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経済・企業

グローバルなEV販売が絶好調、アウディ本社セールス担当取締役が見た「全面電動化」が不可逆な世界の潮流とは

「Go All Electricに強い自信」(アウディのヴォートマン氏)
「Go All Electricに強い自信」(アウディのヴォートマン氏)

 独自動車メーカー、アウディが3月16日、日本のビジネスメディアを対象に、独本社のセールス・マーケティング担当取締役によるオンライン会見を実施した。同日に2022年1~12月期決算を発表したのに合わせ、同社のグローバルな販売や電動化の状況を説明するのが目的だ。世界初のハイブリッド車を開発したトヨタが圧倒的なシェアを占める日本では、欧州・中国勢が主導する電気自動車(EV)シフトに懐疑的な見方が多いが、日本の外では実際に何が起こっているのか、興味深く、話を聞いた。

2022年度は過去最高の売上高、営業利益

 説明したのは、ヒルデガルド・ヴォートマン氏。英ユニリーバ社や米カルバンクラインでブランドマネージャーやマーケティング幹部を経験した後、1998年から独BMWでブランドコミュニケーションを担当。アウディには2019年に移籍し、グループのセールス・マーケティング担当取締役を務めるほか、22年9月からはフォルクスワーゲン(VW)グループの上級執行役員として、グループレベルのセールスを統括している。

 本題に入る前に、アウディの2022年の通年決算について簡単に触れたい。連結売上高は前年比16%増の618億ユーロ、営業利益は同37%増の76億ユーロとそれぞれ、過去最高を更新した。ただし、これは、VWグループ傘下の英高級車メーカー「ベントレー」の決算を連結した一時的な効果による。アウディブランドの車両の販売台数は、半導体などの調達遅れが響き、同4%減の161万台だった。アウディは新型コロナが発生する前の2017年に過去最高の188万台を販売しており、まだ、その水準までは回復していない。だが、直近の2022年10~12月期を見ると、アウディブランドの販売台数は前年同期比26%増の42万台と急速に回復しているのが分かる。

2022年のBEV販売は44%増加、比率は7%に

 ヴォートマン氏によると、22年度決算の最大のポイントは、「BEV(バッテリー駆動のEV)の販売拡大」という。アウディグループの22年のBEVの販売台数は11万8196台と前年比44%増加し、BEVの販売比率は4.8%から7.2%に上昇した。テスラの人気SUV「モデルY」と同価格帯のQ4e-tronが5万2784台と前年比2.5倍売れたほか、より高い価格帯のe-tronとe-tronGTがそれぞれ同4%増の5万1209台、46%増の1万42台と伸びたのが貢献した。

「全面電動化で正しい道を歩いている」

 アウディは2021年9月公表の経営戦略「Vorsprung 2030」で2026年以降に発売する新車は全て電気自動車にし、2033年にはエンジン車の販売を中止する計画を明らかにしている。ヴォートマン氏は、「今回の結果は、私たちが正しい道を歩いていることを示している」と自信を見せる。

 2023年もグローバルレベルで販売の回復が続いている。「23年1~2月の販売は、欧州で17%、米国で41%、日本では38%増加している」。半導体や蓄電池を巡る供給制約が徐々に改善し、BEVの世界的な需要に生産が追い付き始めたためだ。

消費者は自動車にもサステナビリティを求めている(アウディのヴォートマン氏)
消費者は自動車にもサステナビリティを求めている(アウディのヴォートマン氏)

Q8e-tronは2万台の事前予約

 欧州では、e-tronを大幅改良したQ8 e-tronの販売を開始したが、「ショールームに車が展示される前の昨年末の段階で2万台の予約注文が入った」(同氏)。さらに「今年の後半のもう一つのハイライトがQ6 e-tron」という。これは、BEV専用の新しいプラットフォーム(車台)である「PPE(プレミアムプラットフォームエレクトリック)」を使った1号機で、2列シートのSUVとなる。ヴォートマン氏は、「パフォーマンス、航続距離、充電性能、ドライビングダイナミクスでこのクラスの標準になる」と期待を寄せる。

