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保険料年70万円 シングルマザーが怒り心頭!! 国民健康保険が暮らしを破壊する ジャーナリスト・笹井恵里子

筆者の今年度の保険料通知書
筆者の今年度の保険料通知書

 これ以上の保険料負担はもう限界!

 自営業者をはじめ、定年、リストラなどによって、どこにも入る保険がない人のための最終的な受け皿である「国民健康保険」。もともと高い保険料が今年度はさらに増額され、物価高とのダブルパンチ。備えであるはずの健康保険が、今の生活を苦しめている――。

 「扶養控除廃止」「出産一時金アップ」違和感だらけの少子化対策

 国民健康保険の保険料(以下、国保料)が年々上昇している。

 特に今年度支払う分の上昇が著しい。私は高校生の娘を抱えるシングルマザーであり、昨年は2人分で月額3万7900円だったのが、今年はなんと月額4万5300円。年にして8万8800円の増額なのだ。ちなみに加入するのは「市区町村が運営する国保」でなく、特定の職業団体が運営する国保である。私の場合は著作活動を主とする「文芸美術国民健康保険組合」で、ここは前年度の収入は関係なく組合員一律の保険料だ。昨年と今年の保険料の内訳が通知されたので記そう。

 しかも私の場合、現在のこの国保料にプラスして、過去の滞納分約30万円(4カ月分)がある。2年前は東京都が運営する国保に加入していたのだが、あまりに金額が高く、4カ月間滞納した。それを24回払いにして、昨年1月から毎月1万2300円ずつ分納している。つまり、国保料だけで月々5万7600円の支払いだ。年間にして約70万。私も娘も年に数回しか医療機関を受診していないから、もし健康保険証がなく医療費を10割負担することになったとしても、年に数万円の支払いで済むのに……と考える。この保険料に費やすお金があれば、大学受験の費用にも入学金にもなるのに、と無性に腹が立つ。

「大阪でも、今年は保険料がものすごくあがりました」

 と話すのは、大阪社会保障推進協議会事務局長の寺内順子氏だ。大阪府では古くから国保にまつわる市民運動が盛んで、寺内氏も長年取り組み、『国保の危機は本当か?』『検証!国保都道府県単位化問題』(日本機関紙出版センター)などの著書がある。

「私はシングルマザー支援を行っていますが、ここ最近は保険料の増額と物価高のダブルパンチでみんな悲鳴をあげています。私は医療保険制度は重要だと考えています。そして国保には、他の公的医療保険には入れない人が加入できるというセーフティーネットの役割がある。だからこそ、この保険料の高さが問題です。これさえ解決すれば、いい制度だと思うのですが。せめて現在の半額にならないと、皆が支払いに苦しむ状況が続きます」

 国保料と教育費が日本の貧困を作っている――寺内氏はそう繰り返す。

 それは大げさだと思うだろうか?

 所得200万円で年40万の保険料

 中央社会保障推進協議会が行った「全国大都市国保料比較調査」の最新データによると、大阪府統一保険料では夫婦(40代)と中高生の子ども2人の4人世帯で所得200万円だった場合、国保料が2021年度は約40万9384円。同条件で22年度は41万2115円だ。増額されていることももちろんだが、所得200万円で約40万円もの保険料を徴収されることに驚く。単身世帯であっても、前年所得100万円の70代のモデルで、年間約14万7694円の国保料(22年度)なのだ。

「さらに大阪府内の多くは、22年度から23年度にかけて約10%も国保料が上昇している。とんでもないでしょう」と寺内氏が憤る。

 日本ではすべての人が何らかの公的医療保険に加入する「皆保険体制」だが、医療保険の中で国保がダントツに高い。

 公的医療保険は主に6種類――(1)大企業に勤める労働者とその家族が加入する健康保険組合、(2)公務員、学校職員とその家族が加入する共済組合、(3)中小企業で働いている人が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)、(4)75歳以上が加入する後期高齢者医療制度、(5)医師や芸能人、建設、食品など特定の職業団体が運営する国保組合、(6)市区町村が運営する国保――に分けられる。

