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田原総一朗が山本豊彦『しんぶん赤旗』日曜版編集長に迫る 本丸は森元首相ではなく自民党中枢だ!

田原総一朗氏と山本豊彦氏
田原総一朗氏と山本豊彦氏

裏金事件の闇

 岸田政権を根底から揺るがし、国民の政治への怒りを掻き立てている自民党裏金事件。起点は、『しんぶん赤旗』のスクープだった。現在、文春と並んで、重要な対権力報道を担いつつある赤旗だが、今回は日曜版編集長の山本豊彦氏を田原総一朗が直撃、特報の現場と問題の核心に迫った。

 30年余前、リクルート事件を発掘したのは、朝日新聞川崎支局だった。

 端緒は、川崎市助役へのリクルート関連会社の未公開株贈与だったが、それが贈収賄という犯罪の構成要件に該当するかどうかの見極めがなかなかつかず、捜査当局も一度はあきらめた事件だった。だが、社会部出身の手練(てだれ)の支局長が、入社したての若い記者たちを総動員し丹念に取材成果を積み上げていった結果、リ社が首相経験者ら政界有力者多数に値上がり確実な同株をファイナンス付きで配っていたことがわかり、それを特報、一大疑獄事件がそこで幕を開けた。

 捜査当局の情報や確認に依存するのではなく、記者たちが地を這(は)うような聞き取りで新事実を発掘・確定し、問題点を独自に提起する調査報道の走りであった。そのインパクトは強烈だった。「濡(ぬ)れ手で粟(あわ)」というコピーが世論を席巻、政治家2人、事務次官経験者2人、NTT幹部3人が起訴され、有罪判決を受けた。竹下登政権は退陣に追い込まれ、関係議員は一定期間政府・党の重職につけなかった。事件が政治改革論議に火をつけ、結果的に選挙制度の変更(中選挙区制→小選挙区比例代表並立制)にまで至らしめた。

 メディアの調査報道が世の中を大きく変えるきっかけとなった。今回の裏金事件で言えば、2022年11月6日号『しんぶん赤旗』日曜版の「主要5派閥」「2500万円分不記載」というスクープがそれに該当するのではないか。発掘したのは、笹川神由記者(33)とそのチームだ。日本共産党の政党機関紙として、政治資金パーティーは企業団体と自民党の癒着の象徴として、以前から厳しくチェックしてきた。22年12月に薗浦健太郎・前衆院議員がパーティー収入不記載で政治資金規正法違反で略式命令(罰金100万円、公民権停止3年)を受けた事件も端緒は同紙の報道だった。

 笹川記者らは、金額が大きい派閥主催のパーティーに狙いをつけた。この3年間、コロナ禍で飲食提供がなくなったのにパー券を相変わらず2万円で売りつけていることに、対価性という制度的建前が崩れつつあるとの問題意識があった。パー券を購入した団体側と派閥側の政治資金収支報告書を照合しているうちに、政治資金規正法で同一団体から同一派閥に対して20万円超が支払われた際は双方が収支の記載義務を課されているにもかかわらず、派閥側は議員ごとに収入を得たことにして、記載していないケースがあるのを発見した。

 ひょっとして類似例があるのでは。笹川記者は全国で5万ある、とされている政治団体を調べ始めた。

「一つ一つ団体を見てその支出欄と、支出先の政治家が所属する派閥側の収入欄を突き合わせるのに時間がかかりました。収支報告書は基本的にはネット公表されているものをベースに調べたが、見落とすかもしれないと思ったところは印刷して一個一個チェックした。複数で担当したが、メインで私がやらせていただいた」

 その成果が先のこの問題での第一報となったわけだが、この報道に注目したのが、「政治とカネ」問題にライフワークとして取り組んできた上脇博之神戸学院大学法学部教授であった。教授が独自で追加調査し、データを付して告発、それを受けて東京地検特捜部が捜査し、国会議員3人を含む10人を政治資金規正法違反(虚偽記載)罪で起訴(うち4人は略式起訴)する事件となった。リ事件同様政局への影響も大だ。現在進行形でもある。派閥の自主解体で自民党国会議員の75%が無派閥という前代未聞の事態が現出、岸田文雄政権の命運もこの事件の処理如何(いかん)にかかっている。

 ジャーナリストの田原総一朗氏が、東京・代々木の赤旗日曜版編集部を訪ね、特報の経過を聞くと共に、裏金問題の本質を山本豊彦編集長と語り合った。

山本豊彦・「赤旗」日曜版編集長
山本豊彦・「赤旗」日曜版編集長

一般メディアは権力批判をビビった

田原 裏金事件、なぜ赤旗だけが暴けたんですか?