 アウディでは2025年までに20の新モデルを市場に投入するが、そのうちの10モデルはBEVとなる。16日の決算では、マルクス・ドゥスマンCEOが「Q4の下位セグメントにエントリーレベルのBEVを導入する」ことも明らかにした。同社がBEVシフトを強力に進めるのは、新型コロナの感染拡大やウクライナ戦争を経て、「世の中の人の関心がサステナビリティ(持続可能性)とその実現に集まっており、自動車メーカーとしてそれに最大限貢献できることが、『脱炭素化、Go All Electric』であるからだ」(ヴォートマン氏)。

タイでも進む電動化

 この流れは、欧米や中国だけではないとヴォートマン氏は指摘する。「何週間か前にタイに行ったが、数年前とは状況が一変していた。BEVに関しては、遅いフォロワーになると見ていたが、むしろ、BEVシフトが進んでいた。消費者のセンチメントはサステナブルなモビリティに向かっている。この流れは、日本でも起こっている」と話す。

最大市場の中国でBEVの現地開発を強化

 ヴォートマン氏が「過去20年間、毎年4~5回訪問している」という中国市場については、「コロナ後、北京、上海、深圳での主要都市で変化のスピードが劇的に速まっている」と話す。アウディにとって中国は2022年の販売台数が65万台(全販売台数の4割)と欧州(63万台)を上回る最大市場だ。「中国で、NEV(BEVやプラグインハイブリッド車(PHV)の新エネルギー車)の販売がエンジン車を超えるティッピングポイントが2025年か26年になるかは分からない。だが、電動化のペースは我々の予想より速い。(急激に力を付ける中国メーカーに勝つためにも)アウディはNEVのポートフォリオを強化する必要があり、地元にローカライズした製品の開発を強化する」。

充電時間の短縮が今後の普及の決め手に

 BEVの普及に向けては、充電インフラの整備も重要なポイントとなる。「第1世代のBEVの懸念は航続距離だったが、Q4は満充電で520キロ走る。航続距離が500キロを超えてくると、より重要になるのは充電時間。電池残量20%から80%まで充電するのに20分以内なら、トイレ休憩し、コーヒーを飲む間に充電が完了し、ストレスにならない」。そのために、アウディは欧州で2025年までに1万8000カ所の超高速充電設備を整備する計画だ。なお、アウディは欧州で専用普通充電施設を42万6000基展開している。また、最大320キロワット時の急速充電器を複数台備えた大型充電施設「アウディ・チャージングハブ」はドイツのニュルンベルグに加え、1月にスイスのチューリッヒに開設。今後はオーストリアのザルツブルグとドイツのベルリン、さらに東京にも設置される予定だ。

「充電時間の短縮は今後の普及に重要」(アウディのヴォートマン氏)
「充電時間の短縮は今後の普及に重要」(アウディのヴォートマン氏)

 欧州では既に、VWグループ、BMW、メルセデス・ベンツなどが合弁で設立した急速充電会社アイオニティが最大350キロワット時の急速充電器を1900基設置している。日本では、VWグループ傘下のフォルクスワーゲン、ポルシェと組み、「プレミアムチャージングアライアンス」として、計210拠点、220基の150キロワット時の高速充電器が相互利用可能だ。ちなみに、筆者も今年2月に米テスラのモデルYで、東京から京都、長野と2日間で1500㌔弱を走ったが、同社の250キロワット時の専用急速充電器のおかげで、充電のストレスはほとんどなかった。さように、高速充電器の存在はEVにとって大きい。

迷走する日本の「脱炭素」とEV議論

 日本では3月末、欧州連合(EU)が2035年にエンジン車の販売を全面禁止する方針を撤回したことが報じられ、全面EV化の潮流を疑問視する声も出ている。念のため、アウディ・ジャパンの広報に改めて、今回のEUの決定が、同社の電動化戦略に与える影響を確認したが、「本国を含めて電動化戦略である『Vorsprung 2030』が影響を受けるという話しは出ていない」という回答だった。日本においては自動車の「脱炭素化」の方向性についてはまだ流動的な部分があるが、少なくとも、アウディの考えは変わらないようだ。(稲留正英・編集部)

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