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米FTX破綻は金融市場混乱の前触れ?=木内登英
暗号資産(仮想通貨)取引所大手の米FTXトレーディングが11月11日、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したと発表し、経営破綻した。暗号資産業界で最大規模の破綻となった見込みだ。破綻の背景には、暗号資産の取引(交換)業務にとどまらず、価値の裏付けに乏しい暗号資産「FTXトークン」(FTT)を支払いや借り入れ担保などに利用してビジネスを急拡大させる、「錬金術」的な経営手法が行き詰まった、という面がある。さらに顧客の資金を無断で貸し出しに流用する不正取引も露見した。
FTXの破綻をきっかけに、暗号資産市場全体が激震に見舞われている。代表的な暗号資産であるビットコインの価格は、FTXの破綻懸念が浮上して以降、わずか2日間のうちに2割以上も下落した。今年5月には暗号資産「テラUSD」が暴落したが、FTXの破綻が続いたことで、暗号資産業界全体に対する投資家の信頼は大きく揺らいでしまった。暗号資産市場は「冬の時代」に入った。
FTXの破綻による暗号資産市場の混乱は、今後の金融市場の動揺を先取りしている面もあるのではないか。暗号資産市場の環境が悪化した背景には、金融環境の変化があるためだ。コロナショックを受けて、2020年3月にFRB(米連邦準備制度理事会)は、政策金利を一気にゼロ%まで引き下げた。これが、21年末にかけての暗号資産市場ブームへとつながっていった。超低金利のもとでは通常の金融資産に投資してもなかなか利益が上がらないため、リスクを取って暗号資産市場の投資に踏み出す投資家が増えたためだ。
高リスク資産も逆流
ところが、今年3月からFRBは大幅利上げを始め、政策金利は4%にまで達している。そうなれば、価格変動が激しくリスクが高い暗号資産への投資ではなく、短期の国債などの安全資産で十分に高い利益を上げられるようになる。低金利環境の終わりが、FTXの破綻による暗号資産市場の混乱の底流にある。
同じように、超低金利下でハイイールド債や証券化商品など高リスク資産に向かっていた資金の逆流が始まることで、今後は金融市場の混乱が引き起こされる可能性がある。高リスク資産は、金利上昇に加えて景気悪化が明確になる中で、価格の調整が引き起こされやすい。
そうした高リスク資産を多く保有しているのは、ヘッジファンド、投資信託、ETF(上場型投信)などのファンドだ。高リスク資産の価格が下落を始めれば、ファンドの顧客は資金を引き揚げ始める。それに応えるために、ファンドは手持ちの多くの金融資産を投げ売りせざるを得なくなり、金融市場の大きな混乱につながりやすいだろう。FTXの破綻をきっかけとする暗号資産市場の混乱は、その前触れともいえるのではないか。
(木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)