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就活もサンデー!第5弾 どこよりも早い「有名77大学人気284社就職実績」 有名企業に「強い大学ランキング」に変化も
高まる大企業の「DX」需要
DX(デジタルトランスフォーメーション)人材不足で、大企業でも採用充足が難しくなる一方、求められる側の難関大は、情報関連企業の就職者数が増加。近年の就活の特徴について、有名企業の就職状況と併せて検証した。
給与水準や就労環境、仕事のやりがい、自身の成長の機会などが高い次元でバランスが取れていることから、大学生の大企業志向は強い。求人倍率は低く、リクルートワークス研究所の調査によると、従業員規模5000人以上の大企業の求人倍率は0・37倍。求人総数は増えているが、それ以上に志望者が多くなっていることから、前年を0・04ポイント下回った。
このように狭き門の大企業であっても採用予定数が充足できないという、大学生の売り手市場が続いているのが今の就活だ。リクルート就職みらい研究所の調べによると、2023年卒の就活において「採用予定数を充足できた」と回答した企業は、前年を11・8ポイント下回る40・4%で調査開始以来最も低い数値となった。特に学生の人気が高い従業員規模5000人以上の大企業で減少幅が大きく19・6ポイント減(45・0%)。同研究所所長の栗田貴祥氏は言う。
「DX人材の需給がひっ迫していて、大手企業でも確保できていないことが一因と考えられます。コロナ禍が落ち着いてきての経済回復による成長局面で、人材を確保したくてもできない企業が多くあります。労働人口の不足が進む中で、DX人材の獲得競争は、中長期的に見ても大きな課題となっています」
DX人材を求めて苦戦する企業がある中、難関大の学生を数多く採用できている企業の一つが、外資系コンサルティングファームのアクセンチュアかもしれない。同社は、本誌8月20・27日合併号に掲載した「難関大の主な就職先」で東大、京大、北海道大、大阪大、慶應義塾大といった多くの大学で就職者数が最多の企業となった。難関大からアクセンチュアの就職者が多い現状について、文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所所長の平野恵子氏は、こう説明する。
「全般的に外資系コンサルの就職者が増える中でもアクセンチュアは突出しており、多くの難関大で就職者数がトップ。一般的な経営コンサルだけではなく、近年はDXに対応する実戦部隊の拡充を進めていることが要因でしょう。同社を競合先として意識する大手日系メーカーやシステムインテグレーターも多く、優秀な学生の争奪になっているようです」
アクセンチュアの競合先となっている大手日系メーカーの就職者数が最多の大学も多く、東北大の就職者数トップは日立製作所(30人)で、中央大がNEC(31人)、法政大が富士通(28人)、関西大がパナソニックグループ(36人)、立命館大と関西学院大は三菱電機で、前者が30人で後者が34人。メーカー以外でも、NECソリューションイノベータやNTTデータなどが就職者数最多の難関大もある。全てDX人材として就職というわけではないが、難関大の学生が注目していることは間違いなさそうだ。
DX人材が求められていることもあり、もともと、製造業の採用者が多いことなどから就職に強かった理工系大学が、さらに就職力を伸ばしている。「有名企業に強い大学ランキング」の23年卒と22年卒の実就職率を比較してみると、5ポイント以上と伸びが大きいのは、豊田工業大(1位)、東京工業大(3位)、名古屋工業大(5位)、芝浦工業大(12位)、立教大(23位)の5大学で、この内4大学が理工系大学だ。ランキング中の理工系大学は11大学もあり、3割を超えている。
このような状況は例年通りだが、23年卒は順位に異変が起きた。長らくトップを分け合っていた一橋大と東京工業大を追い越し、豊田工業大が1位になったのだ。国公立大並みの安い学費と、高い就職力などを背景として人気が高く、難易度は難関私立大の理工系学部に匹敵する。就職者が多い企業はトヨタ自動車11人、豊田自動織機5人、アイシンと豊田合成とダイキン工業が各3人など。卒業生が200人に満たない小規模大学のため、実就職率が上がりやすい面もある。しかし、対前年比で16・4ポイントと有名企業の実就職率を大幅に伸ばしている。
1~3位までの大学は、卒業生の2人に1人が有名企業に就職。一橋大の実就職率は前年と変わらず、就職者が多い企業は、楽天グループと大和証券が各25人、EYストラテジー・アンド・コンサルティング15人、明治安田生命保険13人など。東京工業大は前年を6・6ポイント上回っており、就職者が多い企業は、ソニーセミコンダクタソリューションズ31人、日立製作所29人、NTTデータとソニーが各25人など。
4位の慶應義塾大は卒業生が7805人の大規模大学ながら、2891人と多くの学生が有名企業に就職していることから、44・2%と高い実就職率となっている。ちなみに有名企業の就職者が最も多いのは11位の早稲田大(3266人)で次位が慶應義塾大。以下は21位の明治大(1833人)、16位の同志社大(1701人)、卒業者数未公表で順位未確定の東大(1490人)となっている。
有名企業への実就職率ランキングの5位以下は、名古屋工業大▽東京理科大▽電気通信大▽九州工業大▽名古屋大▽大阪大▽早稲田大――。全企業を対象としたランキングでは、一般的な大学の後塵を拝することも少なくない難関大が、有名企業に限ると数多くランクインしていることが特徴だ。
メンバーシップ型から初任配属確約型も
コロナ禍の影響が弱まり企業の採用意欲が高まる中、前述の実就職率を大きく伸ばした5大学以外も実就職率は上がっており、ランキングの30大学中、27大学が前年を上回っている。このように有名企業でも大学生の売り手市場化が強まる中、採用活動で苦慮する大企業が少なくないようだ。そうした状況を背景として、リクルートの栗田さんはジョブ型採用が増えていると言う。
「これまでは職種や勤務地を問わずに採用する、メンバーシップ型採用が主流でした。しかし、職務限定型や初任配属確約採用といったジョブ型採用を取り入れる従業員規模5000人以上の大企業が増加しています。大企業では、24年卒では17・2%が実施予定、25年卒では28・4%が導入を検討するとしており、勤務地や職種を重視する学生を確保したいという動きは強まっていくでしょう」
就職みらい研究所の調査によると、さまざまな部署でキャリアを積むより、特定領域で長期間キャリアを積みたい学生の方が多いという。さらに勤務地を重視する学生も多くなる中、大学生の売り手市場を背景として、メンバーシップ型とジョブ型採用を併用する企業が多くなっている。もっともジョブ型採用といっても、入社時の職種が変わらないとする企業は2割程度なので、現状では初任配属確約型と呼ぶ方が正しいようだ。
人材確保のために企業側が学生に歩み寄りを見せるが、その対象は難関大生に集中する可能性が高いと話すのは、文化放送キャリアパートナーズの平野氏だ。
「難関大合格に向けて培った学習習慣が身に付いた学生は、大企業の就活にも強い。今後の就活は、早期・長期化の進行により、プロセスが煩雑化し間口が広がります。そうなると、まずは実績校からとなり、ますます難関大からの就職者が増えるかもしれません。企業には、少子化が進み人的資源が限定的になる中、広く学生に目を向け、社会人として育てるという視点をもってほしいですね」
優秀な人材を輩出する大学は、難関大が全てというわけではない。多様な大学の学生が選考に進むことが望ましいのはいうまでもない。今後の動向に注目したいところだが、現状については「有名77大学人気284社就職実績」で確認してみてはいかがだろうか。