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共産党随一の俊英 山添拓が岸田政治の断末魔を暴く

倉重篤郎のニュース最前線

渾身特集 腐敗極まれり 岸田政権ズタボロ

パーティー裏金問題 不記載理由と使途を徹底追及すべき

国民生活、ガザ、オスプレイ墜落…真の政治課題を浮上させよ

 岸田政権そして自民党に致命傷を負わせた裏金問題の本質とは何か? それは独裁政権下の腐敗であり、記載できないカネの使途ではないか。共産党のホープ・山添拓氏が政権断末魔を斬り、混迷のいまの真の問題を明らかにする。

 派閥のパーティー券収支を巡る裏金事件、その政局的破壊力が日々永田町で猛威を振るう。岸田文雄首相は、その中心にいる安倍派の閣僚4人の更迭を含む内閣大改造人事を断行した。安倍派パージにより混乱の収拾を図ろうとしている。

 ただ、事が首相の思惑通りにいくかどうかは不透明だ。岸田派もまたパー券収支での不記載が指摘された。安倍派以外の政権内要職者に少額でも同様の裏金が出てこないとも限らない。交代すべき役職者のなり手がいない、と報道されている。「岸田丸」泥舟効果が顕在化してきた。自民党の面々、皆叩(たた)けば埃(ほこり)が出てくる輩(やから)ばかりで、ここでリスクを取りたくない、というのが本音であろう。下手すると泥舟本体の交代を迫られる可能性がある。

 その行方は自民党内権力闘争に委ねることにし、この稿では事件の謎にメスを入れたい。一つは、不記載の理由と裏金の使途である。政治資金収支報告書に書き込めば何の問題もないのに、なぜそうしなかったのか。不記載を立件されると公民権停止になることぐらい先刻承知のはずである。

 安倍(晋三元首相)1強時代の驕(おご)りもあっただろうし、不記載でよいと派閥から指示があった、との証言も飛び出した。ただ、何か大きなメリットがなければそんな危ない橋は渡らない。では、そのメリットとは何か。個々の議員側からすると、表にできない自由に使えるカネの創出、ということになる。飲み食いではないだろう。内閣で言えば官房機密費的なものか。

 パー券を多額購入した企業団体側からするとどうか。議員にキックバック(還流)された部分については、その議員との関係で利益誘導的期待感を抱いてもおかしくない。あらゆる慣習、仕組みは利害によって支えられている、とすれば、それが何であったかが解明されない限り、抜本的再発防止にはつながらない。

 実はもう一つわからないことがある。なぜこの局面で、安倍派壊滅につながるスキャンダル捜査が検察当局によって大々的に展開されているのか。安倍政権時代、検察人事に介入しようとしたことに対するリベンジ的なものがあるのか否か。

 かつての大疑獄「ロッキード事件」もまた検察主導型(検察リークとメディア報道で事件の骨格を作り被疑者を追い込むパターン)であった。その背景には、田中角栄元首相を嫌った米国一部勢力と時の三木武夫政権の以心伝心、共同作業があった、とされている。春名幹男『ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』(KADOKAWA、2020年10月)が迫ったテーマだが、今回の事件の背景はどうなのか。

 政局に蠢(うごめ)かず、国会には事件の本質、背景に斬り込むことを求めたい。本来なら裏金問題調査特別委員会を特設して、検察捜査と並行して事件の解明に当たるのが筋である。ロ事件もリクルート事件も国会で証人喚問を行い、新事実を発掘、自浄機能を発揮してきた。今回はどうか。弁護士でもある共産党きっての俊英・山添拓参院議員に事件解明の要所と国会の役割を聞いた。かつて本欄に登場した音楽プロデューサー松尾潔氏が、自民の石破茂氏とともに「超党派政治家ドリームチーム」の筆頭に挙げた、言葉と理路の政治家である。

 やはり問題は使途か?

「よく不記載問題として報道され、収支報告書に記載さえすれば問題ないと言われる。確かにそうだが、記載しないだけの理由があるのではないか。つまり、入る方を書かなかったのは、出る方に書けなかった理由があるからではないか。議員側がキックバックを受けたカネをどのような形で使っていたかまで、明らかにさせるべきだ。5年で5000万円といわれている人もいる。通常の歳費収入や政治資金とは別で、帳簿上書けない出費があり、その入りも必要になった、という構図に思える」

独裁政権下で裏金作りが常態化か

 使途は飲み食い?

