経済・企業ロングインタビュー情熱人

企業のオーナー家族の潤滑油――丸山祥子さん

「家族のビジョンやルールをまとめた『ファミリー憲章』作りをお手伝いします」撮影=武市公孝
「家族のビジョンやルールをまとめた『ファミリー憲章』作りをお手伝いします」撮影=武市公孝

ファミリービジネスアドバイザー 丸山祥子/94

 国内企業の97%を占めるファミリービジネス(同族企業)。その潜在力を引き出すには、事業だけでなく、事業を営む家族の課題を解きほぐすことが必要だ。丸山祥子さんはその最前線にいる。(聞き手=清水憲司・毎日みらい創造ラボ)

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── ファミリービジネスアドバイザーとして、ファミリービジネス(同族企業)の抱える課題に取り組んでいますね。どんな課題があるのですか。

丸山 日本の企業のほとんどは、一族が経営と所有を握るファミリービジネスの形態です。長く日本経済を支えてきましたが、大きな環境変化が到来しています。その一つが家族のあり方の変化です。個人の意思よりも家の存続を重視するイエ制度、父親の意向が絶対視される家父長制度が崩れ、「この家に生まれたから継がなければならない」という形での継続が難しくなっています。

── 日本全体にも及ぶ課題なんですね。

丸山 これまで日本の同族企業は「継ぎたくなかったけど継ぐほかなかった」という家族の犠牲の上に成り立ってきた一面がありますが、それが通用しない時代になりました。個人の意思が尊重されるようになったのはいいことである半面、地域の経済や雇用を支えていた会社がなくなれば、社会に与える負の影響が大きくなります。ひいては日本経済の衰退につながってしまうのです。

── ファミリービジネスアドバイザーは耳慣れない職業ですが、どんな仕事ですか。

丸山 ファミリービジネスの事業承継に当たって、相続税や株主対策などの専門家はたくさんいますが、「あとは家族で話し合って決めてください」で終わってしまいます。しかし、世の中で相続争いが絶えないように、実際には家族の関係性は極めて複雑で繊細です。家族で話し合うことすらままならず、誰かが我慢したり犠牲になったり、感情がもつれたままになったりするんです。

 その話し合いの道筋を作るのが、ファミリービジネスアドバイザーの仕事の一つ。経営者や配偶者、事業を継ぐ子ども、継がない子どもの考えを、家族みんなが同じテーブルに着いて話せるようにお手伝いします。家族が健全な関係性を築いていないと、会社経営も健全でなくなってしまいます。同族経営には「閉鎖的」「お家騒動」という負のイメージがつきまといますが、背景に家族の問題が存在することも少なくありません。

── 具体的にはどう取り組むのですか。

丸山 会社にビジョンやコーポレートガバナンス(企業統治)が必要なのと同じように、オーナー家族にもビジョンとファミリーガバナンスが必要です。自分たちがどのような家族でありたいか、どんなことを大事にしたいかを、家族の歴史をひもときながら話し合い、ビジョンを言葉にして共有します。そのビジョンを実現するために必要なルールも作り、ビジョンやルールをまとめた「ファミリー憲章」作りをお手伝いします。

── 「言わなくても分かり合っている」と思いがちな家族でも、認識を共有することが大事なんですね。

丸山 はい。もう一つは、株主学習の支援です。会社を継ぐ、継がないにかかわらず、株式を受け継ぐことに伴う株主としての義務と責任について、ケーススタディーや読書会などを通じて学ぶ場を設けています。また、執行役員を務めている日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)で、他のアドバイザーを育成したり後継者のメンタリングを行ったりもしています。

かつては建設会社の跡取り娘

 現在は、ファミリービジネスアドバイザーとして活躍する丸山さんだが、かつては家業である建設会社、株式会社丸山組(愛知県安城市)の跡取り娘だった。3人姉妹の2番目。「絶対に継ぎたくない」と考えていた丸山さんは、大学院で建築や都市計画を学んだ後、都市再生機構(UR都市機構)や設計事務所などで働いていた。しかし、ある日「オーナー家族としての責任」を突き付けられることになった。

── 丸山さんは2009年、31歳で丸山組に入社します。きっかけは?

丸山 母親が倒れたことです。その時に初めて、丸山組を経営する父親が倒れたらどうなるのだろうという考えが頭をよぎりました。同時に、会社や社員の生活もどうなるのだろうと、オーナー家族としての責任に思い至ったんです。自分もオーナー家族の一員として「何も知らない」ではあまりに無責任だと考え、両親から「戻ってきてほしい」と言われたわけではありませんでしたが、自分で入社を決めました。

── 入社後は、父親と対立する場面もあったそうですね。

丸山 事業はとても順調でした。安定的な取引先があり、無借金経営。強みといえば「堅実」であることでした。けれど、裏を返せば横ばいで、未来が見えなかった。私はビジネススクールでも学び、13年には経営学修士(MBA)も取得していたので、そうした父の経営方針が理解できませんでした。無借金なんて経営じゃないと。今思えば若さゆえの焦りと未熟さでしたが、父の全部がダメに見えました。

── 15年には社長となりましたが、どんな経緯があったのですか。

丸山 入社して…

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