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2024年中学入試:首都圏の受験率は過去最高を更新も 人気継続で高まる安全志向 エキスパート座談会

 少子化が進む一方、中学受験率は右肩上がりだ。特に首都圏では都心部の受験生が増えており、2024年も厳しい入試が続きそうだ。その結果、志望校選びで安全志向が高まっているという。そこで▽安田教育研究所代表の安田理さん▽サピックス教育情報センター本部長の広野雅明さん▽市進学院学校情報室の野澤勝彦さん▽四谷大塚情報本部長の岩崎隆義さん▽日能研本部ディレクター・『進学レーダー』編集長の井上修さん――の5人の専門家に話を聞いた。

―24年中学入試はどのような状況になりそうですか。

岩崎 1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の23年の小6生数は22年より5373人減っていますが、中学入試の受験生数は前年並みになるとみています。22、23年は2年連続で中学受験率が過去最高になりましたが、24年はさらに更新しそうです。広野 サピックスも、中学受験生数は23年とほとんど変わらないとみていますが、地域によって増減が目立ちます。中でも文京区や千代田区、港区などの都心部の受験生が大きく増えています。小6生の約半数が中学受験をします。これらの地域の受験生が通いやすい学校は、志望者が増加傾向です。

井上 日能研の公開模試の受験者数も、前年と変わりません。24年も厳しい入試になるのは間違いなさそうです。

岩崎 コロナ下では、学校の魅力が伝わるように広報活動を見直した学校が多く、それが中学受験の裾野を広げて、私学の人気を高めるきっかけになりました。また、私学が今の時代に求められている教育に力を注いでいることも、中学受験ブームの根底にあります。今の子どもたちが社会で活躍する時代は、人生の設計図を転職や起業などで何度も書き換えていくことになるでしょう。そんな将来に備えて、一生の財産となる「学ぶ力」を身につけてほしいと考える保護者を中心に、私学の人気が高まっています。

―1月入試の動向は。

野澤 埼玉・千葉の1月入試は、東京や神奈川の受験生にとって前哨戦になります。1月入試を押さえとして受験する人が多く、確実に合格できる学校を慎重に選ぶ傾向が強まっています。栄東や大宮開成、市川、東邦大付東邦、昭和学院秀英などの上位校の志望者が減り、埼玉栄や昭和学院などの中堅校の志望者が増えています。

岩崎 志望順位が低い学校ほど、模試で合格の可能性が50%以下になったら志望をやめるなど、安全志向が強まっています。また、淑徳与野では新たに医進コースを新設し、11日に算数と理科で判定する午後入試を実施します。11日午後は上位の志望者が集中して厳しい入試になりそうです。志望順位が高ければ、既存の13日の入試も併願することをお勧めします。

野澤 24年4月に埼玉・所沢市に開智所沢中教が開校します。全ての入試が同法人の開智と同じ試験なので併願しやすく、過去問で対策が立てやすいため人気が上がっています。周りに私立校が少ないエリアに開校するので、その地域の中学受験層の掘り起こしにもなっています。埼玉にはスクールバスを利用する学校が多い中、駅から徒歩10分の立地も魅力です。

広野 寮がある地方の学校の首都圏入試では、早稲田佐賀や北嶺が24年も人気を集めそうです。志望者が増えている佐久長聖の東京入試の会場の一つが慶應義塾大三田キャンパスです。佐久長聖を目指す受験生はもちろん、慶應義塾中等部を受ける人にも本番の試験場を体験できる機会になります。

岩崎 海陽中教の特別給費生入試は毎年厳しい入試になりますが、通常の入試Ⅰ、Ⅱは特別給費生入試より合格しやすく、成績上位者は特待生に認定してもらえます。特別給費生でなくても東大に現役で合格できる学力を養える環境があります。片山学園や盛岡白百合学園などもそうですが、地方の学校は比較的入りやすく大学合格実績が良い学校が多いので人気が高まっていますね。

安田 共働きで忙しい保護者が増えているので、全寮制の学校に6年間預けることも、中学受験の選択肢の一つになってきました。地方の寮がある学校を選択する家庭は今後も増えそうです。

広野 寮では、自室でスマホの使用を認めていない学校が多く、スマホ漬けの生活を避けられますし、しっかり勉強させる体制があります。行事も多く、ほかでは得られない経験をして人間的にも大きく成長できます。地方なので地元の国公立大医学部の地域枠入試を受けられるのもいいですね。

