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週刊誌初!野党3党が新春に咆哮! 不正糾弾に連携 野党が自公政権を解体する 泉氏×馬場氏×玉木氏
議員本人を処罰する法改正せよ
裏金事件と数々の不祥事、国民の離反により、自民党が激しく揺れている。だが、政権交代への展望が見えてこない。状況に業を煮やした田原総一朗が野党3党首に呼びかけて激論の場が実現、政治危機克服のための連携の可能性を聞き出した――。
(倉重篤郎)
それはジャーナリスト・田原総一朗氏の一言で始まった。「今のこの裏金疑惑、自民党には自浄能力がない。野党が連携し、政権交代を窺(うかが)うチャンスだ」
その田原氏の呼びかけに応じ、師走の慌ただしい時間帯、国会近くの一室に、泉健太・立憲民主党代表、馬場伸幸・日本維新の会代表、玉木雄一郎・国民民主党代表が顔を揃(そろ)えた。
3党首ともに認識が一致したのは、今回の裏金疑惑の根っこの深さである。1月召集の通常国会で、3党主導で議員厳罰化を含めた政治資金規正法など政治改革関連法案を成立させることは決めた。ただし、どうやって政権交代まで持ち込むかについては、まだ隔たりがあることも判明、今後の野党連携を考える上で貴重な討論の場となった。
以下はそのやりとりだ。
田原 パー券裏金事件。なぜ政治資金収支報告書に記載しなかったのだろう。
泉 あくまで推測だが、遊興費、政治活動費、陣中見舞いとか仲間たちとの会合費に使ったのでは。ちらりと出たのは、ポスターを張った個人宅に管理費と称して数千円渡していたとかね。場合によっては蓄財もあるかもしれない。報告書に書けば国民の監視に耐えられない、そう判断して不記載にしてきたんでしょうね。
田原 派閥の幹部が書かなくていいと指導したと?
馬場 赤信号、皆で渡れば怖くないという意識だ。でも皆さん一国一城の主(あるじ)ですよ。学校ではないんでね。例え相手が事務総長でもきちんと言うべきですよね。
泉 順法意識の低さだ。罪の意識がなかった。スポーツ選手の言うところのドーピングのようなもので、本来なら競技界から追放だ。
玉木 うちの党でパーティーをやった。幹部には多めのノルマを課し、超過部分の半額は戻すというインセンティブ付きでやったが、入りも出も全部記載している。私は超過分は放棄、新人議員に割り振ってくれと言っている。今回驚いたのは、安倍派幹部の巨額キックバックだ。ノルマをこなせない若手に回すのが自民党の伝統と思っていた。
なぜか岸田やめろの声が出ない(田原)
田原 なぜ安倍派に不正が多かったのか。
玉木 2022年11月に『赤旗』が書いた時点で麻生、岸田派はヤバいとチェックかけた。安倍派はある種驕(おご)りがあった。検察に強いとの慢心があったのではないか。
泉 ロッキード事件など過去の疑獄と違う点は、具体的に業界や業者側が出てきていないところだ。まだ、不記載、使途不明金の状態で、そこにたどり着いていない。もしかしたら行政や政策の優先順位が歪(ゆが)められ、国民生活が後回しになっているかもしれない。
玉木 この裏金疑惑、岸田総理は当初傍観していた節がある。最大派閥の安倍派、非主流の二階派が弱体化するのではないか、自分たちは大丈夫という淡い期待感だ。船に喩(たと)えれば事故で浸水し、ブリッジの1等船室には水は来ないと思っていたが、3等船室の穴が開きすぎて船自体が傾き始め、慌てて党としての対応をせざるを得なくなった。
田原 この際派閥は解消?
泉 すべきですね。裏金の温床になったのはやはり問題だ。派閥からそういう機能を奪わねばならない。
馬場 35年前に自民党が自ら作った政治改革大綱というものがあるが、パーティー自粛や派閥解消をうたっている。ここに書いたことをやったらいいんですよ。
玉木 1989年5月23日。リクルート事件の後でした。この2カ月後の参院選で自民党はぼろ負けして与野党が逆転、ねじれが始まったんです。
泉 まさに喉元過ぎれば熱さを忘れる。
玉木 この大綱には、総裁だけでなく副総裁、幹事長、政調会長、参院会長、閣僚、最高顧問も全員派閥から抜けろと書いてある。しかし、2年後の91年には最高顧問の中曽根康弘、竹下登両元首相がもう破っている。
田原 不思議なのは今回自民党内で岸田やめろの声が出ないことだ。小選挙区制の公認権を恐れ、皆イエスマンになってしまった。
泉 小泉純一郎政権の郵政解散での刺客体験が一つ。もう一つは政権交代への恐怖感、忌避感だ。政権からの転落は絶対避けたい、そのためなら言うべきことも言わない。2009年の体験から来たものだ。繰り返し岸田さんが「一致結束」を訴えているのは、そういう党内世論向けだ。
玉木 政権交代が起きる時は全部自民党が割れている。それが今回起きない。
泉 自民党を変えなければ、という意識の人が自民党からも出てきてほしい。
玉木 石破茂さんもこのままいても自民党内で20人集まらない。出てくれば、とけしかけたらどうですか。
田原 石破さんと前原誠司さんで一緒になって党を作れ、と言っている。
泉 もう(小泉)進次郎も出てこい、河野(太郎)も出てこい、ですよ。国民人気はあるが、党内票を獲得できないわけだから。
田原 担いでやるよと?