山本 政治資金パーティーにずっと着目して取材を重ねてきた。リ事件の反省から1994年に企業団体献金を原則廃止にするとして、政党助成金制度を導入した。その際、抜け穴として企業団体による政党本部や支部への献金と、企業団体がパーティー券を購入する道は残した。それがどう機能、どう政治を動かしているのか、権力ウオッチには欠かせない作業だと思っている。

田原 スクープの端緒は?

山本 笹川記者が収支報告書を調べていたら、電気技術者で作る「全友会」(東京都千代田区)という政治団体が2017年、麻生派の3人の政治家経由でパー券計40万円分、安倍派計30万円分購入した、と記載しているのに、派閥側に大口購入者としてその団体名がないことに気付いた。自民党関係者は、昔からあった手口だという。この際、徹底的に調べてみるかとなった。

田原 団体は全国で5万?

山本 派閥の政治資金パーティーの取材は、派閥側の収支報告書を見ることが多かった。その大口購入者をチェックすることで、企業団体側との関係を探ってきた。今回は派閥側に載っていない事実を政治団体側から炙(あぶ)り出す作業になった。ただ、仰(おっしゃ)るように全国で5万ある。そんな面倒なことは過去に誰もやらなかった。

田原 どう絞り込んだ?

山本 笹川記者は粘り強い性格だ。高校卒業後にトラック運転手から記者になった。総務省や東京都と大阪府の両選挙管理委員会に提出された政治団体の中から政治的影響力行使に関心のありそうなところを選び、時効にかからない18年から20年までを調査、ひたすら不記載事例を拾い上げていった結果、5派閥で少なくとも19団体、59件の不記載があることを摑(つか)み、それが特報につながった。

田原 ほぼ全派閥だ。

山本 何となく安倍派の問題とされているが、自民党の組織的・構造的問題だと思っている。裏金疑惑は、日歯連事件(04年に発覚した日本歯科医師連盟による歯科診療報酬を巡る汚職、闇献金事件で、自民国会議員ら16人の有罪が確定)の頃からあった。旧橋本派(現茂木派)が中心の事件だったが、当時の同派会計責任者が法廷で、派閥の政治資金パー券売り上げのうち現金分については裏金扱いとしていた、と証言している。今回茂木派に裏金が出なかったのは、日歯連事件の教訓からだ。

田原 対価性でも疑義が?

山本 パーティーに実際参加するのは購入者のごく一部だ。ある団体は、「33人分(計66万円)購入したが参加者は数人」と証言した。政治資金規正法は政治資金パーティーについて「対価を徴収して行われる催し物」と規定、不参加分は対価性がないため事実上の寄付にあたる可能性がある。

田原 報道後の反響は?

山本 新聞、テレビなど主要メディアが、この問題を取り上げることはなかった。1年後に特捜部が事件にしてから追いかけてきた。

田原 当初、一般メディアは反応できなかった。感度が低いのみならず、権力を瓦解(がかい)させるほどの事案の報道をビビったんだと思う。

山本 ただ、自民党中枢からは人を介して反応があった。「あんたたちは派閥パーティーを潰す気なのか」と。その時には正直言ってよく意味がわからなかったが、その時点では我々もまだ摑んでいなかったキックバック(還流)の裏金まで暴露する気なのか、ということだったのだろう。

企業・団体献金は今後どうなるか

田原 自民党中枢はことの重要さに早い段階から気付いていた、ということ?

山本 そうだと思う。自民党の事務方トップは、岸田首相に昨年の早い段階での衆院解散を進言していた。

田原 事件をチャラにしようとした。ところであなた方に検察側からの接触は?

山本 特にないが、昨年の5、6月ごろから秘書や会計責任者の聴取に入ったと聞き、ああ動いているなと。

田原 検察はむしろ赤旗報道と告発に感謝だ。捜査のきっかけを作ってくれた。

山本 そう思う。我々は団体から派閥に渡ったはずのパー券収入20万円超の不記載についてキャンペーン報道したが、検察は告発を受け捜査を本格化、銀行口座の照会などで派閥から個々の議員へのキックバックの裏金に気付いたはずだ。

田原 本丸の裏金発覚だ。

山本 結果的に検察はそちらを立件した。我々が報じた部分については不起訴処分にしている。

田原 検察の面子(メンツ)か?

山本 それは一定あると思いますね。

田原 上脇氏との協力は?

