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教養・歴史 鎌田浩毅の役に立つ地学

自然現象の“黄砂”に人為が重なり“越境汚染”/139 

黄砂のシーズン到来/上

 春の日本列島は上空が黄砂で覆われる季節である。この黄砂は中国大陸の砂漠で舞い上がった砂が、強い西風(偏西風)に乗り日本までやってくる東アジア特有の自然現象である。主に日本海側の地域で頻繁に見られるが、黄砂の量と風向きによっては、日本列島のほぼ全域で観測される。

 黄砂は「砂」と書くが、実際は砂粒よりもずっと小さなもので、2~5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の大きさの非常に細かい粒子である。ちなみに、スギの花粉は30マイクロメートルほどなので、それよりもっと小さな鉱物からなる微粒子が黄砂である。

 中国やモンゴルにはタクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、黄土高原などの広大な乾燥地域がある。春になると雪が解けて、地表がむき出しになる。ここを低気圧が通過すると激しい砂嵐が起き、表層の土壌を形成する粒子が、上空数千メートルまで舞い上がる。石英や長石など岩石を構成している鉱物や、雲母やカオリナイトなど土壌に含まれる粘土鉱物の微粒子が確認されている。

中国から2~3日で

 中国大陸の上空に舞い上がった黄砂は、2~3日で2000キロメートル離れた朝鮮半島や日本列島に到達する。黄砂が上空に巻き上がる中国大陸の乾燥地域は、日本と同じ北緯40度付近に東西に並んでいる。この上空10キロメートルほどを吹く偏西風が、黄砂を東にある韓国や日本へ飛ばすのである(図)。日本では毎年100万トン以上の黄砂が降下しており、1平方キロメートル当たり最大5トンになると推定されている。

 一般に黄砂は2月から増えはじめ、4月に最大量となる。夏まで続くこともある。黄砂が飛んでくると、屋外に干した洗濯物や車のボンネットが汚れるだけでなく、ひどい場合には視界不良によって交通機関の運行に支障が出る。

 中国や韓国では黄砂は深刻な問題となっている。モンゴルなど黄砂の発生源では鉄道線路が埋没したり、砂嵐によって死者や行方不明者が出ている。樹木が倒壊し、農作物も大きな被害を受けている。中国では屋外での子どもの活動が制限されたり、野外スポーツが中止されたりする。さらに、航空機の視界不良により首都・北京の空港が閉鎖されたり、工業製品の不良が発生したりするほか、目や鼻、呼吸器系の病気も増えている。

 これまで黄砂は自然界の営みの一つと考えられていたが、近年の黄砂被害の増大は、過放牧によって生じた森林減少、耕地拡大による砂漠化が原因と考えられている。

 そのほか、飛来した粒子から通常の土壌には含まれることのないアンモニウム、硫酸、硝酸などのイオンが検出されることがある。この原因は、黄砂が日本に飛んでくる途中で、中国などで発生した大気汚染物質が微粒子に付着したものと考えられている。

 黄砂の問題は人為的な側面を持つ環境破壊が原因の一つとなっている。国をまたいで悪影響を及ぼすことから「越境汚染」とも呼ばれる。次回は、黄砂が広く地球環境全体に与える影響と、身近にできる具体的な対策について解説しよう。


京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田浩毅氏
京都大レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田浩毅氏

 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学名誉教授・レジリエンス実践ユニット特任教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。


週刊エコノミスト2023年3月21日号掲載

黄砂のシーズン到来/上 人為的な環境破壊で被害増大/139 

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