週刊エコノミスト Online サンデー毎日

2024年大学入試:国公立・私立289大学4大模試最新難易度 理系編 情報系は志望動向に変化が

「サンデー毎日11月12日号」表紙
「サンデー毎日11月12日号」表紙

 理、工、農・水産は増加傾向

 理、工、農・水産といった、ベーシックな理系学部の志望状況が堅調な一方、受験生の注目度が高い情報系の志望者は伸び悩む。デジタル人材養成に向けた学部新設が進む中、倍率面で入り易い大学も出てきそうだ。

 2024年度入試(24年4月入学)の理系学部の志望状況は、全体的に安定している。前年を100とした時の全体の志望指数は、国公立大が97で私立大は94。この点を踏まえて、「系統別志望状況」を見ると、理、工、農・水産は前年並みから増加傾向。特に伸びが大きい理について、駿台予備学校進学情報事業部長の石原賢一氏は、こう話す。

「国公立大と私立大ともに理学系の志望者が増えているのは、基礎科学をしっかりと学びたいと考える、コアな受験者層が安定的にいるからでしょう」

 農・水産も国公立大と私立大ともに志望者増。その要因について、ベネッセコーポレーション学校カンパニー教育情報センター長の谷本祐一郎氏に聞いてみた。

「探究学習が活発に行われるようになったことが農・水産系人気の背景にあると思います。SDGsや環境問題、食料問題など、探究学習の延長線上で幅広く興味関心を持つ生徒が増えたのでしょう」

 志望者が増加傾向の農・水産の中でも、北海道大・水産や名古屋大・農、宮城大・食産業、龍谷大・農などの人気が上がっているという。学科に注目すると、ここ数年人気が高まっている獣医系の志望者がさらに増加。定員枠が小さいこともあり、獣医師を目指す受験生は厳しい入試を覚悟したほうがよさそうだ。

 理系学部の中で定員規模が最も大きい工の志望状況に大きな変化は見られない。学科ごとの詳細な志望状況について、河合塾研究開発本部の主席研究員、近藤治氏が説明する。

「工学系の志望者は前年並みですが、学科別に見ると国公立大は応用化学、材料、生命、生物工など比較的メジャーではない学科。私立大は機械や電子などに志望者が集まっています。国公立大と私立大に共通するのは、機械・航空の女子比率が高まっていること。かつて、この系統は女子に人気がなく、建築や生物、生命工が多かったですが、女子の選択肢の変化を感じます」

 理と農という、もともと女子の人気が高い系統に加え、工学系も女子の注目度が増している。女子の選択肢の変化による他の学部系統からの流入が、理、工、農・水産の志望者を押し上げているようだ。他の先進国に比べて理系の学位取得者が少なく、特に女子はOECD加盟38カ国中最低という。そうした状況が改善する兆しといえるのだろうか。

 一方、不足する理系人材の中でも足りないと言われるデジタル人材の養成については、志望状況に変化が出ている。情報系は系統別志望状況で総合科学に含まれるが、国公立大は全体の志望者を下回り、私立大は1ポイントアップにとどまっている。駿台の石原氏は言う。

「昨年は模試で志望者が増えていた割に、情報系の志願者は増えませんでした。特に私立大の場合は、入試のハードルが高いことが分かって減少したようです。難関大を中心に、データサイエンス関連のプログラムが充実しており、情報系に進学しなくてもデータサイエンスの素養が身に付くことも、志望者が増えない一因でしょう」

 デジタルスキルの必要性を感じていても、必ずしも情報系に行く必要はないと考える受験生が少なくないようなのだ。 全体の志望者が伸び悩む情報系の中で志望者が増えている大学もある。しかし、そうした大学でも、倍率アップにつながらないケースがありそうだ。ベネッセの谷本氏は言う。

「大学・高専機能強化支援事業により、北海道大・工の情報エレクトロニクスや、東京工業大・情報理工など、募集定員が増える大学が多くあります。志望者は増加傾向ですが、定員増加率のほうが大きいので、前年の倍率を上回ることはないかもしれません」

 定員増や新設相次ぎ、受け皿広がる情報系

 文部科学省が進める「大学・高専機能強化支援事業」は、他の先進国に比べて大幅に不足しているデジタルやグリーン人材の養成など、特定成長分野を牽引(けんいん)する大学を支援するもの。その一環で東北大や電気通信大、金沢大、岡山大、愛媛大、佐賀大、大分大も学部や学科によって情報系の募集定員が増える。

 人材養成が求められている情報系は学部や学科の新設も進む。24年度は、国立大では千葉大や宇都宮大、熊本大。私立大も明治学院大など多くの大学が新設予定だ。志望者が伸びない中、学部・学科新設で定員が増えるので、倍率の緩和が見込まれる大学がある。 志望者が伸びない情報系だが、潜在的にデジタルスキルを学びたいと考える受験生は少なくないようだ。東進ハイスクール広報部長の市村秀二氏は、情報系は堅調な人気が続いていると言う。

「例えば、神奈川大と日東駒専(日本大、東洋大、駒澤大、専修大)のいずれかにダブル合格した場合、多くは日東駒専を選びます。しかし、神奈川大が今春新設した情報学部との比較では、神奈川大を選ぶ受験生もみられました。このように、情報系学部・学科の新設は、大学の人気を多少なりとも押し上げるプラス要因になると感じています」

 大学の序列より情報系での学びを選ぶ受験生の存在は、人気の底堅さを示す。情報系の志望者は、定員増や学部新設で受け皿が広がる、恵まれた環境を生かしたい。

 10月31日発売の「サンデー毎日11月12日号」には、「国公立・私立289大学4大模試最新難易度 理系編」を掲載しています。

 ほかにも「ナメるにもホドがある! 愚策の岸田減税の正体見たり そのウラでは『ステルス増税』オンパレード!」「石橋湛山と田中角栄 真の『保守の精神』を解き明かす 佐高信」「86歳現役漫画家・東海林さだおさんと脳梗塞と食事について語り尽くす 脳梗塞から私はこうして生還した23」などの記事も掲載しています。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

5月14日・21日合併号

ストップ!人口半減16 「自立持続可能」は全国65自治体 個性伸ばす「開成町」「忍野村」■荒木涼子/村田晋一郎19 地方の活路 カギは「多極集住」と高品質観光業 「よそ者・若者・ばか者」を生かせ■冨山和彦20 「人口減」のウソを斬る 地方消失の真因は若年女性の流出■天野馨南子25 労働力不足 203 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事