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週刊エコノミスト Online ロングインタビュー情熱人

サスペンス映画「おまえの罪を自白しろ」を監督――水田伸生さん

「一番興味があって撮りたいのは俳優の芝居」 撮影=武市公孝
「一番興味があって撮りたいのは俳優の芝居」 撮影=武市公孝

映画監督 水田伸生/93

「舞妓Haaaan!!!」をはじめ、数々のコメディー映画を手掛けてきた映画監督の水田伸生さん。10月20日より全国で公開される映画「おまえの罪を自白しろ」は、その中でも珍しいサスペンス劇だ。(聞き手=りんたいこ・ライター)

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── 10月20日公開の映画「おまえの罪を自白しろ」は、真保裕一さんの同名小説が原作です。コメディー映画を多く手掛けてきた水田監督には珍しいサスペンス劇ですが、原作のどこに引かれたのでしょう。

水田 原作を読んだ時、(ジョン・スタインベック原作の映画)「エデンの東」が思い浮かびました。私自身が13歳の時に父を亡くしているので、父と息子のヒューマニズムの物語にすごく心を揺さぶられるのです。

── 原作小説では目立たなかった、誘拐された幼女の母や、事件を追う女性報道記者が存在感を見せています。

水田 私は、女性だからこうあらねばとか、男性だからこうあらねばという固定観念を持って作品作りはしていません。ただ、父が死んだ後、私と弟のため、父が残した会社を維持するため、社員のために、再婚することなく生きてきた母を見てきているので、女性に対する心象は尊敬しかありません。だから、どんな映画やドラマであろうと、登場人物の女性が懸命に生きている姿、あるいは、自分よりも他者を尊重する人間の姿を描きたいと考えています。この考え方は、私の監督デビュー作「花田少年史 幽霊と秘密のトンネル」(2006年)から今に至るまで、一切変えるつもりなく貫いています。

── 今回の映画で最も苦労したことは?

水田 (脚)本づくりですね。真保先生の原作者としての意思があるし、脚本家やプロデューサーの意思もあるので、私自身がどんな映画にしたいのか、という具体的なイメージを持つことが大事です。そこで必要になるのがグランドビジョン。これがないとスタッフ全員の考えをまとめ、統一性のあるものが作れなくなってしまいます。

 今作は、誘拐事件に遭った被害者家族が、誘拐犯から金銭ではなく「罪の自白」を要求されるという、前半の構造をけん引力にして、後半は謎解きに見せながら一気に父と息子の物語に展開する。落ち着くところは、悔い改める父と、父が果たせなかった、より良い政治を目指そうとする息子。しかも、それを長男ではなく次男が担う。そういった具体的なビジョンをプロデューサーや脚本家に伝えながら、映画としての完成度を上げていきました。新型コロナウイルス禍で撮影が延びたこともあり、その作業に1年以上かけました。

映画「おまえの罪を自白しろ」の一場面 ©️2023「おまえの罪を自白しろ」製作委員会
映画「おまえの罪を自白しろ」の一場面 ©️2023「おまえの罪を自白しろ」製作委員会

人脈作りも大事な仕事

 水田監督の10作目の公開作となる今作。堤真一さん演じる国会議員・宇田清治郎は、政治スキャンダルの渦中にいた。その最中、清治郎の長女、麻由美(池田エライザさん)の幼い娘が誘拐される。犯人の要求は身代金ではなく、「明日午後5時までに記者会見でおまえの罪を自白しろ」というもの。清治郎が口を閉ざす中、秘書を務める次男・晄司(中島健人さん)が、タイムリミットまでに父の罪の真相を暴き、めいを救出しようと奔走する。

「おまえの罪を自白しろ」撮影現場の水田伸生監督(中央)©️2023「おまえの罪を自白しろ」製作委員会
「おまえの罪を自白しろ」撮影現場の水田伸生監督(中央)©️2023「おまえの罪を自白しろ」製作委員会

── 普段の作品作りでも脚本に時間をかけるのですか。

水田 一番時間をかけるのはスタッフィングです。私が万能ではないように、スタッフにも得手不得手がある。その映画に対して極力得手の人間を集めたいし、スタッフ同士、相性が良いほうがいい。ただ、今の日本の映画界は、作品が多くてスタッフは奪い合いなんです。だから、水田と一緒に仕事をしたいと思ってくれる人間を、過去にさかのぼってどれくらい作っておけるかも大事な仕事です。

── 監督を務めたもう1本の映画「ゆとりですがなにか インターナショナル」(宮藤官九郎さん脚本)も現在公開中です。16年に日本テレビ系で放送されたドラマの映画化で、こちらは一転してコメディーですが、切り替えに苦労は?

水田 ビジョンができていれば、それに従ってやればいい。料理だって、作っているうちに、カツ丼がすき焼きになったりはしないでしょう? 「ゆとりですがなにか〜」は、多様性を認めること、イコール他者に対する寛容さを持ち続けることが大事だよ、というメッセージがグランドビジョン。宮藤さんの意思もそこにあるから、タイトルに「インターナショナル」がついている。鎖国時代から変わっていないようなメンタルをいい加減取っ払わないと、この国はますます酷(ひど)いことになるという危機感が作らせているのです。

── 水田監督はクランクイン前の準備を周到にすることで知られています。それは経験から学んだものですか。

水田 経験プラス、母の仕事ぶりをはたで見てきたからです。やっぱり良い仕事をしたいですから。良い仕事とは、これも母から教わったことですが、人を幸せにすること。誰かが喜んでくれることを目指して私は仕事をしています。お客さまがたくさん来て喜んでくれれば、その結果としてプロデューサーも脚本家も喜ぶ。でも、お客さまが喜んでくれないと当然もうからないし、私の仕事もなくなる(笑)。