 自営業者や非正規職員、リストラで職を失った人、私のようなフリーランス、そして定年退職した人など、(1)~(5)に入れないすべての人は(6)に加入することになっている。つまり最終的な受け皿の(6)があるからこそ皆保険が成り立つのだ。

 私も長年(6)の市区町村が運営する国保に加入していたが、高い保険料が支払えずに困って追い詰められた。そしていろいろ調べた結果、(5)の職業団体が運営する国保組合に加入できることがわかり、現在の「文芸美術国民健康保険組合」に申請した。同じ「国保」でも(6)より(5)のほうが国保料が幾分安くなる傾向にある。それでも、(1)~(3)の雇用されている人が加入する健康保険や、(4)の75歳以上の保険料に比べればまだまだ高い。

 国保料が高い理由はいくつかある。

 まず、現在の国保加入者は「所得なし」か「低所得者」が多くを占める上に、加入者の年齢層が高く、医療費が高くなりやすいことがベースにある。

「定年した人が入るくらいですから60歳から75歳未満の世代が多く、当然所得は低い。体調を崩したり、大きな病気をしやすい年代でもあります。地域に医療費が多く発生すれば、それだけ保険給付費(自己負担額以外の費用)も上昇し、それに応じて保険料が高くなります」(寺内氏)

長友薫輝氏
長友薫輝氏

 国保は傷病も出産も手当なし

 加えて国保の場合、ベースが高い保険料がさらに重くなる制度設計なのだ。佛教大社会福祉学部准教授で、『市町村から国保は消えない』『新しい国保のしくみと財政』(ともに自治体研究社)などの著書がある長友薫輝(まさてる)氏が説明する。

「雇用されている人が加入する健康保険であれば、保険料は労働者と使用者(事業主)が労使折半で負担する仕組みですが、国保にはそれにあたるものがありません。負担を分け合ってくれるところがありませんから、そのままダイレクトに保険料が個人の肩にのしかかります」

 そして世帯人数に応じて保険料が上乗せされる「均等割」がある。これは国保にしかない仕組みだ。

「子どもがいると病院を受診する回数が多くなる、医療費を増やすからという発想で、家族が多いほど均等割によって保険料の負担が増すのです。ある種〝人頭税〟ですよね。子どもの医療費助成をしている自治体も多いですが、そういったところには国庫負担を減額するというペナルティーを科してきました。政府は〝異次元の少子化対策〟を訴えるのであれば即座に均等割の制度を廃止し、子どもがいる世帯が安心して医療にかかれるようにしていくべきです。それこそが子育て支援のはず」

 昨年4月より未就学児に対しては均等割が5割軽減されているが、寺内氏も「18歳までの均等割はゼロにするべき」と言う。

「国保に入っている人のおよそ3分の1以上は非正規労働者なんです。これから結婚する世代、子育て世代も少なくありません。その方たちに子どもを産んでもらう、それも1人でなく2人、3人をも望むなら、子どもに関するものはすべて無料にするくらいでないと難しいでしょう。だって今は子どもが増えたら保険料が高くなるんです。出産なんて無理となりますよね」

 また健康保険組合や共済組合、協会けんぽに加入する人は、病気や怪我(けが)で仕事を休んだ時に生活保障として公的医療保険制度から「傷病手当金」を受け取れるが、国保加入者にはそういった手当はない。

「ところが新型コロナウイルス感染症による休業については、緊急的に支給した自治体があります。ですから今後、新型コロナのみならずそういった傷病手当を国保にも恒常化することは、わりと取り組みやすいと思います」(長友氏)

 またもう一つ、国保にないのが出産手当金。

「出産のため仕事を休み、給与の支払いがない間に一定の範囲で支給される補助金ですが、こちらも健康保険組合、共済組合、協会けんぽに加入していなければ対象とならないのです。少子化対策といいながら、産むときの手当さえないのが国保の現状です」(同)

