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渾身の総力特集 ジャニーズ性加害事件と日本社会の民度 近田春夫×田中康夫×松尾潔 タレント、ファンよ、そしてメディアよ、立ち上がろう!
ジャニーズ性加害事件をめぐって、小誌を含めたメディアのありようが、そして曖昧(あいまい)で罪深い日本社会が、問われている。事態の本質に迫る問題提起をしている近田春夫氏、時代の発言者として注目される松尾潔氏、本件を「日本の宿痾(しゅくあ)」として構造的な思索を続ける田中康夫氏が、徹底的に語り合った――。
声を上げるのがカッコいい風潮、ファンがつくれ 近田春夫
ジャニーズは解体し、清算事業団となって補償せよ 田中康夫
音事協など音楽4団体は一刻も早く共同声明を 松尾潔
田中 3月7日にBBC(英国放送協会)が「Predator:The Secret Scandal of J-Pop(邦題:J―POPの捕食者 秘められたスキャンダル)」を放映。ジャニー喜多川こと喜多川擴(ひろむ)の「性加害」は全世界に「性犯罪」として膾炙(かいしゃ)します。
1カ月後の4月12日、ジャニーズ事務所の元所属タレントがFCCJ(日本外国特派員協会)で会見しますが、日本の「誤送船団」記者クラブメディアは黙殺。
放映半年後の9月7日に、メリー喜多川こと藤島泰子の娘であるジュリー藤島こと藤島景子が4時間11分に亘(わた)って〝涙の社長辞任会見〟に臨むも、終了直後にホノルル豪遊の逃避行。860億円の巨額相続税を「事業承継税制」の特例措置で免れる目論見(もくろみ)での「代表取締役」居座りだと『週刊文春』に報じられ、今後も自縄自縛な弥縫(びほう)策が続く気配が濃厚です。
名連載「考えるヒット」を2020年まで24年間、『週刊文春』に寄稿し、「事務所の責任、放送局の対処は本来違う文脈なのにごちゃ混ぜ」「何故、いかなる理由があってジャニーズ事務所のいいなりになってしまったのか? テレビ局が答えるべきはそこだ」と寸鉄人を刺す指摘をSNS上で展開する近田春夫さん。
福岡のRKB毎日放送ラジオで5月段階から「この国全体で膿(うみ)を出すべきフェーズだ」「メディア、音楽団体は共同声明を」と正鵠(せいこく)を得る提言を続け、それ故に喜多川・藤島一族と家族ぐるみの付き合いだった山下達郎・竹内まりやを看板に掲げる芸能事務所スマイルカンパニーから突如、マネージメント契約の中途終了を求められた松尾潔さん。
本日は「日本の宿痾(しゅくあ)」とも呼ぶべき「ジャニーズ問題」を三人で鼎談(ていだん)したく思います。
正義のない「義理人情」に説得力はない
近田 最近話題になったビッグモーターの事件だと、誰が悪いか、構造がわかりやすいでしょう。
それに比べてジャニーズ問題は、全体を一度整理してから話をしないと、混沌(こんとん)としている。情緒的な部分が意味を持ちすぎて、話が捻(ねじ)れていっちゃうと思うんだ。ま、慣習なので「さん」付けで呼びますが、亡くなったジャニーさんの犯罪が存在したことは事実ですよね。だけど「誰がよくて誰が悪いか?」と考えると、ジャニーさん以外の人については関係や距離感によって変わってくる。主犯のジャニーさんが死んでいるのも問題を複雑にしているよね。僕は、所属していたタレントには、誰一人罪はないと思う。ジャニーズに入ったときはみんな子どもでしょ。性加害が起きている事務所だなんてわからないよ。
田中 だからこそ21世紀に入って欧米で噴出しているカトリック教会の聖職者による児童への性的虐待と同根の重罪なんだ。
松尾 その前提となるのはジャニーズの特殊なシステムですね。僕の知る限り成人前にオーディションかスカウトで入ったタレントばかり。移籍して入ることは皆無。去る者には至難が待つことを国中が黙認してきた。家父長制の悪しき部分が凝縮された印象です。「お前がここにいるのは、俺が見つけたからだ」と「義理人情」による締め付けが無言のうちに染み込んじゃう。
近田 そういう環境にグラデーション的に慣らされていったら、何かされても声を上げることなんて頭に浮かばない。これも通称で呼びますが第3代ジャニーズ事務所代表取締役社長となったヒガシ(東山紀之)やジャニーズアイランド代表取締役社長のイノッチ(井ノ原快彦)には就任以降の責任があると思う。
