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旧皇族に継承順はなかった「有識者会議」の牽強付会 社会学的皇室ウォッチング!/104 成城大教授・森暢平

岸田文雄首相はどうする…
岸田文雄首相はどうする…

 これでいいのか「旧宮家養子案」―第6弾―

 日本国憲法施行後の半年間、旧宮家皇族にも皇位継承順が付いていたという見解は、有識者会議の報告書(2021年12月)に出てくる。だが、これはおかしい。当時の宮家当主は憲法施行前に皇籍離脱の情願書を提出しているうえ、有識者会議が示した「継承順」は牽強付会なものだからである。(一部敬称略)

 1947(昭和22)年10月に皇籍を離脱した旧11宮家の男子について、有識者会議報告書は「日本国憲法及び現行の皇室典範の下で、皇位継承資格を有していた方々であり、その子孫の方々に養子として皇族となっていただくことも考えられるのではないでしょうか」と書く。報告書がまとまる前の2021年11月30日に有識者会議事務局が提出した「制度的、歴史的観点等からの調査・研究」は、11宮家の皇位継承順を記した系図を示した。

 47年に皇籍離脱した皇族は51人で、男子は26人だった。表にはない明仁皇太子、正仁親王(のち常陸宮)、秩父宮、高松宮、三笠宮、寬仁(ともひと)親王の6人が継承順6位までを占め、表でいえば山階宮武彦が第7位と筆頭となるというのが事務局の説明である。

 こじつけだ。継承順を明記した当時の表は実在しない。有識者会議事務局が示した表は、現在の基準で順位をあえて付けてみたという代物であり、当時、順位は想定されていなかった。戦後のルールを、遡及して示したものにすぎない。

 伏見宮博明ら宮家当主は日本国憲法施行2日前の47年5月1日、皇籍離脱の情願書を提出した。11宮家の臣籍降下は確定していた。新憲法施行後に延期されたのは、前回触れたように連合国軍総司令部(GHQ)から、新国会での審議を経るべきだという横やりが入ったためである。皇族をやめると宣言した人たちの継承順は実際には付いていなかった。

 山階宮は筆頭宮家か みなし皇族という特例

 実のところ、戦前の継承順は表とは大きく異なる。旧皇室典範では、正妻の子の系列(嫡系)の継承が優先される。嫡系が上位になり、庶系は下になるのだ。伏見宮系の祖、伏見宮邦家の子は多いが、正妻の子(嫡男)で子孫を残したのは伏見宮貞愛(さだなる)だけである。だから、戦前ルールでは、11宮家の最上位者は、伏見宮貞愛の系列であり、有識者会議が31位とした伏見宮博明となる。戦前ルールでは彼こそ真の7位であったはずだ。同じく表では、竹田宮家が北白川宮家よりも上位とされる。しかし、竹田宮は庶系、北白川宮は嫡系だから、戦前は逆であった。

 戦後の皇室典範は、側室(家女房)の子(非摘出子)にも庶系にも継承権を認めないこととした。日本国政府は、新典範の作成の最後の段階である46年10月22日、附則第2項に「現在の皇族は(略)嫡系嫡出の皇族とみなす」という条項を追加した。伏見宮博明以外は庶系であったが、11宮家のすべての皇族を嫡系の「みなし皇族」とすると明記した。なぜなら、新典範案を議会に提出する段階では、まだ離脱が正式には決定しておらず、「みなす」という特例で処理するしかなかったためである。

 新典範の継承順は、嫡庶を問わない。だから、嫡系の伏見家の順位は下がってしまう。また、北白川宮家と竹田宮家も逆転する。本来なら、大反発が起きるはずだが、何事も起きなかった。皇籍離脱は自明であり、遠からず継承権が消滅するのは確実だから、争う必要がなかったのだ。

 帝国議会での審議のために法制局が作成した「想定問答」(46年11月)は、新典範は「庶系庶出の者が不利になるようにできてないが、これは、実際問題としては支障がないから規定しなかった」と明記する。新典範のもと、庶系庶出の皇族はいなくなり、嫡庶の順を規定する必要はないという意味である。

 実際、11宮家の離脱を知らせる「宮内府告示」は、伏見、山階、賀陽(かや)、久邇(くに)、梨本、朝香、東久邇(ひがしくに)、北白川、竹田、閑院(かんいん)の順、つまりは戦前の継承順のまま名前を列挙した。皇室では席次や序列が非常に重要である。継承順が変更されているなら、新しい順番で列挙すべきだが、そうはしていない。新憲法で11宮家に継承順が付いていなかった証左である。

 それより重要なことは、20(大正9)年5月の「皇族ノ降下ニ関スル施行準則」で、伏見宮邦家から数えて5親等離れた子孫は、皇籍を離脱することが決まっていた事実である。表の最も右の一列(賀陽宮邦寿(くになが)から伏見宮博明まで)が4親等であり、その子の代では、11宮家はすべてが皇籍離脱すると決まっていた。戦後の離脱は、その時期を早めたにすぎない。

 養子案の支持多数? 結論ありきの議論

 有識者会議では、ある委員が以下の意見を述べた。

「養子縁組を含めた皇統に属する男系の男子の方々が皇族となることについても、比較的前向きな意見が多くあったのではないか」(2021年6月16日)

 驚くべき発言である。有識者会議は21人の専門家等からヒアリングを行い、たしかに「旧宮家養子案」を支持する人が多くいた。しかし、それはそのような人選をしたからである。つまりは保守派を自認する人物からより多くの聞き取りを行った。そうした人たちが世論を代表するとは思えない。

 有識者会議は初めから「旧宮家養子案」を認めるという結論ありきで議論を進め、それに合う都合のいい資料をでっちあげたのである。(以下次号)

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など

「サンデー毎日3月10日号」表紙
「サンデー毎日3月10日号」表紙

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