「それなら書けますよね。地方議員を接待するとか、土産を渡すこともあるかもしれないが、合法的出費なら領収書付きで問題なく書き込める。書けない支出は何か。それを明らかにすべきだ。買収に使われた可能性もあるのではないか」

「パー券を買う企業団体も程度の違いはあるだろうが、基本的には何らかの便宜供与を期待しての購入でしょう。政治側が資金提供者に利益誘導するという利権構造があって、パー券収支の流れに沿って、企業団体側の利益になるような政治的、行政的な動きをしたとすれば、別の事件になる可能性もある」

 不記載という単なる形式犯を超えたものがある?

「そう思いますね。表面化していることは、派閥側の収入の不記載と個々の議員の入りと出の不記載だが、そのカネは何のためにプールされたり、キックバックされているのか、それが裏金問題の本質ではないか」

 なぜ派閥経由なのか?

「最大派閥といわれる安倍派のパワーに対する政治的期待も強かったのではないか。議員側には集めやすい、という事情もある」

 かつて、迂回献金疑惑というのがあった。2004年に発覚した日歯連の闇献金問題から派生したもので、自民党の政治資金団体経由で特定の議員に献金できる、という闇システムが表面化した。立件には至らなかったが、本来、組織(派閥)宛ての資金が特定議員にも届く点では似ている。

「同じ派閥でもパー券を誰から買うかは選び得る。どのみちその派閥に行くのはわかっているので、この人から買いたいというのはあるだろう。企業団体側にとってみると、大派閥と特定の議員個人の両方に恩を売れる。買う側、売る側双方にわかりやすいかもしれません」

 安倍派なぜ多い?

「それだけ緩んでいたのではないか。何で緩んだかは、安倍派の人に聞いてみないとわからないが、あれだけ長期間にわたって数を頼み、やりたい放題やってきたという体験がある。『これくらいは問題ない』ということが慣例化、浸(し)み込んでいたんでしょうね」

 モリカケ桜効果? 安倍政権下、森友、加計、「桜を見る会」問題で行政権の乱用や法令違反があったが、安倍氏の政治責任を問うには至らなかった。

「行政権の私物化を厭(いと)わない政治の下で、パー券での裏金作りが常態化、構造化されていた感がある」

 安倍バブルの崩壊?

「旧統一教会との(癒着)問題も今回の裏金事件もそうだが、安倍政権の下で何となく隠されてきたものが一気に噴出し、崩壊するという過程に入っている」

 他派閥は警戒した?

「日歯連事件もあり、(その直撃を受けた当時の小渕派系列の)茂木派なんかは結構厳しくやっているという話もある。派閥による大小、程度の差はあるのかもしれない。ただ茂木派でそういうことがあったら、他派も襟を正す、というのが本当だと思いますが」

証人喚問を行い国民に明らかにせよ

 事件への適用法令は?

「議員の所得になっていて申告していなければ脱税だろうし、派閥にお金を入れるのではなく、自分で取ってしまうなら詐欺になる。派閥から受け取りながら適正処理しなければ横領ともいえる。ただ、基本的には政治資金規正法上の問題(不記載・虚偽記載)として対処されるべきだ。政治家本人が立件されると、公民権停止となり政治家としての資格も剥奪される」

 派閥ぐるみ、どう立件?

「取り仕切る側も受ける側も承知の上でシステム化されていた。派閥パーティー自体が裏金集金システムとして催されていたということであれば、より悪質と認定され、その中心にいた事務総長クラスは刑事責任を免れないのではないか」

 検察どこまでやる?

「態勢を強化しているという。それなりに位置付けして斬り込もうとしているように見える」

 安倍時代よりは熱心?

「これは推測の域を出ないが、安倍政権時代には黒川弘務(東京高検検事長を検事総長に昇格させるため検察人事に介入しようという)氏問題もあり、それに対する検察の反発があってもおかしくない。ただ、そうはいっても法務省というのは、法務官僚と検察官僚が一体の組織だ。どこまで官邸に対して独立し公正にやれるかは不明だ。徹底的に捜査してほしいが」

 最大のポイントは?

「単なる記載ミスの話ではない。秘書や会計責任者の立件で済む話ではない。これだけ組織的、システム的にできているとなると、政治家の責任をどう問うか、事務総長クラスの聴取は必須だと思う。安倍派が組織的にどう責任を取るか。つまり、このようなシステムを誰がどうやって構築し、いつからどのように運用してきたのか、その実態をどこまで遡(さかのぼ)って明らかにするのか。公訴時効は5年としても、5年前に急に始まったということはありえない。客観証拠があるものは遡り、歴代事務総長に徹底的に聞くべきだと思う」

 リ事件並みと?