松尾 だからギリシア悲劇以来の話ですけど「父殺し」をやらなきゃならない。本来はジャニーズに所属しながら「性加害を受けた」と訴えてもいいはず。過去の数々の性的虐待と隠蔽(いんぺい)工作が2017年に発覚して逮捕され現在も収監中のハリウッド元映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン事件では、グウィネス・パルトロウとか主役クラスの人が告発。皆が続々と名乗り出てきました。
近田 誰かそういう人が一人でも出てきたら変わる。そこを後押しするのは実は、ジャニーズを支えてきたファンたちだと思う。
松尾 「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は皆さん、辞めた人たちですよね。日本人って「文句言うなら辞めてから言え」と突き放すでしょ。「松尾はジャニーズ・ファミリーの事務所、スマイルカンパニーに世話になっていたのに藤島ジュリー景子を名指しで批判するなら、切られて当然」とかね。それは僕、おかしいと思う。なぜなら前提に正義を欠いているから。ジャニーズは関わった人間を義理人情で縛り付けるけど、その前提に正義がなければ説得力がない。そんな義理人情はビジネスの一蓮托生(いちれんたくしょう)でしかないと今、これだけ見せつけられているのに。
田中 大切な指摘です。
松尾 日本には見事に家父長制が浸透していて「毒親、ダメ親でも親は親なんだから、諦めなきゃ」というのが大前提になっている。
近田 「ジャニーさんがやったことは国際的に許されることでなく、一流企業ならそういう相手とは付き合わないのが常識だ」とか言われて、いろいろな企業が縁を切ろうとしているけど逆にそれは、これまで日本の企業の意識が低かったことのツケだと思う。
で、企業側が「ジャニーズ事務所とは付き合えません」と言ったとすると、「タレントさんは仕事がなくなっちゃうから可哀想」って話になるでしょう。それ、僕は違うと思う。企業に縁を切られたら、事務所にいたタレントたちは「ジャニーズ事務所のせいで自分たちの仕事がなくなったんだから事務所が補償すべきだ」と強力な弁護士を立てて事務所に損害賠償請求すればいいんですよ。
田中 ジャニーズ事務所には今後も莫大(ばくだい)な著作権料が入るわけです。
近田 だから、被害者に対してケアすることと、いまいるタレントの食い扶持(ぶち)のことは別問題として整理しなきゃいけない。
ジャニーズ事務所は「皇室ですよ」
田中 「業界ムラ」が沈黙し続ける日本の空気の中で、至極当たり前の問題提起をなさった松尾さんに、ラジオでの発言を発端とするマネージメント契約解除までの経緯を改めてお話しいただけますか。
松尾 先ほど正義という言葉を口にしましたが、僕は特別正義感が強いわけでもない。ならず者も多いアメリカのR&Bやヒップホップが好きでこの世界に入ったので、清濁併せ呑(の)みながら泥の中で美しい蓮の花を咲かせるのが芸能だとこれまで思ってきました。でもBBCの報道は実に衝撃的。なのに日本社会は無風でやり過ごそうとするのが気持ち悪かった。正義より生理で不快に感じ、発言しようと思い立ちました。
田中 1999年に『週刊文春』が14週に亘ってジャニー喜多川の「性加害」報道をした時はどうでしたか。
松尾 文春は購読し続けていましたが正直、真剣には読んでいなかったです。義憤的な気持ちが湧いたのは今年5月14日、ジュリー社長(当時)の僅(わず)か1分9秒の謝罪動画を観て「こんなふうにお茶を濁して終わりか」と思ったのです。翌朝にRKB毎日放送のラジオの朝の生ワイド番組「田畑竜介Grooooow Up」に出演しました。東京の仕事場から毎週リモートでエンタメについて語るコーナーです。プロデューサーから「昨日の動画、どう思ったか語ってください」と請われ、語りました。その書き起こしが番組HPに出て、翌16日にyahoo! ニュースに転載され、全国的なニュースに。すると17日にスマイルカンパニー創業者の子息で現社長の小杉周水君から「会いたい」と連絡があり、18日に二人で会うと「メディアやSNSでジュリーさんやジャニーズ事務所の名前を出すのは良くないです。ご自分の発言力、影響力を考えてください」と。「え、口にしちゃいけないの? なにそれ、皇室なの(笑)」と返したら一言、「皇室ですよ」と。
田中 ぎょぇぇえ〜!