山本 上脇先生が凄(すご)いなと思ったのは、私たちが不記載を指摘、自民党が訂正して「ハイ終わり」にしなかったことだ。訂正は「罪の自白」で、指摘された部分しか訂正しなかったことは「悪質性の証拠」だと指摘、いずれも検察に告発した。勉強になりました。

田原 でもよくやったよね。二人三脚だ。

山本 「桜を見る会」(安倍晋三首相時代、首相主催の観桜会に安倍後援会を多数招待、前夜祭を開催したことについて公選法、政治資金規正法違反だとして赤旗がキャンペーン報道)も、薗浦事件もそうだった。ただメディアは今になって上脇先生は凄い、と持ち上げるが、告発段階ではほとんど取り上げなかった。

田原 最近は特ダネといえば文春砲か赤旗日曜版だ。どんなメディアですか?

山本 日刊紙の赤旗とは別に週1回タブロイド判32ページで発行、編集部員四十数人で、政治、経済、社会問題をはじめ、文化、芸能、料理の記事を掲載している。政党機関紙だが、どの担当者も大手メディアには負けない気概でやっている。

田原 今回の立件で企業・団体献金は今後どうなる?

山本 先述したように企業・団体献金の抜け穴は二つあったが、政党という受け皿の方は、先の日歯連事件で、日歯連による自民党大物議員に対する党の政治資金団体を経由した迂回(うかい)献金疑惑が浮上した。党の窓口である国民政治協会に入った献金が実は、特定の企業団体から特定の政治家宛てに流れていた、迂回していた、という問題だ。結果的に検察は不起訴処分としたが、そのルートが使えなくなり、パーティー券購入にカネの流れがシフトしていった。

田原総一朗氏
田原総一朗氏

カネを差配している党官僚の関与は?

田原 それが今回の裏金事件発覚の背景だ。キャンペーン報道、今後は?

山本 自民党には幕引きさせない。誰がどうこの裏金システムを作りあげたのか、その謎の解明に挑戦したい。森(喜朗元首相)さんが作ったと言われるが、派閥次元の問題ではない。自民党全体の組織的・構造的問題だ。党中枢でカネの差配をしている党官僚がタッチしない限りできないはずだ。もう一つ重要なのは、企業・団体献金の禁止をどう今国会で法制化させるかだ。

田原 団体献金のその姿が垣間見られたが、企業献金はどうなっているのか?

山本 まさにそこだ。企業・団体献金と一律に言うが、企業は収支報告書を出していない。献金額は圧倒的に団体より企業の方が多いので、企業・団体献金といっても実はその実態はほとんどわかっていない。本当の闇は企業の部分にある。

田原 企業・団体献金は禁止ではなく透明度を上げるべきだという意見がある。

山本 公明党は、パー券大口購入者の記載義務の下限を20万円超から5万円超に下げれば透明度が上がるというが賛成できない。企業に収支報告書提出義務がないので誰も検証できない。

田原 実は、企業にとっては正しいか間違いかはどうでもいい。損か得かだ。

山本 まさに損か得かだ。社会のためにお金を出しますというのはありえない。もうけにならないことをするのは株主に対する背任になる。自社のためだけでなければ駄目だ。でもそれでは限りなく汚職に近くなる。この矛盾解消のためには一律禁止しかない。企業献金が裏金疑惑の本丸だと思う。我々はまだそこには全く届いていない。

田原 一律禁止のために野党がどう連携できる?

山本 現時点では、企業・団体献金の禁止で、野党陣営は維新まで含めて一致している。そこが一つの突破口になるのではないか。

田原 自民党は絶対に乗れないところだろう。

山本 そう思います。

田原 スクープは快挙だが、野党の支持率が上がらない。

山本 自民党が悪い、だけでは駄目で、その先の方向性を野党が示せていない。

田原 野党が連携し、ここで政権交代しないと駄目だ。

山本 政権交代できるかどうかではなくて、政権交代しなければならない、という思いを共有できるかどうかではないでしょうか。

   ◇   ◇

 政治資金収支報告書への不記載が法に触れる、というのが裏金事件であったが、山本編集長が言わんとするのは、企業・団体献金という表ガネそのものの怪しさ、胡散(うさん)臭さであろう。この抜け穴が封じられ全面禁止になるか否か、今後の政局を動かす鍵になるだろう。


やまもと・とよひこ 1962年北九州市生まれ。90年から赤旗編集局勤務。校閲部、東海・北陸総局、経済部、社会部、日曜版を経て、2014年に日曜版編集長。2020年に「桜を見る会」疑惑報道で「日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞」大賞を受賞

くらしげ・あつろう 1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員

サンデー毎日5月19・26日号(表紙・「ブルーロック」凪誠士郎)
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