教養・歴史ロングインタビュー情熱人

弦楽器の魅力を伝える――石田泰尚さん

「ステージでは何か面白いことをしたくなるんです」撮影=中村琢磨
「ステージでは何か面白いことをしたくなるんです」撮影=中村琢磨

バイオリニスト 石田泰尚/74

 バイオリンにビオラ、チェロ、コントラバス──。弦楽器で構成する合奏団 「石田組」のコンサートが今、人気を集めている。石田組を率いるのは“組長”のバイオリニスト、石田泰尚さん。その素顔や思いに迫った。(聞き手=りんたいこ・ライター)

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── 石田さんが“組長”を務める弦楽合奏団「石田組」が4月26日、2枚目のCDアルバム「石田組 2023・春」を発売します。

石田 音源は、2022年8月のミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市)でのコンサートです。ホールの響きがいいということもありますが、アルバムを出すならライブ録音が僕の好み。ソロのCDもほとんどライブ録音です。スタジオ録音なら修正をかけるなどして納得いくまでできますが、ライブ録音は一発勝負。たとえ音が乱れたり失敗したりしても一生懸命やった結果。その辺が僕の性に合っている。それにライブ録音にはお客さんの反応もある。お客さんあっての僕らなので、いるといないのとでは全然テンションが違います。いたほうが断然いい。

── 収録曲はビバルディの「4つのバイオリンのための協奏曲 ニ長調」といったクラシックから、ロックバンドのクイーン「ボーン・トゥ・ラブ・ユー」、映画音楽「ニュー・シネマ・パラダイス」など多彩です。

石田 これほどバラエティーに富んだラインアップのアルバムは珍しいと思います。ただ、この時の公演は曲が多い上に、プログラムがすごくヘビーでめちゃくちゃきつかった。本番で最高の演奏をするために体力を温存しておきたくて、当日のゲネプロ(本番通りに行う通し稽古(けいこ))は軽く済ませましたが、2時間半演奏して終わった時はへとへとでした。

 選曲は基本、その時のひらめきです。訪れたことのある場所では前回と違うプログラムを考えたり、マネジャーからアイデアをもらったりします。メンバー選定もひらめきです。今は60人ほどいる“組員”の中から、公演場所などに合わせて毎回選んでいます。

 石田さんが率いる「石田組」は、石田さんが信頼を置く首都圏の第一線で活躍するオーケストラメンバーを中心に構成している弦楽合奏団。結成のきっかけは、あるオーボエ奏者のアルバム作りだった。メンバー集めを任された石田さんが、あえて男性だけに声を掛けてレコーディングに臨んだところ、全員がイヤホンを付けて演奏している様が「めちゃめちゃかっこよかった」という。 その時、男性だけの弦楽グループを思い付き、旗揚げは14年10月。以来、定期的に公演し、18年のテレビ音楽番組出演で人気に火が付いた。19年には念願のサントリーホール(東京都)での公演を実現。昨年4月~今年2月は23会場を巡る初の全国ツアー(25公演)も成功させるなど、進化を続けてきた。今年8月のサントリーホールの公演では、東京フィルハーモニー交響楽団首席ビオラ奏者の須田祥子さんが、初めて“女性組員”として出演する予定だ。

コンサートマスターも

── 2月のツアー最終日(19日)は、石田さんの50歳の誕生日でした。アンコールでは、ビゼー作曲「アルルの女」第2組曲「ファランドール」から、組員の皆さんがサプライズで「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」の曲に転じるなど、粋な計らいもありましたね。

石田 (出演者として予定されていなかった)指揮者の井上道義さんの登場や似顔絵ケーキなどさまざまなサプライズがあって、とにかく最高の誕生日でした。「ファランドール」は予定にない音が聴こえてズレたかと思い、軌道修正しようと必死に弾いていたので、自分へのハッピー・バースデーだと気付くのにはしばらく時間がかかりました。

── 石田組を結成したのはクラシック音楽普及のためですか。

石田 それは考えていません。僕はクラシック畑ですが、そもそもクラシックとほかのジャンルの音楽を分けて考えていません。いいものはいい。石田組を聴きに来ているお客さんの中にも、クラシックは難しいとか、長いから飽きるといった苦手意識を持つ人はいるはずです。だからこそ僕らの演奏で、弦楽器の音のきれいさに気づいてもらえたり、曲はよく分からなかったけれど、また聴きに行きたいと思ってもらえたりする人を、一人でも多くできればいいと思っています。

 これまでは圧倒的に年輩の女性の方が多かったですが、…

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週刊エコノミスト

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