松尾 「松尾ごときが頭が高い」と警告したかったのかもしれません。そして「辞めてもらうかもしれない」と。「今日は僕の判断でお話ししていますが、山下夫妻の意向も確認します」と言われ、翌々週に再び二人きりで会いました。すると、契約を中途終了したい意向を伝えたら「仕方ないよね」と山下夫妻は賛同している、と。「僕を事務所に誘ってくれた達郎さん、まりやさんもNGを出したんだ」と思い、ショックでした。弁護士と相談し、スマイルが強固に求める6月末での契約解除を呑み、7月1日にX(旧Twitter)へ投稿しました。
末尾の「バイバイ!」だけが恣意(しい)的に切り取られもしましたが、これは事務所のスタッフへの挨拶(あいさつ)。山下夫妻に宛てたわけではなかったのですが、義理人情がない松尾みたいな下衆(げす)に「バイバイ!」と言われるのかと一部の達郎ファンの誤解を招いたようです。
田中 拳を振り上げる硬直した人ではなく、常にしなやかな対応をしてきたのが松尾さんなのに、不毛な二項対立好きな旧来型の人はディスりたかったんだね。
松尾 僕が好きこのんで山下夫妻やスマイルを悪く言うはずがない。「ジュリー社長は記者会見を」「第三者委員会の設立を」といった建設的提言が目的なのに、契約解除の私怨で物を言っていると決めつけて矮小(わいしょう)化を図る人たちには閉口しました。結局その後、提言はほぼ全部実現しましたけど。
04年時点で性加害を認識すべきだった
近田 うかがってみたいんですが、お二人はジャニーさんに直接会ったことはありますか?
田中 パーティーで見かけたことがあるくらいかな。
松尾 ないですね。打ち合わせでオフィスに行った時に、社長室を見せてもらった程度です。
近田 僕はナベプロの関係で日劇ウエスタンカーニバルに出たら、ジャニーズのタレントが出演していて、リハーサルのときにタレントにアドバイスするジャニーさんを見たのが最初です。田原俊彦に「イン・ザ・プラネット」と「10代の傷跡」を作曲したとき、ジャニーさんとメリーさんがスタジオに訪ねてきた。
松尾 その頃、いま問題になっていることは、伝わってこなかったんですか。
近田 70年代に近田春夫&ハルヲフォンを組んでいた頃に、ファンでジャニーズの追っかけみたいな女の子がいて、そういう話を聞きましたが当時は、「学校にイタズラでちんちん触る先生がいる」といった軽いイメージ。社会一般もその程度の意識だったと思う。
松尾 都市伝説みたいな感じだったわけですね。
近田 ジャニーズ事務所って62年にジャニーズがデビューして、フォーリーブスが出て、郷ひろみが登場する。75年に郷ひろみがバーニングプロダクションに移籍してしまい、メインが豊川誕(じょう)になるんだけど、そこから80年代前半に「たのきんトリオ」が出てくるまでは氷河期だった。たのきんで勢いをつけて、グループがいろいろ出てくるけど、70年代後半は世間的にもジャニーさんのことってさほど話題になってなかったと思うんです。
田中 なるほど。で、「『悪魔の館』合宿所で強いられる〝行為〟」と報じた『週刊文春』を名誉毀損(きそん)でジャニー喜多川が1億円の損害賠償を求めて99年に提訴。2003年に東京高裁が報道の真実性を認め、04年2月24日に最高裁が上告を棄却し、ジャニーズ側の敗訴が確定します。
我々自身の自戒も込めて、この段階でジャニーズと付き合ってきた企業や組織は認識を改めるべきだった。新聞業界も放送業界も出版業界も広告業界も。
近田 当時、世間はそんなに興味を持たなかった。
田中 哀(かな)しい哉(かな)、それが日本の民度ならぬ「眠度」だったわけだ。官憲に逮捕された刑事事件でなく、文藝春秋側への損害賠償額も120万円ポッキリの民事事件じゃないかと。
近田 あの時代にSNSがあれば、みんな興味を持ったと思うのよ。問題は、性加害以前に放送局とジャニーズとの癒着があったところから始まる。音楽番組にジャニーズ以外のタレントをあまり出さないようにしているって、テレビを見てれば誰でもわかるわけ。なんでそうなっちゃったのか。もし放送局が強ければ、事務所から「ウチのタレント以外出すな」と言われたら、逆に出禁にするよね。それができなかった。
なぜテレビは何も言えなかったのか?
