街中の壁で新ビジネス
川添孝信 WALL SHARE CEO
街中の「空き壁」を「壁画広告」で彩る。目標は、壁画を通じて「誰もがアートを身近に感じられる世界」を作ることだ。(聞き手=市川明代・編集部)>>これまでの「挑戦者2022」はこちら
「壁画広告」でアートを身近に
ミューラル(壁画)の企画・制作をビジネスにしています。オーダーを受けて店舗やオフィスの壁に絵を描く場合もあれば、企業PRや販促につながる壁画広告を依頼主と一緒に作り上げていく場合もあります。
ミューラルとは、壁の持ち主の同意を得た「合法的」な壁画を指します。壁の所有者の同意を得ていない、いわゆるグラフィティー(落書き)とは異なります。海外では、アート広告として企業や団体の間でかなり活用されています。
オーダーを受けて店舗やオフィスの壁に絵を描くビジネスは、実は競合他社もやっています。他社にない当社の売りは、広告を出したい企業や団体、使われていない「空き壁」を所有する「壁主」、壁画を描くアーティスト、この三者をつなげる仕組みです。
例えば都心で駅前の一等地に大型広告を出すとしたら、2週間の掲示で1000万~2000万円が相場です。周囲の無数の広告に埋もれ、人々の印象に残らないかもしれません。でも、駅から少し離れた場所にある立体駐車場や雑居ビルの空き壁を借りてインパクトのある壁画広告を描けば、例えば同じ金額で1年間、掲出し続けることができる。街中に突如現れる巨大なアートは、SNSやマスコミ取材などを通じて拡散されます。
従来の広告のように、企業名やキャッチコピーなどを作品の真ん中に大きく描くようなことはほぼありません。約100人の提携アーティストは、ストリートアートの世界では名の知れた人物ばかり。彼らの芸術的感性を、いかに企業側の打ち出したいイメージと融合させるか、そこが腕の見せどころです。空き壁は現時点で約50カ所の登録があり、今後ストックを増やしていきます。
神戸市庁舎の作品話題に
10代のころからストリート文化が大好きでした。ヒップホップに始まり、スケートボード、グラフィティーなどに興味を持ちました。教師になるつもりで大阪体育大学で中高保健体育の教員免許を取得しましたが、在学中に経験した東日本大震災のボランティア活動でさまざまな人と出会い、「自分はまだ人に何かを教えるには早い」と実感し、就職して新車営業に携わりました。
社会人になって、普段あまりアートに縁のない友達が、海外旅行をするとなぜか美術館巡りをしたりしているのを見て、日本にもアートのニーズがまだあるのではないかと考えるようになりました。IT企業を経て2020年4月に起業。新型コロナウイルスの影響で営業活動が中断して苦労しましたが、クラウドファンディングを利用して、神戸市の耐震化の建て替え前の庁舎壁に描いた作品が話題を呼び、ビジネスチャンスが広がっていきました。
これまで手がけたのは、大阪市内での回転ずしチェーンとのコラボ、南海電鉄やスポンサー企業の協力による「道頓堀アートストリート」など。東京でもJR東日本、飲料メーカー、イヤホンメーカーなどとの協業が進んでいます。
壁画を使って、街の至る所に「子どもから大人まで、誰もがアートを楽しめる場所」を作っていきます。
企業概要
事業内容:ミューラル(壁画)の企画・制作
本社所在地:大阪市北区
設立:2020年4月
資本金:1100万円
従業員数:6人
■人物略歴
かわぞえ・たかのぶ
1990年兵庫県生まれ。大阪体育大学卒業後、フォルクスワーゲンの新車営業に従事。IT企業などを経て2020年4月にWALL SHARE(ウォールシェア)設立。
週刊エコノミスト2022年12月6日号掲載
川添孝信 WALL SHARE CEO 「壁画広告」でアートを身近に