泉 それはありえますよ。
問題は政権交代して何をやるか(馬場)
田原 岸田政権の支持率は20%切っているのに野党の支持率が上がらない。国民は野党には政権奪取する意欲がないのではないかと疑いを持っている。
馬場 各党いろいろ思惑があって違うと思う。
田原 3人がこうやろうと言ったらできるよ。
馬場 野球でいえばレギュラーシーズンが終わり、いざクライマックスシリーズという時だ。相手は自民党だ。立憲と国民民主とうちの3者で戦い、勝ち抜いたものが自民党と日本シリーズを戦う。そういう状況だ。
田原 そんなこと言っていたら政権奪取はない。
馬場 政権を倒すだけでいいならいくらでもできる。ただ、その後にどう新しい日本をつくるかが肝心だ。
泉 新しい政権がすべて自民党と真っ向から違う政策を打ち出さねばならないということではない。経済も金融も安保も現実的な路線を構えたうえで、政治資金規正法改正や文書通信費改革など政治とカネの規制、あるいは、教育の無償化か。こういったいくつかの主要政策でまとまることは僕はできると思う。
田原 安全保障も日米地位協定改定などは合意できるのではないか。
泉 立憲も日米地位協定については改定すべきだとずっと言ってきている。米国との同盟関係は大事でも、言うべきは言う。
玉木 いいと思いますよ。ただ、政権を担うというのは重いこと。教育の無償化は野党の一致点だからそれで今の政権に向き合っていくのも一つでしょうが、国家の基本政策である安全保障、エネルギー、憲法は大きな方向で合致させる必要がある。地位協定改定も実は安保法制成立の時がチャンスだったが、それをしなかった。今回も防衛費増でバーターの機会は生まれている。独立国に治外法権的な状況が続いているのはおかしい。ドイツもイタリアも変えており、日本もそろそろ変えるべきだ。
田原 外務省、防衛省に何で日本はできないんだと言ったら、ドイツにはNATOがあり、事情が別だと。
泉 それはためにする議論のような気がします。そんな論理にはまる必要はなくて、国民にどう納得してもらうかを考え、堂々と地位協定の改定を言うべきだ。
馬場 大前提として自己防衛能力を高めるべきだ。憲法9条の改正と自衛隊の強化で、自分の国は自分で守ることを第一歩にするべき。そのうえで地位協定を改定し、クアッド(日米豪印4カ国で安全保障や経済を協議する枠組み)など、広域的な安全保障機構を作っていく。段階的にやらないと。いきなりはできない。
田原 その点立憲はどう?
泉 国民の期待はそれよりも速いスピードで来ていると思う。
憲法と安保で野党が割れる(玉木)
玉木 現実的な話をすると、本当に自公政権から交代するということであれば、今の小選挙区制の下では野党第1党(立憲)と第2党(維新)の選挙区調整ができるかどうかです。
田原 立憲と維新が喧嘩(けんか)していると自民は安泰だ。
泉 維新さんの段階的アプローチも一つの戦略ではあるが、国民からすれば「10年後に政権交代」では遅いし、自民党政権にこれだけノーと言う世論がある今が大事だ。先述したようにすべての政策で一致するということはできないまでも、自民党の今の政権では絶対にできない、二つ、三つ、四つの政策を必ず成し遂げるために時限的でも政権を担う、そういう考え方はあるべきだと思う。
玉木 憲法の話で一つ言いたい。なぜ、野党が一本化できないか。それは憲法と安保があるからだ。野党がまとまりそうになった時に、与党は憲法と安保の話を出せば、必ず野党が勝手に割れ、自公は安定的に政権維持できる。東大の境家(さかいや)史郎教授はこれを「ネオ55年体制」と言っている。私も馬場さんと共に憲法審査会のメンバーだが、それを実感する。だから、私は憲法改正するかしないかという争点は野党の中で消すべきだと思う。立憲もいろいろ意見があり、党としてまとまりにくいのはわかるが、一字一句変えませんとやれば共産党は喜ぶが、政権を担う主導的な役割をかえって果たせなくなる。
泉 護憲か改憲かで争うのはこれまた不毛だ。国民生活に資する、あるいは、国の長期的視野に立って必ず必要で、そのためには、政治的体力を費消してでも優先すべき、ということがあって初めて憲法改正の話が出てくるが、現時点ではそうではない。
玉木 政治不信が高まっているし、自民党は自浄作用を発揮できないということであれば、政治改革、政治資金規正法改正とか、国民の求めているワンイシューで一致するのはありうると思うが、立憲と維新が80以上の選挙区で競合している結果、自民党を利することになっている。今のまま選挙しても政権交代できない。
田原 馬場さんはどう?
