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国際・政治 書評

中国の今を伝える半公式データソース『皮書』シリーズ 菱田雅晴

 中国関連の情報は今や世上にあふれている。中国自身から発せられる情報の量はかつて「竹のカーテン」に覆われ、外部世界が情報飢餓を嘆いていた往時とは雲泥の差がある。

 だが、ここへ来て、中国を知ることの難しさも浮き彫りとなっている。確かに、従来の党機関紙『人民日報』以下のいわゆる中央主流メディアのほか民間、地方メディアも活発となり、SNS上には瞬時に削除されるものも含めさまざまな個人の意見表明も増えている。しかし、そこには玉石混交どころか偽・誤情報も含まれるとされ、量的増加の陰に質的低下すら指摘される。

 開放華やかなりし頃は、問巻(=アンケート)調査を外国人が行うことも多く、社会学、民族学分野では必須の現地のコミュニティーに住み込んでの参加観察法による研究も実施されていた。しかし近年は中国に足を踏み入れること自体ためらう研究者も多い。反スパイ法の改正等、国家安全を第一とする中国での直接の情報収集活動に二の足を踏む動きはビジネス界にも広がっている。

 こうした中、中国に関する権威ある情報、確実なデータをどのように入手したらよいのだろうか。

 手掛かりの一つとして、中国社会科学文献出版社が毎年発行する『皮書』シリーズが挙げられる。同出版社は中国社会科学院直属の出版社で、人文社会科学分野を中心に学術図書を刊行する専門出版社として知られている。表紙の色が対象分野ごとに分けられ、《藍皮書》(経済、社会)、《緑皮書》(生態、環境、観光)、《黄皮書》(国際情勢)の3系列がある。防衛白書、原子力白書、外交青書等日本の省庁が公表する「白書」にもほぼ匹敵する。“中国○○形勢分析与預測”というサブタイトルにも示される通り、対象分野におけるそれまでの発展状況を分析、評価した上で展望を示すという「白書」風の記述スタイルだ。だが、この「皮書」シリーズは、中国の省庁が直接公表するものではない。ここに収録されているのは、当該分野のオーソリティーとされる学者、研究者、実務家による研究報告、調査リポートであり、その内容は各省庁の部門利害を超えた客観的なものとして半公式ながらも中国の今を知る権威ある実用的なデータソースとなっている。

(菱田雅晴・法政大学名誉教授)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2024年7月9日号掲載

海外出版事情 中国 半公式データ集『皮書』に手掛り=菱田雅晴

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