経済・企業独眼経眼

新春誌上座談会 日本株は4万円に迫る? 日銀の政策変更に注目

 2024年の日本経済はどこに向かうのか──。本誌人気コラム「独眼経眼」を執筆する5氏に見通しを聞いた。(構成=中西拓司・編集部)

── 2024年の日本経済の展望をどうみていますか。

愛宕 新型コロナウイルス感染拡大による外出制限などでたまった「強制貯蓄」は20兆円程度と推定されており、これが消費を下支えし、インバウンドの回復も継続するだろう。欧米景気の下振れに伴う輸出の減少が成長率を抑制すると想定している。

斎藤 海外経済が減速するため、輸出が景気のけん引役になることが期待できない。一方、個人消費は雇用所得環境の改善や社会経済活動の正常化を受けて回復し、設備投資は高水準の企業収益を背景に増加するだろう。日本経済は国内需要中心の成長が続く。消費者物価は円安・原油高の一服に伴う輸入物価下落の影響で、財価格の上昇率は鈍化する。消費者物価上昇率は24年秋ごろには2%を割り込むとみている。日経平均株価は堅調に推移するが、米国経済の減速が明らかとなることが見込まれる24年春ごろにはいったん弱い動きになるだろう。

トランプリスク

藤代 日経平均株価は円高が重荷になるものの、米国経済がソフトランディング(軟着陸)を達成する中で、企業の資本効率改善が投資家に評価され、10%の株価上昇は達成可能だろう。ドル・円為替相場は、米国の利下げに伴うドル安になると想定している。ただし金融市場の「利下げ織り込み」は行き過ぎている感があり、ドル高方向への巻き戻しもあり得る。他方、「トランプ大統領」誕生なら利下げ要求が意識され、ドル安主導の円高もあり得る。

── 慎重な見方が多いようです。

藻谷 23年11月の鉱工業生産指数は前月比マイナス0.9%の104(20年=100)で、製造業は「鳴かず飛ばず」の状況だ。サービス業の回復も一直線ではない。製造業については「回復なき回復」といっていい事態であり、景気をどこまで伸ばすことができるのかという問題に今後直面するだろう。

渡辺 インフレによる実質賃金の減少で内需の低迷が続く中、年前半は海外経済の減速によって外需も弱まる公算だ。賃上げで日本の実質賃金が増加し、内需に明るさが見えるのは年後半になるだろう。欧米経済が潜在成長率並みの成長に戻るのも、利下げ開始後の7〜9月期と予想している。日本経済の本格回復はそれ以降になるだろう。日経平均株価は、①人工知能(AI)ブームで上昇する米ハイテク株との連動、②日本企業の資本効率改善やガバナンス改革への期待継続、③マイナスの実質金利の下での資産バブル、④チャイナリスクが高まる中での逃避マネーの日本流入──などを理由に右肩上がりになると予想する。

春闘の賃上げが試金石

── 株価などへの影響材料として考えられることは?

愛宕 3月15日に集中回答日を迎える春闘の方向性が注目される。これを受け、4月に開かれる日銀の金融政策決定会合で、マイナス金利政策を解除するかも注目される。賃上げ状況次第では、日銀の政策運営に大きな影響を与える可能性がある。5月にも予定されている日銀の「金融政策の多角的レビュー」も焦点になる。24年1~3月期のGDPギャップ(総需要と総供給の乖離(かいり))がプラスになるかどうかも注目される。岸田政権がデフレ脱却宣言を発出できるかが問われるだろう。

斎藤 春闘賃上げ率だ。企業の人手不足感が非常に強く、企業収益が過去最高水準にあることや、物価上昇率が高止まりしていることを踏まえれば、賃上げの環境は引き続き良好とみている。24年の春闘賃上げ率は前年を0.4ポイント上回る4.0%とみている。

── 日本経済自体の注目点は?

藤代 半導体市況の底打ちが明確になるかどうかに着目している。24年は20、21年に購入されたパソコンの一部が買い替え時期に当たる。パソコン販売が持ち直せば、半導体需要の回復確度は高まる。日本の内需では、食料品価格の上昇一服に期待している。体感物価の低下によって裁量的支出の拡大が期待され、個人消費が回復する原動力になるとみられる。自動車販売の持ち直しがどこまで続くかも注目点だ。特に米国では豊富な潜在需要が存在するとみられ、日本企業の収益に大きなインパクトを与える。

藻谷 23年は、コロナ明けによる国内商業全般のカムバックと、インバウンドで何とかなったが、景気をどこまでも引っ張れるものではない。日本人は、英米加豪のアングロ・サクソン諸国は製造業を捨てたと思っているようだが、日本はそれにも劣る惨状だということを把握する必要がある。鉱工業生産に火が付かなければ、24年経済は失速する可能性もあるが、現状増産の兆しはなく、その議論もされていないこと自体を懸念している。

── 日銀の対応も焦点です。

渡辺 日銀がフォワードガイダンス(金融政策の先行き指針)に沿った形で金融政策の正常化を進められるかど…

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週刊エコノミスト

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