教養・歴史書評

無書店地域に「まちづくりの新拠点を」 支援NPO発足 永江朗

 無書店地域での書店開業を支援するNPO法人ブックストア・ソリューション・ジャパン(BSJ)が、この2月1日に発足した。

 代表理事の安藤哲也氏は独立系書店ブームのきっかけともなった往来堂書店(東京都・千駄木)の初代店長。仕入れを取次(出版販売会社)まかせにせず、「文脈棚」と呼ぶ独特の本の陳列で話題になった。楽天ブックスなどを経て、現在は父親の子育てを支援するNPOファザーリング・ジャパンの代表理事。「イクメンブームの立役者」とも呼ばれる。

 安藤氏がBSJを設立しようと思い立ったきっかけは、コロナ禍のなかで山形県と兵庫県の小さな町に長期滞在したこと。町内には書店がなく、町の人は休日に大きな都市まで出かけて本を買っていた。また、単に書店というよりも、パソコンが使えて、コーヒーも飲めて、本も並んでいるような場所が欲しいという声も聞こえてきた。

 BSJは〈無書店地域に「まちの本屋」の復活を〉〈まちづくりは人づくりから。本は人を育み、本屋は人をつなぐ。〉とサイトに掲げるが、この「本屋」は必ずしも新刊書店だけを意味しない。シェア型書店(棚貸し共同書店)や古書店も含み、カフェや飲食店、ギャラリーなどとの複合を想定している。人口の少ない地域では新刊書店だけで経営的に成立させることは難しい。

 子供にとっては本に触れる場所に、働く世代にはコワーキングスペースや息抜きの場所に、高齢者には気軽に立ち寄っておしゃべりできる居場所になるような施設づくりを目指す。成功すれば地方移住の拠点にもなりえる。

 注目すべきはファイナンスについて。小規模事業者持続化補助金や地域おこし協力隊など自治体や国、商工会などの創業支援助成金とクラウドファンディングなどを活用した寄付を下支えに、新刊書・古書・その他の収益を組み合わせる設計だ。

 BSJの理事には大井実氏(福岡市の書店、ブックスキューブリック代表)や田口幹人氏(未来読書研究所の共同代表でNPO読書の時間理事長。元盛岡市のさわや書店勤務)らが就いた。新しいかたちの書店が「まちづくりの拠点」になる。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2023年3月21日号掲載

永江朗の出版業界事情 無書店地域に新拠点を。支援NPO発足

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