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東大号60th記念鼎談 「学区制廃止」「進学重点校」始まった公立校の巻き返し 2004~13年 東大合格者高校別ランキング・ベスト20史 

東大安田講堂
東大安田講堂

 進学校はかく変わりき/5

 18歳人口に対する大学進学率は2000年代終わりに5割を超えた。大学受験が社会の一握りから多数派のものへと転換した結果、その頂点のはずだった東大入試へのまなざしは変わったのか。ランキングとして表される「数字」の裏側をエキスパートが深掘りする。

 1949年6月、新制国立大学としての東大入試が初めて行われてから、70年余の間に合格者数で首位を占めたのは5校しかない。日比谷、灘、開成、筑波大付、筑波大付駒場である。2023年度入試で開成は連続トップ記録を「42」に更新したが、かつて首位独占といえば日比谷だった。東京都教委が1967年に導入した「学校群制度」によって都立高が総崩れとなる前、日比谷は19年(49~67年)続けてトップを守った。64年の「193人」は92年に開成の201人に抜かれるまで東大入試史の金字塔だった(一方、日比谷は翌93年、東大合格者を1人にまで減らした)。その日比谷が2007年、ベスト20に再び顔を見せた。

 日比谷「3人→11人」=進学指導重点校“1期生”が大活躍

教育ジャーナリスト・小林哲夫 ランキングには表れていませんが、日比谷は05年、東大合格者を前年の3人から11人に躍進させました。同じく都立高の名門・西も11人から18人へ伸ばしました。都教委は01年、日比谷や西などを「進学指導重点校」に指定します。その1期生(02年入学)が受けたのが05年の入試です。

――さらに翌06年度入試は都立高の学区制廃止(*)の1期生が受験に臨んでいます。

大学通信・井沢秀情報調査・編集部長 前回少し触れましたが、06年は公立校が伸びた年なんです。04~05年はベスト20に公立校がゼロですが、06年は岡崎、宇都宮、一宮が入っています。当時いろいろと取材したところでは〝反ゆとり〟といいましょうか、公立高校が完全学校週5日制など、ゆとり教育が推し進められることにかえって危機感を抱いて進学実績向上に取り組んだ結果じゃないかという声がありました。06年が新課程入試(新しい学習指導要領で学んだ高校生が受ける試験)なんですね。

駿台予備学校・石原賢一入試情報室部長 大学入試センター試験がむちゃくちゃ易しかった年ですよ。英語に初めてリスニングが導入され、平均点が72・5点(100点満点換算)もあった。それが公立勢には強気の出願につながり、有利に働きました。やっぱり2次試験での逆転は厳しいですから、センター試験で点が取れないと弱気になってしまいます。

井沢 06年は開成も灘もガクンと数字を落としています。その時言われていたのは、センター試験でしっかり点を取れた地方の優秀な生徒がいざ東大を受けに来ると、開成にしろ灘にしろ一貫校でもボーダーライン上にいる生徒は割を食うということでした。

 ベスト20には入っていませんが、例えば金沢泉丘が20人と前年の6人から大きく伸ばしています。どちらかというと京大志向の強い学校ですが、先生が生徒に「東大を受けろ」と積極的に指導をしたと聞きました。石原さんがおっしゃるようにセンター試験ができたことが大きかった。

 公立一貫校の弱点?=小石川中教は前身の伝統を背負い復権へ

井沢 神奈川は05年に学区を廃止し、07年に湘南、横浜翠嵐などを「学力向上進学重点校」に指定しました。

――大阪は07年、9学区制から4学区制に変更しました(14年に学区廃止)。自治体の教育行政が大きく動き出した印象です。

石原 公立の復権は確かですよね。

小林 この頃の岡崎も学校ぐるみで東大志向が強かった記憶があります。岡崎は近隣に有力な私立中がないこともあり、岡崎――名古屋大ではなく、岡崎――東大というコースが00年代にできつつあったようです。

石原 10年に再びベスト20に顔を出す旭丘も、その動きに引っ張られているんでしょうね。尾張地区と三河地区には昔から対抗意識がありますから(笑)。

小林 一方で千葉・県立の影が薄くなった。

石原 渋谷教育学園幕張が常連化したあおりですね。千葉県初の中高一貫進学校ですし、共学校ですから女子も取られてしまいます。分かりやすい図式です。

小林 08年に千葉・県立に千葉中学校が併設されましたが……。

井沢 効果というほどはなかったですね。

石原 (1983年開校の)渋幕ができる前に作っておかないと。そうしたらだいぶ違ったでしょう。各地にも公立の中高一貫校ができていますが、受験指導のノウハウがまだない。

小林 2000年代の半ばから都立中高一貫校ができ始めるんですが、結局は公立の限界があり、私立のように中1から高3まで同じ担任が持ち上がったり、先取り学習をしたりということができません。形だけ中高一貫にしても、よほど優秀な生徒が大量に入ってこない限りは難しい。