「政治資金を巡る制度改正につなげなければならない、という点では同じだが、違いもある。リ事件は企業側が未公開株のばらまきで事件を作ったが、今回は政治側の都合で出てきた事件だ。派閥が組織的に裏金をプールするシステムを作り企業側を取り込んだ。より意図的、悪質といえる」

 どう解明する?

「国会に特別委員会を設置し、証人喚問を行うなど国民的にわかるようにすべきだ。裏金が何らかの利益誘導や政治の歪(ゆが)みを作る形で使われていないのか。その構造を明らかにしたい」

 ロ事件では国会での追及と捜査が同時並行だった。

「不思議な話で『捜査を受けているからしゃべらない』とは言わない。『報道によれば捜査が始まっており、そこに影響を与えかねないから』云々(うんぬん)と言う。彼らが国会で一言しゃべったくらいで揺らぐ検察なのか。それ自体が検察の独立をあまりに軽視しているんじゃないかと思う」

 政権には相当な痛手?

「官房長官を代えること自体大変な話だ。安倍派を切ることで乗り切ろうという魂胆に見えるが、それでは済まない。二階派や麻生派でも裏金疑惑があり、岸田派にも不記載問題があるようだ。金額の大小の問題ではない。交代させようにも人がいなくなって政権として持たなくなる。岸田総裁の責任で真相解明を求めるが、その上で代わって(政権交代して)いただくしかないと思う。閣僚や党の要職者がこれだけ辞めるのは前代未聞だ。これはもう政権も与党も中枢が駄目だという事になる。権力として立ちゆかない状況だ」

この政権が国民生活を守るはずがない

 当面裏金政局が続く。

「本当は今こんな話をしている場合ではない。私は外交防衛委員会にいるので、敵基地攻撃能力保有など大軍拡問題をもっと追及したい。米軍オスプレイ墜落事故では、日米同盟の歪みがはっきりした。日本から米国に飛行停止も言えないし、原因究明も当初は言わなかった。こういう問題こそ国会で論戦すべきだ」

 ガザ危機も同時進行だ。

「今ガザ南部が、イスラエルからの無差別攻撃で、トイレもシャワーもないという非人道的事態に陥っている。国連総会の特別会合で人道目的の即時停戦を求める決議が採決に至り、日本も賛成した。国際世論が事態を動かしており歓迎したいが、米国は安保理での拒否権発動に続いて反対した。同盟国である日本が正さなければいけない時だ」

 政策論議ができない。

「裏金問題は、次々に新しい膿(うみ)が出て、ワイドショー的には関心が集まるが、極めて低次元の話だ。こういう問題で政権が瓦解(がかい)してしまうのは極めて情けないことだと思う。国民の暮らしとの関係で言えば、物価高で生活が苦しい。インボイスが始まって年収1000万円以下の小規模零細業者でも消費税の課税対象になるというのに、年間1000万円の裏金を作っているという話だ。国民的にはやってられない」

 岸田首相の対応どう?

「首相、自民党総裁としての対応とはとても思えない。自分が派閥を離脱すれば済む、パーティーも自粛すれば済む、ということではない。『桜を見る会』と同じで、会をやめたのでもう説明しなくていい、という姿勢だ。この程度のことを解明できないという私たちの国の政治の深刻な体たらくを変えるしかない。裏金作りにこれだけ精を出している人たちが国民の暮らしを一人一人に寄り添って考えるはずがない。自公政権という重しを取り外せば、もっと希望の持てる政策は可能だと思う。それをこれを機に伝えたい」

  ◇     ◇     ◇

 国会には国政調査権、という強力な武器がある。「両議院は……証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」(憲法62条)のだ。野党並びに与党見識派に言いたい。せめてこの権利を行使、特別委設置や証人喚問により国民に納得感を与える調査を行い、自浄能力があることを見せてほしい。


◇やまぞえ・たく

 1984年、京都府生まれ。参院議員、弁護士。憲法に立脚した平和と平等、国民生活支援などに注力。弁護士としては、原発事故被害賠償や過労死事件などの弁護団で活動

◇くらしげ・あつろう

 1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員

 12月19日発売の「サンデー毎日12月31-1月7日号」には、ほかにも「裏金問題『安倍派壊滅』で自民党は崩壊する」「米大統領選から阪神連覇まで…2024年大予想」「弘兼憲史も小島慶子も! 新しい夫婦の形『卒婚』」などの記事も掲載しています。

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