井上 首都圏の私学は、生徒が自立して学べる環境づくりに力を注いでいる学校が多いのですが、地方でも寮の施設・設備を改築し、自習やグループワークがしやすいラーニングコモンズを設置するなど、生徒が過ごしやすい環境を整備する学校が増えています。北嶺もそうですし、愛光もデザイン性が高く、全面ラーニングコモンズの雰囲気がある円形の新校舎が完成しました。また、長崎日本大の中学生は、同じ建物にある高校デザイン美術科の生徒と交流でき、刺激を受けながら過ごせるのが魅力で、東京からの進学者もいます。

安田 学校教育の最大の課題が、生徒の主体性を養うことです。ラーニングコモンズで自律した学びを推進していくことは、時間をどのように使って学ぶべきかを、生徒自身に考えさせる良いきっかけになると思います。

 女子の理系進学比率が高い学校が人気に

―東京・神奈川の2月入試はいかがでしょうか。

広野 開成や麻布、武蔵などの最難関校は微減です。無理をせずに合格の可能性が高い志望校を選択する傾向が強まっています。一方、駒場東邦は志望者が増えています。校舎はあまり新しくはありませんが、九つある理科室には貴重な標本や化石なども多く、男子に魅力的な教育環境が人気を集めています。

井上 最近、食堂を改築しましたし、多くの3Dプリンターを設置するなど、校内のインフラは最新のものになっています。24年入試は大人気になりそうですね。野澤 早稲田も志望者が増えています。ただ、チャレンジ層が増えているようなので、実際の難度に大きな変化はないと思います。

広野 巣鴨や城北、世田谷学園、攻玉社、桐朋などの伝統男子校も志望者が増えています。これらの学校は、守るべき伝統を受け継ぎながら、若い先生を中心にICTを積極的に活用するなど、新旧のバランスがとれた教育に変わってきています。

岩崎 過ごしやすい環境がある芝や東京都市大付も志願者が増えそうです。

広野 逗子開成も海に近い絶好の環境があり、海洋教育などの特色ある教育を行っているため人気が上がっています。

安田 獨協医科大への推薦枠がある獨協や、大学合格実績が向上している桐蔭学園中教も人気がアップしています。

広野 女子は学習院女子や東洋英和女学院、普連土学園、頌栄女子学院、大妻、香蘭女学校などの人気が高まっています。また、横浜雙葉は24年入試から2回入試になります。新設の2日は多くの志願者を集めそうです。

安田 大学の学部の新設・再編が進み理工系や農学系の進路が広がる中、保護者の意識が理系にシフトしてきました。中学受験でも鷗友学園女子や富士見、田園調布学園、普連土学園、カリタス女子など理系進学者の比率が高い学校は人気が上がっています。

野澤 和洋国府台女子は、系列大学の学部構成から文系のイメージが強い学校ですが、実は中学3年間で理科の実験を100回行うなど理系にも力を入れています。サイエンスに興味がある小学生対象の実験講座「放課後サイエンスチーム」を実施するなど、早い時期から理系に目を向けた取り組みを行っています。

井上 ここ数年、女子校では理系進学率が上昇し続けていましたが、23年は初めて3割を超えました。数学ⅡBまで必修にするなど、理数教育に力を入れている学校が増えていることも一因です。大学入試でも東京工業大と東京理科大が総合型選抜で女子枠を新設するなど、女子の理系進学に追い風になっています。一方、高大連携に積極的な私立校が増えていますが、その取り組みが中学入試の志望動向にも影響するようになってきています。

安田 23年は法政大と連携している三輪田学園が人気でした。国際基督教大と連携した佼成学園も人気が上がっています。大学側も高大連携の提携校を広げる動きが活発化しており、上智大が今秋、提携校を大きく増やしました。不二聖心女子学院や聖ヨゼフ学園、東星学園などから既に学校推薦型選抜の合格者が出ています。広野 立教大は付属校の推薦枠を増やす動きがあります。立教女学院は24年の高3生から推薦枠が151人から201人になります。

野澤 同じく香蘭女学校も立教大の推薦枠が97人から160人になり、ほぼ全入になります。これにより、中学入試の人気がさらに高まっていく可能性があります。

―大学付属校の人気が落ち着いてきました。

井上 以前は併設大への内部進学率が高い大学付属校は高人気でしたが、最近は早稲田のように他大学にも門戸を開いている付属校の人気が高まっています。中央大付横浜をはじめ、内部進学率が下がり他大学の合格実績が上がる傾向の付属校が目立ちます。

