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倉重篤郎のニュース最前線 「カリスマトレーダー清原達郎が指南 アベノミクス後の『超投資術』」

伝説の投資家・清原達郎氏。写真/野口博(FLOWERS)
伝説の投資家・清原達郎氏。写真/野口博(FLOWERS)

我々はいかに金融リテラシーを高めるか?

 伝説的投資家・清原達郎氏の新刊『わが投資術』(講談社)がベストセラーとなっている。現代資本主義と会社の実態を見極めての投資術を万人に明かすこの書を、凡百のマネー本と次元を異にする画期的提言と見た倉重篤郎が、清原氏に訊き、金利復活時代の「われらの資産運用」を再考する――。

アベノミクス後の日本経済はどうなるのか

 植田和男総裁率いる日銀がこの10年続けてきた異次元金融緩和政策を転換、マイナス金利解除、長短金利操作の撤廃、ETF(上場投資信託)購入終了を決めた。果たしてこれが金利がつく真っ当な資本主義経済を復活させる契機になるのか、それとも正常化への真の出口はまだ先なのか。リフレ派の一部からは、拙速な政策変更という声もあるが、あまりに遅すぎた転換、というのが私見である。

 この間どれだけ経済がいびつになったのか。事実上の財政ファイナンス(日銀の国債直接引き受け)の結果、日銀の国債保有額は600兆円を超え(24年3月)、国債残高は1068兆円(23年12月末)、GDP(国内総生産)比2・6倍に達した。金利が1%上昇しただけで日銀保有国債の評価損が40兆円、国債利払い費は8・7兆円(33年度)増える、という身動き取れぬ「雪隠(せっちん)詰め」の状態だ。麻薬のような金融政策は、日本経済の構造転換を遅滞させ、イノベーション力を貶(おとし)め、国際競争力を弱めた。経済全体の歪(ゆが)みを正し、負の副産物と向き合うには相当な犠牲と混乱が伴うであろう。

 ただ、こぼれたミルクは器には戻らない。我々は与えられたものの中で生を営み、人生設計を立てていくしかない。ゼロ金利から恐る恐る金利を引き上げていく経済社会の中で、中央銀行や国家がそれぞれ破綻を回避してくれることを切望しつつ、産業経済に資本主義の魂がまた宿り始めるかを横目で見ながら、賢く、健全に、楽しく経済活動を営んでいくしかない。だが、我々個々の知恵には限界がある。せめて賢者の指南がほしいところである。

 この稿では、その経済活動の中でもどう資産運用すればいいのか、金利復活時代の投資術について、清原達郎氏から学びたい。清原氏は元野村証券マンで、米国大手投資銀行を経て1998年和製ヘッジファンド「タワーK1ファンド」を立ち上げた伝説のカリスマトレーダーだ。2005年に発表された最後の高額納税者(長者)番付で、約100億円を稼ぎ、全国トップに躍り出たことを覚えている人もいるかもしれない。

清原氏に指南役をお願いした理由は三つある

 一つはその哲学だ。野村証券に勤務時、その「高速回転商い」という手数料を手っ取り早く稼ぐ、顧客よりも会社利益を優先する商法、客に損をさせたことを自慢する文化に強烈な違和感を覚え、顧客も運用側も共に儲(もう)かる道を求めて、ヘッジファンドの世界に入った、という。その反骨とウィンウィンの精神、良しではないか。投資先選定では、常識を疑うことを原点に、逆張りの発想とミクロへのこだわり、企業の潜在力への見極めを重視、世の中にあまり注目されていない「割安小型成長株」を発見し、経営者にも丹念に取材した上で集中投資した。資本主義の良きダイナミズムを感じさせる手法である。

 二つにその実績だ。1998年7月にファンドをスタートさせ2023年6月に閉じるまで、ITバブルと崩壊、リーマン・ショック、コロナといった荒波を越え、25年間で何と93倍のパフォーマンス(投資における運用実績)を上げた。

 三つにその覚悟だ。この世界からの引退を決め、後継者がいなかったことから、自らの過去の失敗、成功談、蓄積してきたノウハウをすべて一冊の本にぶち込んで、個人投資家として本格的に日本株に取り組もうという人々に対し、惜しげもなくその膨大な文化遺産とでも呼ぶべき投資術を伝承しようという人である。その著作『わが投資術 市場は誰に微笑むか』(講談社 24年3月)はすでに17万部売れているという。6年前咽頭がんの手術で声を失った清原氏に書面でインタビュー、再構成した。

金利上昇でも株式の優位は変わらない

 まずは10年続けた異次元緩和策、どう評価?