馬場 それは国会内で協調すればできる話だ。教育無償化は、ただの行政サービスだ。やるかやらないかという判断だけで、あまり難しいことではない。国民から見て、なるほど野党が大同団結したのはこういうことなんだなという、もっと大きな錦の御旗(みはた)がないと。憲法改正、安保、エネルギーという国の根幹、国民生活の根幹に関わることで一致しているかどうか。国民も今や情報をたくさん仕入れていて、きちんと正しい目でみている。その部分がバラバラなのにいい政治ができるはずがない、というのが今の国民の感覚だ。
泉 そんなことだと、国民生活を日々向上させることから遠くなってしまう。もちろん、国家を今からつくる、ということであるなら、土台である憲法から合意を得るということになるが。
馬場 立憲との間では、昨年の通常国会でいろんなことで協調しようと三つの部会を作った。憲法、エネルギー、安保。結論を出すのではなくて議論しましょう、という提案を断ったのは立憲だ。疑似政権を想定し疑似的な政策の擦り合わせをやろうと投げ掛けたのはうちで、断ったのは立憲で……。
泉 それは違っててね。
馬場 そうなんです。泉さんにどういう話が上がっているのか知りませんが。
泉 合うもので一致してやろうとするのか、違うところで違いを強調するのか。それでやれるかやれないか違っていて当たり前だ。
馬場 基幹的部門で議論できないのに、できるはずないでしょと。
泉 やれることは一つもないのか、という話ですよ。
馬場 でも教育無償化という行政サービスは予算つければすぐできますよ。
泉 でもそれすら今の政権は全くやっていない。
馬場 国家の運営とは関係ないですよ。
ミッション型内閣がいま必要だ(泉)
玉木 泉さんね、ここは一回三つの分野で維新さんと意見を擦り合わせ、何らかの合意を得るべきでは。
泉 何らかのね。
玉木 泉さん、具体的に言うと、原発はもう少し現実的に、ゼロというのではなくてね。
泉 僕ら即ゼロを言っていない。将来的にはゼロだが。逆に言えば、国民民主党も「次世代型原発」とか「新増設」は非現実的だ。昔の民主党も言っていなかった。そこはお互いに譲り合えるのではないかと。
玉木 ウクライナ戦争あり、エネルギー問題への国民の関心は急速に高まった、ドイツでさえ原発ゼロを少し延ばした。そこに柔軟に対応するエネルギー政策が必要だ。自給率は12・1%しかない。
泉 立憲に古いイメージを持っているのだろうが今は現実的なエネルギー政策だ。
玉木 そこをちゃんと擦り合わせて、本当に野党で政権を奪取するということであれば、憲法、エネルギー、安全保障政策で……。
泉 政党同士の合流ではないんですからね。
田原 原発や安保で結論出す必要はない。
泉 ない。
馬場 そこで折り合えなければ一緒にできませんと言うのは当たり前だと思う。
泉 党を合流させるわけでもないし、長期政権を担う話をしているわけでもない。
馬場 国民に対し失礼な話だ。自民党を倒すためだけに野合すると。そういうのは受け入れられない。
泉 違う、違う。倒すためではない。3年4年でちゃんと政権握ってやるべきことをやるためにだ。単に政権を取りたいからではない。政治改革をやって教育の無償化をやる。維新は簡単にできるというが、今の自民党はまだやってないでしょう。それはやるべきだ。
馬場 それはできますよ。
泉 できるでしょう。
馬場 でも国家の根幹に関わることでは合わない。野合が駄目だというのはこれまでの歴史が証明している。
泉 ミッション型内閣ですよ。それも大事な局面だ。
田原 選挙なんだよね、両者がぶつかるのは。票を奪い合わなければいけないから揉(も)めているんだよね。
馬場 一言でいえば、基本的な政治理念が違う。
泉 でもね、欧州の連立政権なんかはそういうことも含めて政策実現志向で、大胆な連立が右も左もあった。そういうことが今の日本に必要かもしれない。
馬場 それを作るでしょう、政治資金規正法とか改正するでしょう、その先に何をするんですか。
田原 馬場さんは自民党政権でいいと思ってるんだ。
馬場 いやあ駄目ですよ。
田原 僕は絶対政権奪取すべきだと言っているが、興味ないんだね。
馬場 いやいや、うちは単独で政権を取ることを目標にしてますから。今の日本は基礎からガタガタになっている。ちょっと雨漏りを直したりする状態ではない。基礎からやり変えねばあかんのです。そのためには基本的な理念が共通してなければ共同作業できない。
田原 基本的理念とは?