 少子化によって人口減少が進めば、国力が衰退する。だから少子化対策を重要課題に据え、政府が「もう対策に後が無い」と言うのはもっともだ。しかしこの具体策として、今年4月から出産時に給付する出産育児一時金を一人あたり42万円から50万円に引き上げたことはどうだろう。

 問題点が二つある。一つは、出産育児一時金を引き上げたところで、本当に子育て世代の支援になっているのか疑わしいという点だ。日本では病気ではないという概念から、妊娠・出産費用が保険適用ではなく、そのかわり出産した者には出産育児一時金が支給される。しかし、出産育児一時金が増額されれば、医療機関の価格改定がされ、またさらに出産費用が吊(つ)り上がるという循環に陥っている。実際、出産育児一時金制度がスタートした30年前は、30万円の支給額。私もおよそ20年前に2人の子どもを出産しているが、30万円台前半の額で出産が可能だった。当時と比べて今の出産にまつわる環境が劇的に変化したわけではないのに、出産費用だけが高騰していく状況に違和感を覚える。

 もう一つの問題点は、この財源として、各健康保険組合のほか、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の保険料を24年度から2段階で引き上げることだ。これにより、これまでは主に現役世代の医療保険で賄っていた出産育児一時金の一部を後期高齢者が負担することになる。保険料の引き上げ対象は75歳以上の約4割だ。

 政府は未来を担う子どものため、全世代で負担を分かち合う「全世代型社会保障」のプランを掲げている。

政府は少子化対策を重要政策に掲げるが…
政府は少子化対策を重要政策に掲げるが…

 「全世代型」は不公平な負担

 長友薫輝氏は「その理屈はおかしい」と指摘する。

「本来、少子化や高齢化に貢献できるのが社会保障制度なのに、結局は労働者にその制度の負担を求めていく。むしろ搾取を強化している。全世代型負担というのはもっともらしい言い方ですが、あれほど不公平な負担はないと思いますね。公平な負担とは、少数の富裕層や大企業に入ったお金を、税と社会保障を通じて分けていく『所得再分配』です。それを世代間での助け合いという視点にすり替えたり、保険料を別目的に回すというのはおかしいでしょう」

 国は「高齢者優遇論」を広め、世代間の対立を煽(あお)っているのではないか、ともいう。

「日本の高齢者は国際的にみて決して〝優遇〟とはいえない社会保障の水準です。ここを優遇されていると叩(たた)くことで、日本全体の社会保障を低い水準にもっていこうとする意図があるのではないかと勘ぐってしまいます」(同)

 私は昨年末に厚生労働省が設置する「社会保障審議会医療保険部会」を傍聴し、また個別に3人の委員会メンバーに取材をした。そこでの内容は事情により記事にできなかったが、保険料引き上げについては3人ともが「持続可能な社会保障にするために」と答えていた。「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心」という従来の社会保障の仕組みは限界にきている、このままでは制度そのものがもたない、だから今こそ制度改正しましょう、というのだ。

 しかし改正しても、未来が開けているとは言い難い。団塊世代(1947年?49年生まれ)が75歳になる25年には医療費が一層膨らむ見通しだが、財源の半分近くを占める現役世代の人口が減少している。実際、インタビューに応じてくれた現役世代が加入する某健康保険組合のトップは、「制度改正をして後期高齢者の負担増で保険料全体の収益があがっても、公費の負担が減ったため実質的にはマイナス」と打ち明けた。

 長友氏は「健康保険に対する国庫負担を抑えていることが背景にある」と説明する。「会社員が加入する組合健保や協会けんぽも、後期高齢者医療保険制度へ支援していますし、そして国保にも出資しているため、しんどくなっています。組合健保や協会けんぽにすれば、なぜ後期高齢者や国保を支援しなければいけないんだ、おかげで赤字じゃないかと思うでしょう。もちろん国保側も厳しい。国からのお金を医療保険同士で奪い合う形になっているのです。ですから健康保険同士が〝いがみ合う〟のではなく、医療保険全体に対する国庫負担を求めていくという声を上げることが大事です」