田中 僕が一目を置く日本経済新聞論説委員の石鍋仁美が9月17日付け「文化時評」で「健全な競争の不在が被害を拡大した面はないか」と述べている。他の記者クラブメディアが音無しの構えだから、少し長く引用させて頂くよ。
「芸能事務所というビジネスモデルの先駆け、渡辺プロダクションの1強だった」1971年に日本テレビで「はがきで応募した一般人が公開審査を経て芸能事務所などが獲得を競うまでを放映」する『スター誕生!』を「企画した作詞家、阿久悠は著書『夢を食った男たち』で『タレント供給の大部分を渡辺プロに依存する現状に、不自然さを感じ不満を抱くディレクターが大勢いた』と振り返る」。「舞台裏をガラス張りにしようと周囲に説き、合格者らは中小事務所に所属させテレビ局がきめ細かくケアした」。「切磋琢磨(せっさたくま)は歌謡曲の黄金時代を築いた」。
近田 「ジャニーズ黄金時代」がいつから始まったのか。たのきんが出てきた頃、テレビ朝日の敷地に2階建てのプレハブみたいなジャニーズの練習場があったのよ。ジャニーさん自身が采配を振っていたけど、その頃はメディアにそんなに使われていなかったと思う。たのきんって一般オーディションでたまたま受かった人たちなんだから、事務所に力なんてなかったはずなのよ。
田中 テレ朝通り六本木材木町の旧局舎脇ですね。
近田 どうしていつの間にか力関係的にジャニーズが上になって、放送局側はなにも言えなくなってしまったのか。それが性加害問題がいままで放置されてきた背景にあると思います。
マスコミって他の企業と違う責任を負っている。だって人の意見をコントロールできるわけだから。しかも、もっと自分たちのことを自分たちで見つめて語れるはずじゃない。まだこの構造をみんなわかっていないと思うんだよ。
田中 文藝春秋と宝島社、一時期までの主婦と生活社以外の出版社も軒並み誌面で破格の扱い。新聞社系の『週刊朝日』『サンデー毎日』も表紙にジャニーズを使ってきた。奇(く)しくも今回の鼎談は、最後の表紙掲載の贖罪(しょくざい)を兼ねた編集部の大英断と感謝した上で物申せば、「ジャニーズ 取引ある企業にも責任」と社説で述べながら、『週刊朝日』廃刊後も『AERA』の表紙に重用し続けた朝日新聞と朝日新聞出版の見識を疑う。
思い返せば『週刊朝日』19年7月22日号は表紙に「追悼ジャニーさん、ありがとう! YOU、やっちゃいなよ」と大書き。ジャニーズ登場の歴代表紙をコラージュしたんだよ。
近田 この見出しは凄(すご)い。きちんと検証してほしい。
田中 しかも驚く勿(なか)れ、ジャニーズ敗訴確定時には『週刊文春』の辣腕(らつわん)記者だった女性が朝日新聞に転職して、19年当時の編集長。現在も築地の本社のネットワーク報道本部首都圏ニュースセンター勤務で昨年12月には17本もの記事を出稿するジャーナリストの鑑(かがみ)だ。是非とも長文の署名原稿を掲載して、洛陽(らくよう)の紙価(しか)を高めて頂きたい。
松尾 記者会見でもやもやしたのは、東山新社長がジャニー元社長の行為を「鬼畜の所業」と断罪したあとにジュリー代表が「姪(めい)の私が引き継ぎます」と「お気の毒な親族」ポジションをとって、情緒に訴えかける発言をしていたこと。「これほど同族経営の弊害が指摘されてもなお「事業承継者の私」とは言わず「姪の私」と言い、「家の話」にする。
田中 「東山新社長もジュリーも井ノ原も見事な芝居」と作曲家服部良一の次男で7月15日に被害者として会見した俳優の服部吉次さんに皮肉られる始末。
近田 僕もその発言を読んでハッとしたけど、FTIコンサルティングという日本進出1年の米国系危機管理会社が入っていたにしては「芝居」になりきれていなくて、自分の言葉で語っていた気がしたんだよね。「この人たちって、こういう本音ね」ということがわかりやすく出ちゃった。
韓国芸能界から「業界近代化」を学ぶ
田中 Google日本法人代表を務めた辻野晃一郎が「ジャニーズに求められるのは解体的出直しではなくて解体だ」と述べているけど同感だな。「解体的」では裁量行政の二の舞いだ。
松尾 ただ、国連や海外メディアが言っても聞かないのなら、誰が「解体せよ」とジャニーズに言い渡すのか。それにジャニーズみたいなエンタメのトップ企業が「はいはい、国際基準に合わせて動けばいいんでしょ」と渋々動いているのを周りが黙って見ている現況も、エンタメ全体の価値を著しく損なうと思う。日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、コンサートプロモーターズ協会、日本音楽出版社協会の「音楽4団体」は共同声明を出して然るべき。実はこれ、僕が5月にRKBで語った具体的な提言の中で、唯一まだ実現していないことです。
