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週刊エコノミスト Online サンデー毎日

2024寺島実郎の渾身提言 65歳以上の社会参画がニッポンをこう変える

日本が株価を中心に生きる時代は終わった
日本が株価を中心に生きる時代は終わった

倉重篤郎のニュース最前線

高齢者よ、今こそ「革命」に起て!

 岸田政権の惨状に自民党政治の澱(おり)が噴出し、日本経済は埋没して存在感を失った。全体知の巨人・寺島実郎氏は、2024年、日本の再興は、高齢者が新たに社会参画する「革命」の成就いかんによると言う。本誌でしか読めない、独自で深甚な新春提言!

「物量経済」から「文化・思想・哲学」の時代へ/自民党の裏金事件はアベノミクスにすがった「財界」の問題

 2024年はどんな年になるのか。的確な予測で定評のある英ロンドン『エコノミスト』誌の新年展望には二つのキーワードが並んだ。

 一つは「Vote‐a‐rama」(米上院でのひたすら投票ばかり続けるセッションのこと)。確かに世界的に選挙だらけの年である。台湾総統選(1月13日)に始まり、インドネシア大統領選(2月14日)、ロシア大統領選(3月17日)、韓国の総選挙(4月10日)、インドの総選挙(4、5月)、メキシコ大統領選(6月2日)、米大統領選(11月5日)と続き、世界人口80億人のうち70カ国で42億人が投票に参加する。民主主義の実力が試される選挙イヤーになろう。

 もう一つは、「Multipolar disorder」(複合的な無秩序)だ。かつての米ソ冷戦や米一極支配の時代と違って、極構造が分散し、それぞれが独自の立場からの主張を展開することから、国際関係を律する力学はさらに複雑になる、との認識がある。全員参加型世界秩序の到来ともいえる。昨年のキーワード「All eyes on Ukraine」(世界の目はウクライナに釘(くぎ)付け)からすると、パレスチナでの戦争が加わり、世界情勢はますます不透明化するとの見立てだろう。

 では、日本はどうなるのか。「選挙」で言えば、パーティー券裏金事件の直撃を受けた岸田文雄政権は容易に衆院解散を打てないだろうが、9月の自民党総裁選はどうなるのか。「極なき秩序」でいえば、最大派閥の安倍派が事件への強制捜査で壊滅的打撃を受けていく中、永田町の力学がどう変わり、再編されていくのか。何よりも裏金事件の本質をどう捉えるべきか。全体知の巨人、寺島実郎氏(日本総合研究所会長、多摩大学長)に巨視的視点から時代を読み解いてもらった。

統一教会問題と裏金に見る自民党腐蝕

「安倍晋三元首相の暗殺から1年半が経過、戦後日本の政治の本質が何だったのかが今、炙(あぶ)り出されている。日本人はそこから目をそらすべきではない」

「その一つ目は、旧統一教会問題だ。この問題の本質は、愛国を軸とする日本の保守政治の中枢と反日を教義とする宗教団体が、冷戦時代を背景に『反共』という一点で共鳴し、かつ癒着していたこと、そして、宗教団体側が、日本人の朝鮮半島支配に対する贖罪(しょくざい)感を利用、日本人から膨大な献金を上納させ、その活動に保守勢力が支援を受けていたことにある」

「要は、反共を隠れ蓑(みの)、反日を梃(てこ)にした前代未聞の日本人に対する財産毀損(きそん)事件だったのに、それを保守勢力がなぜ許し、かつ選挙などで利用してきたのか。そもそも両者の癒着の発端とされてきた岸信介元首相と文鮮明(ムン・ソンミョン)教団創立者との間で何が行われてきたのか。日本人としてきちんと省察しファクトを残すべきなのに、あれから1年以上たっても事の本質を明らかにしていないし、国民に説明されてもいない。それ自体を否定するわけではないが、いつの間にか宗教2世問題や団体の解散命令という次元の話になってしまった」

 そこに裏金疑惑だ。

「これもまた政治資金規正法や政党助成金の問題とされているが、本質は別にある。政治と経済との関係を露骨に炙り出している。安倍派でキックバックされた裏金は5年間で5億円というが、なぜそれだけのカネが集まったのか、という構図について、真剣に解析する必要がある」

「つまり、安倍1強といわれた政治は何だったのかだ。安倍派のパーティーの模様が繰り返し放映され、乾杯音頭のシーンで、経済界のリーダーが演壇に担ぎ出され座を盛り上げていた。アベノミクスという政策が誰に恩恵を与えてきたのかを見事に炙り出している」