井沢 都立の一貫校で目を引くのは小石川中等教育学校くらいでしょうか。前身(都立小石川)の伝統もあって〝復権〟を目指して日比谷並みにガリガリやらせています。ベスト20には入りませんが、生徒数が少ない分、東大合格者の割合ではそれなりの数字を出しています(23年は卒業生153人に対し、16人合格)。

 東大か医学部か=理Ⅲ合格者が途切れていないラ・サール

――公立校が盛り返しつつあるとはいえ、この10年では岡崎と浦和・県立が11位止まりで、ベスト10の壁は厚いようです。

石原 上位は(私立、国立の中高一貫校で)変わらないですね。

小林 変わらないです。

井沢 その中でラ・サールが順位を落としています。

小林 11年はベスト20に姿がないですよね。

石原 医学部志望者が多いんですね。また地方の高校の宿命でもあります。

小林 愛光も出てこなくなってしまった。

井沢 23年の国公立大医学部合格者数ではラ・サールが4位、5位の灘を挟んで6位が愛光です。ラ・サールは東大合格者自体は減らしていますが、大学通信が把握している1987年以降のデータでは灘、開成、筑波大付駒場と並んで理Ⅲの合格者が今まで一度も切れていません。それだけの底力はあるわけです。

小林 東大理Ⅲは1位がずっと灘で筑駒が時々……。

井沢 そうですね。2022年に初めて桜蔭がトップを取りました。

――23年度入試では理Ⅲ合格者の女子比率は約24・7%で、21年度の15・3%から急増しています。

石原 逆にいえば、女子のこの医学部志向の強さを克服しないと、東大の女子学生比率(*)は2割を大きく超えていかないですよ。こういう道があるというしっかりとした将来へのロードマップを見せないといけない。女性研究者も東大には居づらいと思います。日本社会の縮図ですから。

 「教養学部」改革を=進学選択制度は役立っているのか?

小林 女子学院がベスト20に顔を見せ始めます。大昔は女子学院が桜蔭より東大合格者が多かった時もあるんですよね。

石原 女子学院は京大に行く生徒が結構多いんです。

小林 女子学院と校風が似てるから受験した、という生徒をよく見かけます。

井沢 早稲田大が好きなところも女子学院らしいですよね。慶應(義塾大)より早稲田を選ぶ。

石原 そういう優秀な女子の期待に東大は応えられていないと思います。やっぱり古い。というのも教養学部に2年いて、それから専門の学部に進む体制ですから、本当に優秀な子はもう一回高校生をやるようなことはしたくない。進学振り分け(進学選択制度)の成績のために我慢している。

井沢 だから女子は京大のほうが好きだと。

石原 そう。学校推薦型選抜でやっている、学部を決めて受験する方法を一般選抜の限られた人数に導入すれば、女子の志願者は絶対に増えると思います。東大の先生にも話したことはあるのですが、駒場(教養学部)の教育をつぶしてしまうと思われている。

――東大は16年度入試で定員100人の推薦入試(学校推薦型選抜)を導入しました。東大でさえ、自ら課す入試で望む人材に巡り会えていないもどかしさを抱いているように感じます。次号最終回(14~23年)では、入試のあり方を含む東大の今、そしてこれからを展望していきます。

(司会/構成・堀和世)


(*)女子学生比率 23年11月現在、東大の学部生の女子比率は21.0%。第4期中期計画では27年度末までに「学生における女性の比率30%を目指す」と定める。教授、准教授の女性比率は23年5月現在で12.8%


いしはら・けんいち

 駿台予備学校入試情報室部長。大阪府出身。1981年に駿台予備学校に入職。学生指導や高校営業を担当後、神戸校舎長、駿台進学情報センター長、進学情報事業部長を経て現職

こばやし・てつお

 1960年生まれ。教育ジャーナリスト。神奈川県出身。特に90年代以降、受験など大学問題を中心に執筆。著書に『早慶MARCH大学ブランド大激変』『東大合格高校盛衰史』など。近著は『筑駒の研究』

いざわ・しげる

 1964年生まれ。大学通信情報調査・編集部長。神奈川県出身。92年、大学通信入社。入試から就職まで、大学全般の情報分析を担当してきた。新聞社系週刊誌や経済誌などに執筆多数

ほり・かずよ

 1964年生まれ。編集者、ライター。鳥取県出身。89年、毎日新聞社入社。元『サンデー毎日』編集次長。2020年に退職してフリー。著書に『オンライン授業で大学が変わる』(大空出版)など

「サンデー毎日3月10日号」表紙
「サンデー毎日3月10日号」表紙

 2月27日発売の「サンデー毎日3月10日号」には、2004~13年の「東大合格者高校別ランキング・ベスト20」を掲載しています。今春の「東大号」は「サンデー毎日3月24日号」で3月13日発売です。

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