近田 日本では独断で物事を変えられるような大きな人間って、構造的にこれから出てこないと思う。だから、そのなかで我々はどうするのか。日本語の問題って大きいよね。物事を灰色にすることに長(た)けている。文化的には優れた言葉だと思うけど、生活する我々が問題をどう解決していくかってときに、白黒つけるのが難しくなる言語だ。
とはいえファンのなかには「自分が応援してるタレントたちがどういう人であってほしいか」って意識をしっかり持っている人がいると思う。そういう人が、声を上げるのを「カッコいい」って思わせながら、少しずつ「コックリさん」的に目に見えない不思議な力で民意を変えていく。忖度(そんたく)とか斟酌(しんしゃく)とかをみんなが持っている日本社会で有効なのは「コックリさん」だと思うんだよ。主語的な意思で動くんじゃなくて、みんながなんとなくそっちに行くようにする。
松尾 実情は、強者になびくというより、少数派になることへの恐怖が肥大化しているんだと思うんですよ。
田中 お二人の見解に同意した上で、でも、決断しないが故に衰弱し続ける日本だからこそ「的確な認識・迅速な決断と行動・明確な責任」を引き受ける触媒役の創出が必要だよ。日本経団連会長の十倉雅和は9月19日の会見で「(ジャニーズ問題は)時間を掛けて検討すべき」と述べて失笑を買っているけどね。
僕は、福島第一原子力発電所の事故直後に国会で、東京電力は日本国有鉄道清算事業団的な損害賠償と廃炉事業に特化の組織にして、新会社の関東電力を設立すべきと提言した。
「性犯罪」の牙城だったジャニーズ事務所は解体し、莫大なる半永続的な著作権料収入を原資に、今回の被害者に留まらず今後も芸能界で生起するであろうあらゆる「悲劇」に性別を問わず対応する「日本の宿痾(しゅくあ)・清算事業団」への衣替えを断行。
他方で数多くの楽曲をジャニーズに提供してき文化庁長官の都倉俊一が先頭に立ち、“中抜きビジネスの雄”たる日本最大の広告代理店電通が裏方を務め、前途有為なジャニーズ所属&退所タレントを救済すべく、フェアでオープンな「ドラフト会議」を開催する。
もうひとつは映画も音楽も世界市場で日本を凌駕(りょうが)する韓国の国会が15年11月30日に満場一致で成立させた「理由なく出演を阻止する不公正行為」を放送等26事業者に禁止する、松尾さんもプロデュースを手掛けた5人組の東方神起から独立した3人(キム・ジュンス、パク・ユチョン、キム・ジェジュン)の頭文字を取った「JYJ法」と呼ばれる放送法改正に学んではどうかな。大手芸能事務所から独立したBTSがインターネットで「テレビの壁」を軽々と乗り越えた韓国芸能界の隆盛は、『スター誕生!』時代の阿久悠さんの回想と同様に「業界近代化」に役立つと思う。
松尾 この問題は日本社会に課せられた「棚卸し」という気がします。日本社会の要/不要の仕分けを時代の要請に応えてやらねば。
近田 今回、Aぇ!group福本大晴はじめ何人か現役の若手ジャニーズの人たちが、自分の言葉でしっかり意見を語り始めている。彼らはきっと何かを変えていくと確信しているよ。
田中 「『声を上げる』は生き方。『ダンマリ』は世渡り」と松尾さんがXで呟いた警句を我々一人ひとりが心に刻んでいきましょう。
(構成・寺岡裕治)
ちかだ・はるお
1951年生まれ。音楽家。ロック、歌謡曲、シティポップ、パンク、テクノ、ラップ…多様な音楽を横断し、斬新な表現を時代に発してきた。アルバムに『超冗談だから』ほか多数。著書に『考えるヒット』シリーズ、『調子悪くてあたりまえ』ほか多数 https://chikadaharuo.com/
たなか・やすお
1956年生まれ。作家。元長野県知事。文学と政治、いずれにおいても人間の社会参加の新しい姿を追求する。著書に『神戸震災日記』、『33年後のなんとなく、クリスタル』ほか多数。https://tanakayasuo.me/
まつお・きよし
1968年生まれ。作家・作詞家・作曲家・音楽プロデューサー。平井堅、CHEMISTRY、JUJUらを成功に導き、提供楽曲の累計セールス枚数は3000万枚を超す。日本レコード大賞「大賞」(EXILE「Ti Amo」)など受賞歴多数。著書に、長編小説『永遠の仮眠』ほか https://twitter.com/kiyoshimatsuo