 1983年まで約6割を占めていた国庫支出金が年々低下し、現在は20数%。「このままでは国だけが支出を抑制でき、国民の負担が増え、ますます消費購買力が落ちる。こうした状況で保険料負担を引き上げていくことも理解に苦しみます」(同)

 今年度は税の取り立てが厳しい

 さらに、今後はもっと高くなる恐れがあるという。

「生活保護受給者の医療費は、全額を医療扶助で負担していますが、これを国保料に移行させるという案が、昨年、そして今年も閣議決定された『骨太の方針』に記載されたのです。もしこれが現実に実行されるということになれば、国保料は今よりもとんでもなく高騰します。生活保護費の半分を占めているのが医療扶助であり、これを国保で面倒みよ、ということなのです。今は主に国庫負担により支えている生活保護の医療費を国保に移行するのも、要するに国庫負担の抑制です」(同)

 しかし現在の支払いさえ苦しむ人たちに負担を押し付けるのは無理がある。国はこれ以上加入者に負担を押し付けるのではなく、公的医療保険への支出を決断するべきだろう。

 そして、わかりやすい現金給付よりも、誰もが子どもを産みやすい、育てやすい環境が整っていることのほうが重要だ。

 例えば政府内では高校生まで児童手当の支給対象を拡大する代わりに「扶養控除(16歳~)」を廃止する案が浮上している。

 寺内氏は「ありえない」とばっさり。

「子育てで一番お金がかかる高校生や大学生を抱えている世帯の税金を重くし、それを財源にして子育て支援をするって本末転倒でしょう。そんなことをしたら非課税だった人が課税になり、奨学金も給付されなくなります。国内では子ども一人育てる教育費で、家が一軒建つくらいのお金がかかるんですよ。〝子育て罰〟という言葉がありますが、保険料も赤ちゃんからとられる、教育費は高い――その上税の控除まで取り上げるなんてどんな発想でしょう。大反対です」

 年代を問わず国民の生活はすでに限界を迎えている。そして今年は例年になく、国保料を含めた税の取り立てが厳しい、と税理士の角谷啓一氏。

「最近ひどかった国保料の取り立てでは、留守宅に役所の職員が鍵屋を同行して滞納者の居宅内に入り、換金できそうな物を押収したケースがありました。中小企業の消費税の滞納に対する処置も、相当なものです。10月から一般的な事業者はすべて課税事業者になるように誘導されるインボイスが実施され、おそらくたくさんの滞納が発生するでしょう。それに対する予行練習なのかもしれません」

 これまで取材をしてきて、国保料も国税も「払えるのに、払わない人」はごく一部だと私は感じている。若者でも高齢者でも、滞納者の多くは「払いたくても、払えない」のだ。

 社会保障制度を維持するために、払えない人たちから無理やり徴収していくことが、この国の未来を支えることになるのだろうか。

ささい・えりこ

 1978年生まれ。『サンデー毎日』記者を経て2018年よりフリーランスに。日本文藝家協会会員。著書に『週刊文春 老けない最強食』『温かい家は寿命を延ばす』(ともに文藝春秋)、『救急車が来なくなる日ー医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『潜入・ゴミ屋敷』『実録・家で死ぬ』(ともに中公新書ラクレ)などがある

「サンデー毎日9月17日号」表紙
「サンデー毎日9月17日号」表紙

 9月5日発売の「サンデー毎日9月17日号」には、ほかにも「本誌の入魂キャンペーン『がんばれ本屋さん』知は街にあり/上 角川春樹×書店議連幹事長・齋藤健法相」「捨てちゃダメ!タマネギの『皮』スープの威力」などの記事も掲載しています。

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