広野 学習院女子も、他大学進学者が増えています。一方、法政大は8割以上が併設大に進学していますが、内部進学の権利を保持しながら他大学を受験できます。このような制度があるのは、大学付属校のメリットです。

安田 大学付属校は施設・設備が充実していることが魅力です。また、日本女子大付や立教女学院、学習院女子のように、学際的な素養を身につけられる独自の教育をしている学校も多い。そういった教育内容にも注目してください。

野澤 学習指導要領で重視されている探究学習は、大学付属校の特色の一つです。和洋国府台女子の和洋コースは、高大連携で探究型の教育を実践しています。併設大進学を目指すコースですが、学校推薦型選抜で筑波大に進学した生徒もおり、他大学の合格実績も出ています。

井上 東京農業大第一は25年から高校募集をやめ、完全中高一貫校になります。現在は付属校というより他大学を目指す進学校ですが、今後は東京農業大の充実した施設・設備を積極的に活用しながら探究学習などに力を注いでいく体制が強まりそうです。

安田 大学付属校に限らず、生徒が主体的に学ぶ姿勢を養う教育を取り入れる進学校も多く、城北の「0時限」や、かえつ有明の「サイエンス」の授業では、生徒が自由に学んだり、学び方を学べる取り組みがあります。

 試験でも伸びる学力 諦めず第1志望校を

―注目校や狙い目校は。

広野 日本工業大駒場の人気が高まっています。進学校ですが、併設大の充実した施設も利用できますし、工業高時代から受け継ぐ伝統的な理系教育に定評があります。また、23年に目黒星美学園から共学化・校名変更したサレジアン国際学園世田谷も人気があり、志願者が増えそうです。

岩崎 関東学院は、神奈川のトップ県立高の横浜翠嵐で数学を教えていた先生が中心になり、数学の教育プログラムを改革しています。今後、大学合格実績が伸びる可能性があり、注目しています。

安田 実践女子学園はIT企業が多い渋谷の立地を活(い)かしたプログラミング授業を取り入れるなど、時代に合わせて柔軟に対応している学校です。ここ数年人気が上昇しており、24年も多くの志願者を集めそうです。

野澤 淑徳SCが校名変更し、24年4月から小石川淑徳学園になります。募集人員を増やして入試科目も変更します。若い先生が増えて勢いがありますし、中央大理工学部と連携した理科教育にも力を注いでいます。また、24年から蒲田女子高が共学化し、羽田国際に校名変更します。25年には中学も開校します。

井上 鎌倉女子大が26年から共学化、東京女子学院は高校が25年から、中学は26年から共学になります。改革によりどう変わっていくのか、注目しています。

岩崎 東京都市大等々力は、校舎の隣にあった併設大の等々力キャンパスが移転し、その土地を活用できるようになります。施設・設備がさらに充実していくので、ますます人気が上がりそうです。

安田 京華と京華女子、京華商業高が24年から合同キャンパスになります。一人ひとりを手厚く指導する体制があり、男女とも大幅に志望者が増加。受験人口増の文京区にあることも一因で、近隣の郁文館、駒込も増えています。

井上 京華の人気は駒込が難化した影響もありそうです。同じ沿線の文京学院大女子も人気が上がっています。また、中村は清澄庭園が隣接するなど、過ごしやすい環境が魅力です。

―メッセージやアドバイスをお願いします。

井上 中学受験で何より大切なのが、保護者と受験生がともにポジティブでいることです。今日学んだことが明日につながると信じて、前向きな気持ちで入試本番を迎えてください。

安田 受験生活では子どもの意見に耳を傾け、意思を確認しながら過ごしてください。自主性を尊重することで、自分の意見が言える大人に成長していくと思います。

岩崎 2月入試は実受験率や歩留まり率がアップしています。24年も厳しい入試になりそうなので、1月入試で合格の可能性が高く、通学してもよい学校を併願し、そこで合格してから2月入試を迎えてください。

広野 「WEB出願で入力したデータが時間制限オーバーで無効になる」「受験料の支払いを忘れる」「合格発表の期限が過ぎて結果が見られない」「入学手続き締め切り日を過ぎて入学の権利を失う」など、毎年さまざまなトラブルが起こっています。事務手続きに漏れがないように、注意してください。

野澤 第1志望校が複数回試験を実施しているのであれば、入試を2~3回受けることをお勧めします。中には、2回目の入試の合格者の半数が、1回目の不合格者だったという学校もあるからです。また、本番の試験が始まっても学力は伸び続けますから、最後まで諦めず、第1志望校を目指して頑張ってください。

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