「準備不足」を避けるわけ

── そのためにも事前の準備に念を入れるわけですね。

水田 私の経験から間違いなく言えるのは、クランクインの後にできるのは、本当にわずかだということ。突発的な出来事が起きておろおろするのは、やっぱり私は準備不足だと思う。想定しておけば突発ではなく、“ケースA”で済む。天気が晴れないから大変なのではなく、曇りも雨もあると思っていれば、みんな困らない。それが準備というものです。

 私が、一番興味があって撮りたいのは俳優の芝居です。俳優は芝居に専念して共演者との人間関係を表現してくれればいい。そうでないと社会を映し出せない。シナリオに書かれている人間関係を表現することに心を砕いてくれれば、自然とキャラクターが見えてくるものなのです。私があらゆる対処法をあらかじめ考えておくのも、そういう俳優の良いパフォーマンスを引き出したいからです。

 広島市出身の水田監督。高校時代に演劇に興味を持ち、日本大学芸術学部に進学して俳優教育を学んだ。家業を継ぐことも考えたが、「母と話し合った結果、就職試験を受けて全部落ちたら考えよう」と受けたのが、広告代理店と日本テレビ。両方に合格したが、「芝居のそばにいられるから」と後者を選んだ。1981年の入社後はテレビドラマの制作に携わり、「恋のバカンス」(97年)といったコメディーから、社会派の「Mother」(10年)、「Woman」(13年)など、数々の話題作の演出を担当した。

── 転機となった作品は?

水田 宮藤官九郎さんと最初に作ったドラマ「ぼくの魔法使い」(03年)かもしれないし、最初に企画を通して演出デビューした作品かもしれない。あるいは、「舞妓Haaaan!!!」(宮藤さん脚本の、舞妓(まいこ)オタクを主人公にした07年公開の映画)がヒットしたことかもしれない。でも、一番の転機は、2人の手相見から「晩年は寂しくなる」と言われたことです。

占いの結果で働き方一変

── えっ? 占いの結果が転機ですか?

水田 最初に言われたのは30代後半で連続ドラマが当たりまくっている時。こっちは血気盛んなころだから、「ふざけんな」「何歳からが晩年だよ」と気に掛けなかった(笑)。でも、その5、6年後、京都でまったく同じことを言われた時は、さすがに背中がひんやりして、その言葉の意味を考え始めた。そして、何歳から晩年か分からないけれど、もし寂しいということがあるとしたら、好きな仕事ができなくなることだと思いました。

 私は会社員だから人事異動もあるし、演出家としてダメという烙印(らくいん)を押されて、この仕事ができなくなる可能性もある。そこからです、働き方を変えたのは。フィールドの幅を広げようと、舞台演出と映画監督を目指して、それまでの3倍働きました。

「ヒリヒリハラハラを五感で体感してほしい」

── 動画配信サービスなどが普及する中、映画の役割をどう考えていますか。

水田 動画配信サービスは、遠隔地に住んでいて劇場がない人にはものすごく貴重な情報源だと思います。でも、一度でも劇場で演劇や映画を体験したら、その記憶は捨てられないでしょう。五感で体感するのが映画であり演劇。配信やテレビでは視覚と聴覚しか刺激されないので、まったく別物と捉えたほうがいいと私は思っています。今回の映画は配信を目的として制作してはいません。ヒリヒリハラハラしながら見てもらえる娯楽映画を目指して作ったつもりなので、一人でも多くのお客さまに劇場で体感してほしいですね。

「原爆をテーマに、人間の愚かさと、美徳の両極端を描く作品を作りたい。それが、広島で生まれた私の使命」

── これから撮ってみたい映画の構想は?

水田 なるべく早く実現したいと思っているのは、原爆をテーマにした、戦争の愚かさを伝える作品です。かといって、被爆の惨劇を描くようないわゆる戦争映画ではありません。戦争をする人間の愚かさと、美徳の両極端を描きたいのです。どんなに悲観的な状況でも他者を尊重する美徳を持った人間でありたいと願う映画で、ジャンルはコメディーですが、最終的には8月5日、広島に原爆が投下される前の日で終わる物語の企画を考えています。

 世界最初の被爆地である広島は、その復興資金を原爆投下国のアメリカに頼り、その代償として「原子力平和利用博覧会」を1956年に開催しました。戦争という愚かな行いが生んだ喜劇のような歴史の一幕です。この歴史を忘れることのない事実として語り続けるためにも映画にする。それが、広島で生まれた私の使命だと思っています。


 ●プロフィール●

みずた・のぶお

 1958年8月、広島市生まれ。日本大学芸術学部演劇学科卒業後、81年日本テレビ入社。数多くのテレビドラマの演出を手掛ける。2006年、「花田少年史 幽霊と秘密のトンネル」で映画初監督。07年、「舞妓Haaaan!!!」が話題に。テレビドラマ「Woman」(13年)で芸術選奨文部科学大臣賞放送部門受賞。16年6月より日本テレビ執行役員・制作局専門局長。19年9月より、日本テレビ系列の制作プロダクション「日テレ アックスオン」執行役員。21年9月より同社ジェネラルクリエイターとして後進の育成、作品の企画制作に当たる。


週刊エコノミスト2023年10月24日号掲載

「おまえの罪を自白しろ」公開 水田伸生 映画監督/93

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