 経済人が軽くなった。

「1994年という年が大事だ。政治改革4法の成立で、選挙制度が変わり、政党助成制度もできた。あの年、日本のGDPが世界シェア18%と右肩上がりのピークに達し、日本経済は、新自由主義を支柱とする民営化路線と、戦後の工業生産力モデルをシンクロさせ、戦後日本の主役たる経済人がまだ光を放っていた。70年万博を支えた松下幸之助は去っていたが、80年代のフロントラインにいた土光敏夫は健在で、経済人に重みがあった。土光臨調が中曽根康弘政権に行財政改革をさせたように、改革の背景に経済界の存在感とプレッシャーがあった」

「ところが、昨年我々が目撃したのは、土光さんが残した東芝が、ついに上場廃止になったことだ。物言う株主という人たちの圧力によってほとんど生体解剖という憂き目にあった。それに加えて日本株式会社の時価総額がどうなったか。世界の企業の時価総額トップ100位以内は日本ではトヨタだけに。アップル1社で350兆円と言っているのに日本製鉄、日立でさえ10兆円に満たない。その意味することは、市場が企業価値を評価する時代に上場会社は株価の時価総額を超えた活動、投資はできない、ということだ。日本経済の逼塞(ひっそく)、埋没状況を象徴している」

 そこに安倍1強によるアベノミクス(異次元金融緩和政策)が登場した。

「金融がジャブジャブになれば、円安になり株価が上がる。円安になると輸出産業はハードルが下がり、それだけで潤い、株価が上がれば経営者は株主からの批判が回避できる。そして、この議論は必ず財政出動も絡んでくる。いかに経済界がこの間、『国頼み』になってきているか。リスク・コストを避けて、膨大な助成金、補助金、給付金の類いで経済を回している」

「次世代半導体の国内製造を目指すTSMCやラピダスへの補助金は、一線を越えた、との印象だ。2023年度補正予算案には半導体だけでも約2兆円が計上され、EV(電気自動車)の蓄電池への支援も拡大。トヨタ、ホンダには、2社ともにあれだけ利益を出しているのに1000億円以上の補助金が出た」

「時の首相が賃上げにまで介入している。もし土光さんが生きていたら、『賃上げは我々が責任を持ってやることで、あなたに言われることではない』と間違いなく言ったと思う。それが経済人としての自覚であり誇りだった。それに比べ今の経済界の人たちは、政府の立て付けの中で自分たちはやっていくという易(やす)きに流れている。青天井で赤字国債でもいいから補助金、助成金を回せ、という自堕落な経済になってしまった」

高齢者を社会的に活かし切る社会へ

岸田文雄首相
岸田文雄首相

 パー券裏金は、ある意味、この自堕落経済界による、異次元金融緩和支援、財政面での親方日の丸支援に対する謝礼だった?

「そういう意味合いもあると思う。旧統一教会、裏金問題も戦後日本政治の澱みたいなものだ。それをよく見つめて、どう創造的な方向に戦後日本を変えていくべきか。ある意味瞬発力が求められている。日本人の持っている本当のポテンシャル(潜在能力)、英知が問われる年になる」

 その潜在能力とは何か?

「最近久野収や鶴見俊輔を読み直し、戦後民主主義の発展過程で、市民主義の成立というものの支え手として期待されていたのが都市郊外における新中間層といわれたサラリーマン層であったことを改めて痛感した。戦後の資本主義の発展で人口が首都圏などの大都市圏に集積、工業化が始まったことによって生まれた層だ。田舎の人間関係、村のしきたり、前近代的な封建的価値観からも解放されたはずの人たちだった」

「ただ、残念ながら都市新中間層は戦後民主主義の担い手になりえていない。なぜか。彼らが会社人間だったからだ。会社に帰属し、その人間関係の中だけで生きてきたので、80歳過ぎても自分は昔、大商社にいたとか大新聞社にいたという関係を引きずっている。であるがゆえに会社を失った瞬間にばらばらで孤立し、結節点がない。米国では、地域コミュニティーで教会に行く活動や、会員3600万人を擁する全米退職者協会(AARP)のような組織があるが、日本は会社を辞めれば、労働運動からも外れ、昔の会社の仲間に月1回都心に出て会うくらいの人間関係を生きている」

 人数だけは多い層だ。

「65歳以上が人口全体の3割近いから、若い人の投票率の低さを考えると、有効投票の約6割を占めることになる。つまり、老人の老人による老人のための政治になってしまう。加えて、次回衆院選からは10増10減の区割り変更が実施され、選挙区は首都圏が9、愛知が一つ増え、地方が軒並み減らされる。日本の政治的意思決定は、ますますもって都市新中間層の老人による都市新中間層の老人のための政治になりかねない」

 これでもかというシルバー民主主義の極致だ。

「それをネガティブの方向に持っていくのか、ポジティブに使うのか。一般に高齢化は医療費、年金など社会的コストの負担増と捉えられ、『衰退の兆候』とされるが、これは正しくない。むしろ、高齢者を社会的課題の解決を支えるポテンシャルと考え、参画と活用を考えるべきだ。そのために必要な視座が『高齢化社会工学』(ジェロントロジー)で、高齢者を社会的に活(い)かし切る社会システムの制度設計が求められる」

 高齢者、どう活用する?

