幸一郎 カミーノ代表取締役 紙から作る脱プラ社会