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愛子さま、佳子さまこそ皇族議員になって新風を 社会学的皇室ウォッチング!/89 成城大教授・森暢平

天皇誕生日の一般参賀で集まった人たちに手を振られる天皇、皇后両陛下と長女愛子さま、秋篠宮ご夫妻と次女佳子さま(皇居・宮殿東庭で2月23日)
天皇誕生日の一般参賀で集まった人たちに手を振られる天皇、皇后両陛下と長女愛子さま、秋篠宮ご夫妻と次女佳子さま(皇居・宮殿東庭で2月23日)

 9月7日に実施された皇室会議の皇族議員を選ぶ選挙で波乱があった。定数2の皇族議員に秋篠宮(57)と常陸宮華子妃(83)が選ばれ、得票数3位と4位が選ばれる予備議員には秋篠宮紀子妃(57)と美智子上皇后(88)が「当選」したのだが、美智子さまが辞退。5位の三笠宮百合子妃(100)は「高齢」を理由にやはり辞退した。6位には3人が同票で並んだため、くじ引きが行われた。その結果、高円宮久子妃(70)が2人目の予備議員に選ばれた(同13日)。

 ちなみに投票権があるのは現在14人(天皇、上皇、未成年の悠仁親王は選挙権も被選挙権もない)。一人の投票者は投票用紙に4名の名を書く。得票数、投票者数は発表されない。今回、高円宮妃と同票だった2人も分かっていない。ただ、はっきりしたのは皇族間の事前調整はなかったことだ。

 美智子さまの辞退理由は、上皇の意思が会議に反映されるのではとの誤解を避けるためだそうだ。だが、「皇室会議議員及び予備議員互選規則」には、「当選人は、正当の事由がなければ、当選を辞することができない」(第18条2項)とある。美智子さまの辞退理由が、どのように正当と判断されたのかの説明はなかった。

 そもそも皇室会議は、戦後憲法の下で設けられた。皇位継承順の変更、皇族男子の婚姻など皇室の重要事は皇室会議の議を経る。皇族(計2名)、首相(1名)、宮内庁長官(1名)、衆参両議院の正副議長(計4名)、最高裁長官ともう一人の最高裁判事(計2名)の10人からなる。現憲法と皇室典範の制定時、国権の最高機関は国会なのだから、皇室の重要事も国会が決めるべきだとの議論があった。しかし皇室典範は、天皇に「重患」「重大な事故」があったときは、摂政を置くことができるとした。また、摂政や候補者に同じ理由があれば、摂政就任順を変更することもできる。

 例えば、国会の多数派が数の力で天皇を事実上引退させ、都合のいい摂政を置く危険性が全くないわけではない。皇室の重要事から政治の影響をできるだけ排除するために設置されたのが皇室会議である。そこには立法、行政、司法の代表が入る。三権分立の日本で三権の上に立つ例外的な存在である。そして、皇族も議員となり発言権を持つ。

 戦前制度からの「民主化」

 戦前は、皇室の重要事を審議する機関として、成年皇族男子によって構成される「皇族会議」が存在した。これに比較すると、戦後の皇室会議は、国民の代表である衆参両院の正副議長および国会から選出される首相の計5名が議員となる。皇室の重要事に、国民の代表を関与させようとしたのだ。戦後の皇室会議は、戦前の「皇族会議」を民主化させた機関である。

 とはいえ、実際は形骸化している。自民党の高瀬伝(でん)衆院議員は1959年2月6日の内閣委員会で「形式的には宮内庁がイニシアチブをとる」から「非民主主義的に運営されるということになりますと、非常に重大な結果を及ぼす」と問題点を指摘した。現在では、右のような議論は忘れ去られている。それどころか、皇位継承問題を国会が決めないのなら皇室会議で決めればよいなどと語る識者までいる。皇室会議は、皇室典範と他の法律に基づく権限のみを行うことになっている(皇室典範第37条)。立法者は、皇室会議の非民主的例外性を自覚したからこそ、その限界を明示しているのに、それも忘れられている。

 過去の選挙の結果、選ばれた皇族議員の一覧が上記表である。そこからは「長老」が選ばれやすい傾向が分かる。1963年から6回連続で、高松宮と三笠宮が皇族議員になった。2人は昭和天皇の弟宮であり、年功序列、男子中心で選べばこの2人となったのであろう。91年以降の4回は三笠宮夫妻、07年以降の2回は常陸宮夫妻が選ばれている。やはり、皇室の年功序列では上位の夫婦である。同じ家庭にある2人が議員となるのは、多様な意見の反映が求められる会議体として妥当だったのだろうか。

 皇后、皇太子妃は選ばないというのが暗黙の了解であることも分かる。香淳皇后と美智子さまは皇族議員になることを遠慮し、それが前例になったのだろうか。一方で、外部から皇室入りした宮妃たちは皇族議員に就いている。だったら雅子皇后だって選ばれてもいい。

 目を引くのは、2回目(51年)の選挙で、結婚前の厚子内親王(のちの池田厚子さん)が予備議員に選ばれていることだ。このとき20歳。男女同権が謳(うた)われた戦後民主主義の時代だからこその現象だった。その意味で愛子、佳子の両内親王が選ばれたっていい。むしろ、皇族の婚姻の自由について皇族女子の立場から持論を述べてもらいたい。そんな場が担保されるのが皇室会議だし、制度に新風を吹き込むことになるのではないか。

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など

「サンデー毎日10月29日号」表紙
「サンデー毎日10月29日号」表紙

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