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2024年大学入試:「難関大」学科別最終難易度 「新課程」控え際立つ国公立志望者の「強気」と「安全志向」

サンデー毎日0114-21合併号表紙
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 大学入学共通テストが目の前に迫っているが、まだ志望校の変更は間に合う。そこで、最終的な出願大学選びに役立つ、2024年度入試(24年4月入学)の最新トピックスと学科別の難易度を併せてお届けしよう。

 学習指導要領が切り替わる前年の入試は、受験生が守りに入りがちだ。失敗すると、翌年は新課程での入試になる。新課程になる前に進学先を決めようと安全志向が強まるためだ。24年度入試はまさに新課程前夜だが、「例年とは異なる志望傾向が見られる」と話すのは、河合塾教育研究開発本部の主席研究員、近藤治氏だ。

「これまでの新課程前年の受験生は、国公立大から早めに離れ、私立大の出願数を増やしたものでした。しかし、24年度入試は国公立大志望者が踏ん張って志望者は増加傾向。私立大は年内入試増加の影響もあると思いますが、一般選抜の志望者が減少しています」

 模試を受けている国公立大志望者は前年より少ない。しかし、ベースとなる18歳人口の減少分ほどは減っていない。国公立大人気を再認識させられる志望状況だが、難易度帯別の志望状況を見ると、旧帝大に東京工業大、一橋大、神戸大を加えた難関国立10大学は減少傾向だ。駿台予備学校入試情報室部長の石原賢一氏は言う。

「東大の志望者減に象徴されるように、難関大は全体的に減少傾向です。特に後期の減少幅が大きくなっています。前期は難関大にチャレンジするが、後期は手堅く準難関大で押さえようという受験生心理の表れでしょう。そうした動きの中で特徴的なのは、東大や京大もかなわなかった国際卓越研究大学に選ばれた東北大の志望者が大きく増えていることです」

 国際卓越研究大学制度とは、10兆円規模の大学ファンドで研究力向上を支援するものであり、研究力を重視する受験生トップ層の支持を集めているようだ。模試全体の国公立大の志望者指数(前年を100とした時の数値、以下同じ)98を上回っている大学は増加といえる中、東北大は名古屋大とともに100を超えている。

 前出の2大学とともに志望者が減っていないのは、指数98の東京工業大と神戸大。東進ハイスクール広報部長の市村秀二氏は、東京工業大に注目して、こう話す。

「東進の模試では、東京工業大と東京医科歯科大の志望者が増加傾向。難関大へのチャレンジ志向とともに、両大学の統合によって24年10月に誕生する東京科学大による医工連携への期待感があるのでしょう。技術立国日本の最高峰を目指すという両大学にふさわしい出願状況になりそうで、難易度が上がる可能性もあります」

 東京工業大は24年度の総合型と学校推薦型選抜で女子枠を導入したことから女子の注目度が上がり、一般選抜志望の女子も増えているという。

 石原氏の指摘の通り、難関国立10大学に続く準難関大の志願者は増加傾向で、千葉大や横浜国立大、熊本大、東京都立大など7大学が国公立大全体の指数98以上で、受験生の安全志向が垣間見える。

 国公立大とは対照的に私立大志望者は減少しており、模試全体の指数は95。国公立大と同様に最難関が減少し、早慶の志望者指数は92。早慶に次ぐGMARCH(学習院大、明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)と関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)は増加傾向だ。

志望状況は前年並みも定員増える情報系

 ただ、GMARCHと関関同立ともに、入試種別の志望状況は異なる。大学個別の問題で選抜する一般方式の志望者が減少する一方、共通テスト利用方式が増加している。河合塾の近藤氏は言う。

「難関私立大の一般方式の志望者が減少傾向なのは、年々倍率が低下していることから、併願校数を減らしているからでしょう。一方、難関国立大志望者が併願する影響で、共通テスト利用方式は増加傾向。まだ志望校の出願が間に合うなら、私立大専願者は一般方式を厚めに出願した方が合格に近づくと思います」

 志望者の減少が見込まれる難関私立大の一般方式の動向について、東進の市村氏は、上智大の入試日程の変更に注目する。

「全学統一日程入試が2月3日から2月6日になるなど、上智大の試験日は3〜4日後ろ倒しになります。これにより、立教大や青山学院大、明治大などと試験日がバッティングします。上智大の入試日程の変更により、他大学の志望状況にどのような影響があるのか注目しています」

 上智大と試験日が同じ日になることにより、難易度面で競合する大学の一般方式の倍率が下がる可能性があるということだ。

 大学入試の募集定員が、一般選抜から総合型選抜や学校推薦型選抜といった年内入試に移る傾向が強まっている。難関私立大でも一般選抜の定員が減る大学があり、入試に与える影響は大きい。ベネッセコーポレーション学校カンパニー教育情報センター長の谷本祐一郎氏は言う。

「例えば中央大・経済の共通テスト利用入試3教科型は定員が40人から20人に減っても、志望者指数は101と受験人口が減少する中でも志望者を集めており、厳しい入試になりそうです。一方、明治大・法の学部別入試も375人から315人に減りますが、志望者指数92と大きく減っています。このままの出願となれば大幅な難易変動は起きないかもしれません」

 定員が増える大学もあり、立教大・異文化コミュニケーションの一般選抜が83人から108人、スポーツウエルネスは90人から108人になるが、志望者は定員の増加率ほど増えていない。狙い目になる可能性が高いという。

 学部系統別の志望状況も押さえておこう。近年人材養成が急務となり、人気が上がっている情報系学部の志望者は増えていないが、人気は高止まりといえる。そうした中、「大学・高専機能強化支援事業」により情報系の定員が増える大学がある。この影響についてベネッセの谷本氏に聞いてみた。

「東北大・工は機械知能・航空工、電気情報物理工、建築・社会環境工といった学科で一般選抜の定員が増えますが、志望者は前年並みから減少傾向。東京工業大の情報工学院も、定員増に志望者の増加が追い付いていません。定員増の発表が遅かったこともあり、情報が行き届いていないのかもしれません。このままの志望状況が続くなら、定員を増やした多くの大学で入試が緩和されそうです」

 大学・高専の機能強化支援事業は、グリーンやデジタルなどの成長分野を牽引(けんいん)する大学を支援するものであり、理系学部・学科の新設や既存学部・学科の定員増などが盛り込まれている。前出の大学以外に定員が増える大学には、北海道大や電気通信大、金沢大、岡山大、愛媛大、大分大などがある。新設と定員増で間口が広がるのは、情報系学部志望者にとって追い風といえよう。

 他の系統で志望者が増加傾向なのは、文系では経済・経営・商学系。人気が回復しない人文系や外国語・国際系からの志望者が流入している影響が大きい。理系では理学や農学系の志望者が増加傾向。

 医療系は志望者が増える系統と減る系統が混在している。志望者が減っているのは薬学や看護などの保健衛生系で、医学部(医学科)は国公立大、私立大ともに増加傾向。駿台の石原氏は言う。

「医学部人気は堅調で、全体として志望者が減っている東大も理Ⅲは大幅に増えています。ただ、国公立大医学部は、共通テスト次第で志望状況が大きく変わるので注意が必要です。私立大もコロナで減っていた併願が戻る影響もあり、志望者が減っている大学は少数です」

 ここまで見てきたのは、24年度の一般選抜に影響を与えそうな入試トピックス。最終的な出願校選びの参考にしてほしい。

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