「現在65歳以上の就業者は912万人とされるが、就業だけでなく子育て、教育文化活動、NPOなど、社会を支える活動への高齢者の参画が社会の安定、民主主義の成熟にとって重要な意味を持つ。連合の組織団体の一つに退職者連合があるが、70万人を組織化している。こういった組織が、都市郊外に分断化されている新中間層高齢者の情報や政策要求を束ねる一つの緩やかな結節点、プラットフォームになれば、社会を動かす大きな力になりうる」

 高齢者による革命か?

「日本で政治的革命が起きる可能性があるとすれば、ブラインド(死角)に入っている人たちのポテンシャルが爆発した瞬間だ。世界のあらゆる革命がそうだった。今日本で組織化されず、どこに行くかもわからない、しかも、大量の数を擁している有権者層として、高齢者の存在がある。構想力のあるリーダーなら、この層をターゲットに社会的参画運動を仕掛けるのではないか。24年の日本は、異次元高齢化社会をどう方向付けるかが大きなテーマになるだろう。『新高齢者革命』といってもよい」

日本の真骨頂をどう発揮するか考えよ

 日本経済どう見る?

「GDPでいえば、昨年はドイツに抜かれ、2026年にはインドに抜かれる。振り返れば、1950年に世界GDPの3%を占めた国が、1994年に18%のピークに達し、それが昨年4%台になり、また3%台に下がるかもしれないという局面だ。元の木阿弥(もくあみ)ではないが、70年以上前に戻る地点に日本は立っている」

「経済を唯一の拠(よ)り所として生きてきた人間が3位から4位へ、4位から5位に落ちていくプロセスで日本が何によって精神性を持ちこたえるのか。2010年に中国に抜かれたことが日本人の深層心理に大きな負荷を与えたことを思い起こす。日本は自国の敗戦を米国の物量にねじ伏せられたと総括、その意思決定のあり方や政治システムのどこに問題があったかを分析せず、物量で蘇(よみが)えろうとしてきたが、それがなお継続中だ」

「岸田首相は昨年の臨時国会の所信表明演説で、『経済、経済、経済』と連呼した。トニー・ブレア英元首相が『教育、教育、教育』と叫んだのを真似(まね)たものだったが、まだそれを言ってますかとの感があった。今回炙り出された日本政治の問題点を自分たちの弱点として真摯(しんし)に受け止め、日本をどう根底から立て直すのか。日本の持っているポテンシャル、文化や思想哲学など、日本人の持っている真骨頂を今こそ発揮するためにはどうすればいいのか。そこに脳髄をふり絞って考えるべき年でもある」

 異次元緩和の出口は?

「すでに、長期金利は1%を超え始めており、日本が正気に返る前に世界から常識のラインに引きずり出されている形だ。米国との金利差が縮み、一定の円高には戻るが、購買力平価とされる110円前後に戻るかといえば、それはないだろう。日米金利差によるドル高に誘発された円安だと説明していたのが、アジア最安通貨になり始めている」

 外交安保ではどんな年?

「米国さえ頼っていれば日本は安全、安心だという局面ではなく、中国も強権化、孤立化し、ロシアは歴史のかなたに消え去ろうとしている。『極』という構図で世界を引っ張ろうとしていた連中が後退した。グローバルサウスがただちに主役になるということではないが、誰もが主役になり、自己主張し、引っ張っていく全員参加の時代になりつつある。日本のレジティマシー、立ち位置がアジアの国々から問われている。一つのステップが核兵器禁止条約への参画であろう」

 目から鱗(うろこ)、の指摘が満載。特に裏金疑惑の本質、そこにありしか、の念深く。


てらしま・じつろう

 1947年生まれ。日本総合研究所会長。世界的視点で日本の針路について重要な問題提起を行ってきた

くらしげ・あつろう

 1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員

1月4日発売の「サンデー毎日1月14日・21日号」には、ほかにも「新春ニッポン改革 自民裏金事件不正糾弾に連携 野党が自公政権を解体する 泉健太(立憲)×馬場伸幸(維新)×玉木雄一郎(国民) 司会・田原総一朗」「シニアの新NISA賢い活用術」「阿木燿子の艶もたけなわ ゲスト宇崎竜童」などの記事も掲載しています。

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