馬場 だから憲法とか安保とかエネルギーとか。
田原 立憲とどこが違う?
馬場 立憲さんバラバラなんですよ、中が。憲法調査会に出ていたらわかります。
泉 日本国民だってバラバラで。
田原 基本的に立憲と維新はどこが違う?
馬場 立憲さんの憲法に対する考え方がわからない。
田原 話し合えばいい。
泉 本当に国民が他の政策以上に改憲を求めてる?
馬場 国民が求めてなくてもやらなくてはいけない時があります、政治には。
泉 そこは考えが違うな。
田原 はっきり言うと、立憲と組むくらいなら自民党政権がいいと思っているわけね、あなたは。
馬場 いや、考え方がバラバラの政党とそんなことやっても時間の無駄ですよ。
田原 そう思っているから自民党政権が続くんだ。
馬場 過去の歴史が証明している。何回となく連立政権作って、それがどういうことになったのかをね。
泉 でもそれで自民党の政治も変え、政権交代が成果を出してきたこともある。
馬場 変わってませんよ。
泉 政権交代が無駄とは思わない。短くはあっても。
馬場 僕らは、だから大阪で疑似政権打倒やったんです。大阪の中の政権は壊し、新しい政権を作った。だからできるんです。やるかやらんかなんです。
立憲と維新を国民がまとめよ(田原)
田原 さて、最後にお三方から今年の抱負を。
泉 他党と政策での一致点は最大限実現、与党と対峙(たいじ)していく。野党議席の最大化に向かって、粘り強く話をしながら一緒にやれる政策を増やしていきたい。
馬場 明治維新で生まれ変わった日本が77年たって大東亜戦争で潰れ、もう一度復興させようと頑張ってきて78年。いよいよまた日本大改革の時が来ている。新しい国の形を作る。そこに挑戦してほしい、裏金なんて論外だ、きちんとやれよ、が国民の考えだ。それに応える政治をやっていく。
玉木 裏金問題では野党が力を合わせて議員本人が規制や処罰の対象になるような法改正を実現、違反した政党には政党助成金を出さないか減額する。今年は、台湾総統選、ロシア、米国大統領選があり、国際情勢が動く可能性がある。9月に岸田氏が代わるかどうかもあるが、野党が担うのであれば、安保、エネルギー、憲法を無視できない。野党第1党にはぜひ大きなビジョンを示してもらいたい。
馬場 こういう機会を持っていただいたので、政治資金規正法問題は3党で協力し合いながら法改正を求めていく、具体的なことを突きつけていく、本来自民党が自浄能力でやらなければいけないことを我々3党が相談して通常国会でやりましょう。それは決めましょう。
玉木 やりましょう。
泉 やりましょう。
田原 野党第1党が長男、第2党が次男なら玉木さんが3男でしょう。頑張って長男、次男を誘導してよ。
馬場 3男ではなく災難?(笑い)
田原 災難を乗り越えていかないと。
玉木 第1党、第2党がある程度方向性が一致しないと自公政権を崩せないです。
田原 頑張ってください。
◇ ◇
お互い言いたいことは吐き出したのではないか。後は、妥協という政治の技術をどこまで駆使できるか。今年最も注目したい点だ。
いずみ・けんた
1974年、北海道生まれ。立憲民主党代表。民進党組織委員長、希望の党国対委員長、国民民主党国対委員長、同政調会長、立憲民主党政調会長などを歴任。中道リベラルの政策提案型野党を目指す
ばば・のぶゆき
1965年、大阪府生まれ。日本維新の会代表。料理店のコックを経て、自民党の衆院議員・中山太郎の秘書に。堺市議、(旧)維新国対委員長、同幹事長、同共同代表などを歴任する
たまき・ゆういちろう
1969年、香川県生まれ。国民民主党代表。政治改革と政策論争を主張。大蔵・財務官僚を経て衆院議員。民進党幹事長代理、希望の党共同代表などを歴任
たはら・そういちろう
1934年、滋賀県生まれ。ジャーナリスト。タブーに踏み込む数々の取材を敢行し、テレビジャーナリズムの新たな領域を切り開いてきた。著書に『創価学会』ほか