「当初、日銀の異次元緩和の話が出てきた時に市場関係者が一番心配したのが、金のバラマキと円安による『インフレ』でしょう。逆に言えば『悪性のインフレ』にならなければ日銀は何をやってもいいのです。『悪性のインフレにならなかった』という意味では日銀の大勝利に終わりました。巷(ちまた)で言われている異次元緩和政策の負の遺産というのは荒唐無稽(むけい)、或(ある)いは誇張されていると思います。あえて申し上げれば『金利がゼロ!お金がただ!どんどん使え!』ということで政治家が金を使いまくって財政規律が緩んだことでしょうか。政府系のファンドの乱立などが典型的な例ですが。しかしこれは日銀の責任ではありません。政府がどれだけお金を使うかは日銀と離れた政治的プロセスで決まるわけですから」

 今後10年の日本経済は?

「私にはマクロ経済を予想する能力はありませんが、漠然と以下八つに整理しています。①実質GDP成長率は良くても0%②人口は減り続け超高齢化社会になるが、外国人労働者数は伸び悩み労働人口は半永久的に減少③インフレ率は0~2%の間に収まり、スパイラル的インフレは起きない④金利は上がっても短期金利は最大1%、長期金利は(10年もの国債)は2%まで⑤為替は1㌦120円へと円高が進む⑥上場企業収益の伸び率は0~2%⑦増配、自社株買いは続く⑧新NISA(少額投資非課税制度)で個人投資家は激増、政府は株式市場にネガティブな政策はとりにくくなる」

 要は大きな変化はない?

「迫力のないつまらない予想でしょう? 実質ゼロ成長だけど高齢化で介護・医療費が増え実感ではマイナス成長になると思います。日本の金利が低いままなぜ1㌦120円かと思われるかもしれませんが、これは米国の金利が多少低下することを前提にしています」

 日本株市場の見通しは?

「今の金利水準なら債券より株式の方が大幅に割安です。少しぐらい金利が上がっても株式の優位性は変わらないでしょう」

 内需株をどう見るか?

「若者が急減する日本では基本内需に軸足を置いたビジネスの成長はないでしょうが、内需株が全くダメかというとそうではありません。縮小均衡する市場で未上場の同業他社の撤退で上場会社のシェアが上がったり、残存者メリットで利益率が上がる例があります。かつて低収益だった鉄鋼、海運業でも経営統合による寡占化の進展で、驚くほど収益を上げている例があります。縮小市場では、経営統合の速度がそれを上回れば株式投資で儲かる可能性はある程度あります」

 日本人の金融リテラシーについてどう評価?

「驚くほど向上してきたと思います。オルカン(オール・カントリーの略。世界約50カ国約3000銘柄に分散投資する投資信託)が人気なのがその証拠でしょう。手数料の低い、合理的な商品だと思います。個人投資家もネット証券を通じて育ち、それなりに富が蓄積されてきているようですし、企業経営者も株主に目を向け始めました。好循環になってきていると思います」

経営者が成長への意志を持っているか 

新NISA活用法は?

「株式投資初心者の方には毎月同じ額をインデックスファンド(TOPIX、S&P500、オルカンなど)に投資していく『積み立て投資』を強くお勧めします。これまで日米とも勢いよく相場が上がってきたため『今この水準で投資を始めて大丈夫なの?』と思われている方も多いのでは。しかしもし相場が暴落すれば安い値段でよりたくさん投資できるわけですから今から始めても何の問題もありません。相場が大きく下がった時に投資をするのはとても大事ですが、積み立て投資なら自動的に相場暴落時に安値で買えるのでお勧めです。なお、私はSNSをやりませんので、私を名乗るアカウントはすべて詐欺です」

 暴落のリスクもあると。

「10年に1回の割合で過去株式市場は暴落してきたので、何かとんでもないことが起きる可能性は覚悟しておかねばならないと思います。例えば核戦争です。さすがに私も戦略核は使われないと信じたいのですが、戦術核が使われる可能性は人々が覚悟しているよりかなり高いと思います。逆に言うと、通常兵器による戦争では世界のどこで起きようが、日本の株式市場にはほとんど影響がないと思っています。リスクとしては他に、東海・関東大震災、コロナ以上のパンデミック、地球温暖化の加速、あるいは急速な寒冷化などがあります。暴落した時には、残りの資金をはたいて株を買うのが理想です」

 株はギャンブルでは?

「儲かりやすいギャンブルです。宝くじの期待値は40~50%。つまり100円使えば平均40~50円戻ってきます。競馬、競輪、競艇は75%。それに対し株式投資は100%以上の期待値になると私は思います」

 小型割安株どう発見?

「なぜ我々が小型株に注目するか。それは、割安株が多いのと独自のリサーチがしやすい。機関投資家が持っていないし、アナリストもカバーしていないからです。その『割安小型株』の中からどう『割安小型成長株』を発見するか。手間はかかりますが、これが日本の株式市場で一番儲けやすくて、しかも大きく儲ける方法です。具体的にはイメージの悪い業界がチャンスです。往々にして面白い投資機会が隠れています。例えば数少ない自己資本比率の高い中小型不動産株がお買い得になります」

「では、数ある小型株の中で長期的成長性があるものをどう見ぬくかです。経営者がその企業を成長させる強い意志を持っているかどうか。社長と目線を共有する優秀な部下がいるか。同じ業界内の競合に押し潰されないか。その会社のコアコンピタンス(強み)が成長と共にさらに強くなるか、といったポイントがあります。何よりも経営者のチェックが大事です。ホームページなどから社長の発言などを絶対に確認しておくべきです」

 トータルに振り返ってみて成功の秘訣(ひけつ)は何だった?

「自分が勝てる可能性が高い分野(小型株)、勝てるタイミング(暴落時の大型株買い)に絞って勝負をしたことが大きいと思います。それでも失敗だらけなのですから戦いの場を絞らなければ絶対に成功はなかったと思います」

半導体製造株などのバブル性に要注意

 1990年の金融バブル崩壊と失われた30年についてどう分析する?

「なんであんなに強烈なバブルになったのか私にも理解できません。かなり複合的な理由があったのだと思います。大きな流れとしては『日本は戦後無茶苦茶(むちゃくちゃ)頑張ってきてようやく米国に追いついた。俺たちは裕福になったし停滞している米国なんかより勢いがある』という『達成感』『優越感』『陶酔感』のようなムードがあったのだと思います。失われた30年というのはそのバブルがいかに大きかったか、ということなのでしょう。反動もまた大きかったのです」

「大田淵」こと田淵節也元野村証券社長がかつて「バブルとは忘却である」と喝破していた。今の株価をバブルと呼ぶ人もいる。

「バブルとは一言でいえば『祭り』でしょうか。日本株については今の株価は全体としてはバブルではありません。ただし半導体製造装置株など一部の銘柄の株価はバブルっぽくなっているので要注意です。バブルになるためには日本経済や企業収益の見通しについて人々がもう少し強気になる必要があると思います。確かに株価は短期間で急速に上げてきましたので『祭り』を楽しんでいる投資家はいるでしょう。でもそれはまだごく一部であって祭りの火が全体に燃え移っていくような状態にはなっていないと思います。あくまでイメージの話ですが」

 中国経済をどう見る?

「中国の不動産バブルの崩壊は簡単に見通せました。『マンション価格/年収』が異常に高かったのと、これは見落とされがちなのですが『中国のマンションは造りがひどすぎて数年で強烈に劣化して場合によっては住めなくなる』からです。ただ、『じゃあそれで日本株をどうトレードしたら儲かるの?』という話になると良い投資のアイデアが思い浮かばないのですよ。逆に、米国と中国の関係がここまで敵対的になるとは私は思ってもいませんでした。『台湾を自分のものにするぞ!』とできもしないことを喚(わめ)き散らして経済的に打撃をこうむるといった馬鹿なことを中国が選択するとはとても思えなかったのです。私には中国政府の意思決定プロセスを分析する能力が欠如しているようです」

 トランプ現象どう見る?

「誰が大統領になろうが経済や株価にはほとんど影響はないと思います。『もしトラ』とかは心配のしすぎです」

    ◇   ◇

 清原氏の話を聞き、株投資と我々の取材活動との共通点も見えた。常識を疑い、逆張りし、ミクロにこだわる。そして、「割安小型成長」ニュースを発掘する。それが大特ダネに化けることもある。赤旗の裏金スクープもその一つであろう。


くらしげ・あつろう

 1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員

 4月16日発売の「サンデー毎日4月28日号」には、ほかにも「2024年入試速報 51国公立21私立大 医学部に強い高校・合格者数ランキング」「衆院補選自民0勝3敗 破れかぶれ『6月解散』全真相・鈴木哲夫」「血管が若い人は『見た目』も若い 血流を整え80歳の壁を超える!」などの記事も掲載しています。

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